「完璧なリモートチーム」の構築を目指すグーグルの研究チームが、2年を費やし、5000人を超える従業員を調査した。その知見を紹介しよう。

全世界に散らばるチームメンバー

リモートワーカーとして数年働いた経験から、私はバーチャル職場の難しさを知っている。
実際には一度も会ったことのない同僚との関係の構築、さまざまなタイムゾーンをまたぐ仕事、本来の意図どおりに機能しないテクノロジー。それらはどれも、対応を誤れば、チームの成功のチャンスをつぶしかねない。
グーグルもそれを承知している。同社で働く10万人近い従業員は、150もの都市に散らばっている。国で言えば50カ国、大陸で言えば5大陸だ。
リモートチームに成功をもたらすものは何か。それを突き止めるために、グーグルの「ピープル・イノベーション・ラボ(PiLab)」は2年を費やして、5000人を超える従業員を調査した。
健康と業績、何よりも結束を測定したPiLabは、チームメンバーが全世界に散らばっている場合に仕事の一貫性を保つ方法について、推奨事項を考案した。

同僚とのつながりを築く難しさ

彼らは何を突き止めたのだろうか。結論のひとつは、とくに期待の持てるものだ。
PiLabのマネージャーを務めるベロニカ・ギルレインは「世界中の同僚との協働が求められる人やチームと、日々のほとんどの仕事を同じオフィスの同僚と行なっている社員を比較したが、ありがたいことに効率、業務成績、昇進という点で違いは見られなかった」と書いている。
「健康水準も、全体的に変わりがなかった。バーチャル環境で働く社員やチームは、リモートワークではないチームのメンバーと同じように、健康的な睡眠や運動などの重要な習慣を重視し、安定したワークライフバランスを優先する方法を見つけている」
これは素晴らしいニュースだ。というのも、リモートワークは企業のコストを大幅に下げると同時に、従業員の幸福を高める可能性があることを示唆しているからだ。
だが、その可能性を実現するのは、簡単なことではない。ギルレインによれば、調査した従業員の多くは、リモートワークでは同僚との「つながりを築くのが難しくなる」とも話していたという。例としては、複数のタイムゾーンでのスケジュール管理に余分な頭を使うことなどが挙げられる。
「テクノロジーそのものが、制限要因になることもある」とギルレインは指摘している。「チームメイトが互いに知りあったり、信頼しあったりする助けになるはずの即時応答の会話が、故障しがちな動画や不完全な音声のせいで、価値のあるものではなく、むしろトラブルと見なされてしまう」

感情的知性を働かせるポイント

では、そうした難問をどうすれば克服できるのだろうか。
リモートワークの場合も、やはり従来の管理原則があてはまる。ポイントは、バーチャル職場に特有のルールに適応させることだ。そのためには、ちょっとした感情的知性を使う必要がある。
グーグルは以下の3点を推奨している。
1. チームメンバーをよく知る
従業員は、「職場以外の生活」で起きることに関心をもってくれる経営者や同僚に価値を見出す。そのため、グーグルはミーティングの際に、すぐに議題に飛び込むのではなく、まずは週末の出来事などの個人的な会話をする時間をとることを推奨している。これは結びつきを深め、信頼関係を築くのに役立つ。
「チームを知ること」には、ミーティングスケジュールの把握も含まれる。ほとんどの人はミーティングを、特定の曜日や1日の特定の時間に行いたいと思っている。そうした希望は、本人に訊かなければわからない。
また、チーム全員の便宜が図れるように、ミーティングのスケジュールをローテーションで設定してみよう。誰かが労働時間外に参加しなければならない場合には、その人にちょっとした感謝を示せば、自分の努力が認められたと感じてもらえるはずだ。
2. 明確な境界線を引く
「規範とは、チームがどうやって協力して働くかに関して期待されるあり方を明確に定めるものだ」とPiLabは書いている。「しかし多くの場合は、こうした規範が明示されておらず、暗黙の了解になっている。そのため、混乱が生じる場合がある」
推測したり、偶然に委ねたりするのではなく、以下の点に関するガイドラインを明確に伝えるようにしよう。
コミュニケーション(労働時間外のメール返信/ping応答、期待される応答までの時間、複数タイムゾーンでの情報共有など)
ミーティング(メンバーが労働時間外のミーティングに参加すべきか、参加すべきでないかなど)
スケジュール(プライベートな時間、休暇など)
また、そうした規範の策定に参加するチームメンバーは、多いほどいい。
3. つながりを育む
同僚とのあいだで信頼とつながりを築くためには、努力が必要になる。同僚が数百キロ、場合によっては数千キロも離れたところにいるのなら、なおさらだ。
そのため、個人レベルでつながりを築くために、少し余分な努力をすることをPiLabは推奨している。
「電話やインスタントメッセージで、1日や週末の計画を訊ねるといい」とPiLabは書いている。1対1のミーティングを活用してメンバーの体験を話し合い、どうすればより良くメンバーをサポートし、仕事に参加させられるかを検討しよう。

チーム全員が1カ所に集まる機会

最後にひとつ覚えておいてほしいのは、こうした推奨事項はどれも、対面での交流にそのまま代わるものではないという点だ。そのため、チーム全員が1カ所に集まる機会を、できるだけ多くつくるようにしよう。そうしたミーティングを特別なものにして、チームとその懸命な努力を称えるといい。
どうしても参加できない人については、バーチャルでの接続を促し、自分もその場の一員なのだと感じてもらえるように、できるだけのことをしよう。
自分の役割を、マネージャーだとか、チームのリーダーだとかと考えてはいけない。PiLabは「みずから見本となり、リモートチームをよく知るために大きな努力をするマネージャーは、大きな影響を与えられることがわかった」と書いている。「ちょっとした共感的つながりが、大きな効果を生む」
忘れてはいけないことは、最も効率的に仕事を達成できる方法が、最善の方法とは限らないということだ。これは、バーチャル環境にはとくにあてはまる。
効率を追求するのではなく、必要な時間をとり、必要なリソースを費やして、メンバーを大切にするようにしよう。そうすれば、リモートワークの真の可能性を解き放てるはずだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Justin Bariso/Founder, Insight、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:ymgerman/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.