インディアナ州フォートウェイン市、ゼネラル・エレクトリック(GE)の工場跡地に6500万ドルを投資。廃墟となった工場跡地を、多目的地区にリノベーションする。

地方債により4500万ドルの資金

インディアナ州フォートウェイン市には、1世紀以上も前に建てられ、今は廃墟となっているゼネラル・エレクトリック(GE)工場の総合施設がある。
かつては、ここが同市労働力の約40%を雇っていた。だが今は、目にするたびに、ダウンタウンが昔と変わってしまったことを思い出す廃墟となっている。
この場所が、地方債により4500万ドル(約50億円)の資金を得て変わろうとしている。製造業で街が活気にあふれていた時代にGEが使っていた18棟の建物に、アパートや店舗、オフィスを入居させ、39エーカー(0.16平方キロメートル)の工場跡地をよみがえらせるプロジェクトだ。
昔の工場の施設を、トレンディなアパートやショッピングセンターにつくり変えるリノベーションは、工場地帯として栄えた過去を持つ大都市に共通して見られる。ニューヨークのミート・パッキング・ディストリクトにある「チェルシーマーケット」の成功が良い例だ。
しかし、もっと小規模な南西部の諸都市も、さびれた工場跡地を、オフィスやアパート、小売店、娯楽設備が集まった複合施設につくり変えている。そしてそのための資金として、総額3兆8000億ドル(約424兆円)規模の地方債市場を利用している。
不動産投機のために長期借入をするのは、紛れもなくギャンブルだ。だが、人口約26万6000人のフォートウェインのような都市にとって、テック中心の労働力と、都市環境を好む若者たちによって動かされる全米規模の経済から取り残されないようにするには、これが唯一のチャンスかもしれない。
ミシガン大学で社会学を研究するレン・ファーリー教授は「AIやコンピューター科学の分野でクリエイティブなスキルをもっていたり、進んだトレーニングを受けたりしているのは大卒の若者たちだ」と指摘する。「彼らの多くが都会的なライフスタイルを求めるが、サンフランシスコやシアトルに移住するのはコストが高すぎる」

「エレクトリック・ワークス」

4億4000万ドル(約491億円)をかけてGEの工場跡地を再利用する開発プロジェクトは「エレクトリック・ワークス(Electric Works)」と呼ばれている。今は廃墟となっているが、フォートウェインで製造業が盛んだったころに中心地だった広大な土地をよみがえらせるプロジェクトだ。
ダウンタウンの南西にこの施設が完成すれば、今後20年間で、1億ドル以上の地方税収入が見込めるという。
開発地には、22万5000平方フィート(約2万平方メートル)近い高級オフィススペースや、約100世帯のアパート、8万3000平方フィート(約7700平方メートル)の小売店スペースが含まれる。
このプロジェクトを進めるRTMベンチャーズの担当者ジョシュ・パーカーは「この工業施設に対して、地域の人々は特別な感情を抱いている。その思いはとても語りつくすことはできない」と語る。「われわれがこの場所で何をするかだけではなく、それがより広い範囲に何をもたらすかということが重要だ」
アメリカ北東部と中西部の、かつてもてはやされた都市部は、アメリカ製造業の落ち込みと人口の減少、特に学歴のある若い労働人口の減少によって痛手を受け、貧困率が急増している。
シンクタンク「マンハッタン・インスティテュート」(Manhattan Institute)の最近の研究によると、調査対象となったラストベルト(アメリカ中西部から北東部の、主要産業が衰退した工業地帯)の96都市のうち4分の3で、昔より人口が減っているという。そしてそのすべてで、1970年以降貧困率は上がっている。

各地で広がるリノベーションの動き

しかし野心的な開発者たちは、廃墟となった工場に注目し、そのレンガの建物や広い部屋、板張りの天井を活用して、新しい多目的地区をつくろうとしている。
人口約12万1000人のペンシルベニア州アレンタウンは、ベスレヘム・スチールや、マック・トラックス(Mack Trucks)などの大規模雇用主が軒並み出て行ったあと、非課税のレベニュー債(事業の目的別に発行される債券)を利用。その一部を、小売店や外食産業、商用オフィス・センター、さらには広さ1万平方フィート(約930平方メートル)のアリーナ(競技場)などに融資している。
以来、この開発プロジェクトは、リーハイ・バレー・ヘルス・ネットワーク(Lehigh Valley Health Network)やバンク・オブ・アメリカなど、いくつかの有名企業をアレンタウンの中心地に呼び寄せている。
また、バージニア州リッチモンドは、3400万ドル(約38億円)の税額控除と、非課税の借入金2600万ドル(約29億円)を利用し、アメリカン・タバコ・カンパニーの敷地だった場所を高級アパートにつくり変えている。
インディアナ州インディアナポリスも、かつて盛んだった製造業の跡地に目を向けている。ウィスコンシン州を拠点とするヘンドリックス・コマーシャル・プロパティーズ(Hendricks Commercial Properties)が、コカコーラのボトリング工場跡地を再開発し、ブティックホテルやオフィススペース、フードホールを含む3億ドル(約335億円)の多目的プロジェクトを進めているのだ。

歴史的な場所を都市再生の拠点に

ミシガン・エコノミック・センター(Michigan Economic Center)のディレクターで、ミシガン大学で経済学の講師も務めるジョン・オースティンは「このような工場施設を、都市再生の拠点としてつくりかえるパターンと、じつに素晴らしいネットワークが存在する」と語る。
フォートウェインなどの地方自治体は、このプロジェクトのために、4500万ドル(約50億3000万円)の免税債と、郡の1%の食品飲料税を含む6500万ドル(約72億6000万円)の公的資金を供給する。残りは、国と州、民間の資金で賄われる。免税債は第3四半期に売却が可能となる。
これまでのところ十数件のテナントが、エレクトリック・ワークスでスペースを借りる意思を公表している。
その中には、パークビュー・ヘルス(Parkview Health)、フォートウェイン・メタルズ(Fort Wayne Metals)、メディカル・インフォマティックス・エンジニアリング(Medical Informatics Engineering)、それにインディアナ大学が含まれる。建設は2019年秋に始まり、2021年末に完成する予定だ。
ただし、マンハッタン・インスティテュートの上級研究員で、国家財政と地方財政に詳しいスティーブン・エイドは、このようなプロジェクトには危険がないわけではないと警告している。
「債券は、かなり長期的な視野で見る必要があるかもしれない。このような都市が10年後にどうなっているかはわからない。ましてや20年後、30年後など、わからないのだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Claire Ballentine記者、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:©2019 Bloomberg L.P)
©2019 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.