不動産業界に迫る破壊的イノベーション
今後10年で、家はモノからサービスへと変わっていくだろう。スマホでウーバーを呼んだり、出前を頼んだりするのと同じ感覚で、アプリで家を借りたり、購入したり、売ったりできるようになるのだ。
これは住宅業界にとっては深遠な変化だ。
歴史的にこの業界は「人がモノを言う」業界だった。なにしろ1件の取引が成立するためには、じつに多くの職種が関わっている。
不動産仲介業者、住宅ローン仲介業者と実際の融資業者、弁護士、不動産権原保険業者、住宅診断士、管理会社──。この絡み合いが、破壊的イノベーションを阻止する強力な壁となってきた。
その一方で、いくつかの大きなトレンドがこの業界を襲っている。
・米国のサブプライムローン危機に端を発する世界金融危機と、社会全体の格差拡大により、多くの人にとってマイホームは手の届かないものになりつつある。
・2017年11月に成立した米国の税制改革法で、住宅関連の控除が撤廃または縮小されたことが、マイホーム派ではなく賃貸派の増加を後押しするとみられている。
・トランプ政権の移民取り締まり強化、中国など貿易相手国への追加関税、そして貿易紛争などの要因により、住宅着工件数は史上最低レベルに落ち込んでいる。
・富裕層以外にとってマイホームが手の届かないものになりつつあるのは、世界的なトレンドでもある。OECD(経済協力開発機構)によると、33カ国中18カ国(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、ノルウェー、スウェーデンなど)で、住宅価格は平均所得を上回るペースで上昇している。
住宅スタートアップ「iバイヤー」の急増
起業家や投資家は、こうしたトレンドに巨大なビジネスチャンスを見出している。住宅の購入、賃貸、販売をこれまでになく容易に、迅速に、そして簡素化することによって大きな利益が見込めるというのだ。
米国では「iバイヤー」と呼ばれる業者が急増している。この分野の大手と言えるジロウ(Zillow)やレッドフィン(Redfin)のほか、オープンドア(Opendoor)、ノック(Knock)、オファーパッド(Offerpad)といった住宅仲介スタートアップなどがある。
iバイヤーはまず、アルゴリズムなどを使って家に値段をつける。
一握りの厳選エリア(つまり似たような築浅の建売住宅が大量にあるアトランタ、ラスベガス、フェニックスなど)で自宅を売りたいと思っている人が、iバイヤーのウェブサイトやアプリで自宅に関する情報を入力すると、全額現金払いのオファーが来て、契約が成立する。
この間わずか数日。その後iバイヤーは、その物件を改めて売りに出す。
なんだ、ただの転売屋じゃないかと思うなかれ。iバイヤーが目指すのは、とにかく消費者が自宅を簡単に売れるようにすること(ただし通常は、老朽化していたり、リフォームが必要な家ではないことが条件だ)。
iバイヤーを使えば、不動産屋を雇ったり、見学者とスケジュールを調整したり、その他もろもろの厄介な手続きを省くことができる。その代わり、買取価格は通常よりも少し安くなり、iバイヤーはそれを少しだけ高くして売る。マージンは決して大きくないが、取り扱い件数は増えている。
とはいえ、もし新たな不況がやってきて、家が売れなくなったらどうするのか。iバイヤーの帳簿にはたくさんの家が残ってしまう──。
それなら賃貸に出せばいい。
テック企業が住宅を所有し、賃貸に出す
住宅価格が高騰した結果、米国でも世界でも賃貸派が増えている。住宅市場は循環的だから、いずれ価格は下がるだろうが、かなりの数(ひょっとすると大多数)の住宅がテクノロジー企業によって所有され、賃貸に出される日が来ると考えるのは、決して突飛な想像ではない。
ジロウは最近、自社アプリに賃貸アパートの申し込みや賃料の支払いを簡単にするツールを追加した(ただしアパートを所有するのは第三者)。
エアビーアンドビー(Airbnb)‎とウィワーク(WeWork)も、着々とその方向に向かっている。
ウィワークは過去2年間に、賃貸アパート「ウィリブ(WeLive)」をワシントンとニューヨークにオープンした。ここは通常のアパートのように月ベースで借りることもできれば、ホテルとして1泊から数泊まで柔軟に使用することもできる。
エアビーアンドビーも、マイアミの不動産開発業者ニイド(Niido)と組んで、共同ブランドのアパートを建設している。居住者はあらかじめ、自分の部屋を短期賃貸に出すことに同意している。
ニイドとエアビーアンドビーは、利用者や利用期間、そして最も人気の高い部屋などについてデータを集め、最適価格から最適アメニティーまで、将来よりきめの細かいサービスを提供するために利用するつもりだ。
もともと宿泊ビジネスを展開している企業にとって、こうしたシフトはある意味で自然な流れだ。だが今、不動産業界とは無縁だったテクノロジー企業も、この分野に参入しつつある。
「サービスとしての住宅」が現実に
アマゾンが高級スーパーのホールフーズ・マーケットを買収したとき、ツイッターでは「いずれアマゾンは食品から住宅まで、社会のあらゆる分野を動かすようになるのでは」というジョークが飛び交ったが、いまやそれは冗談ではなくなりつつある。
すでにアマゾンでは、サードパーテイーがプレハブの家を売っている。アマゾンが住宅の売買そのものに乗り出すことはないかもしれないが、住宅の「管理センター」になる意欲は満々のようだ。
アマゾンは2017年5月、米最大の住宅建設会社レナー(Lennar)と提携して、レナーが2018年に新築する住宅3万5000件すべてに、音声AIアシスタント「アレクサ」対応のスマートデバイスを設置することで合意した。
すでに市場には、5000万種類ものアレクサ対応機器が存在しているほか、アマゾンが2017年3月に、玄関のドアベルとセキュリティーカメラのスタートアップ、リング(Ring)も買収していることも見逃せない。
アップルとグーグルも、スマートホーム市場にしっかり参入している。グーグルにはスマートスピーカー「グーグルホーム」があるし、スマートセキュリティー機器の「ネスト」を傘下においている。
その真の狙いは、これらの機器を売ること自体よりも、私たちの家の中で起きていることについて、もっと多くのデータを集めて、もっとターゲットを絞ったサービスやプロダクトを開発することである可能性が高い。
テック大手が私たちの家の「大家」になると決めたら、広告を打ったり、実際の物件の引き渡しをしたりするのも極めて効率的になるだろう。スマートロックやアプリや顔認識でドアの鍵を開けたり、屋内外の人の動きを追跡したりするのも簡単だ。
不動産業界でテクノロジーの役割が大きくなるにしたがい、賃貸と購入を分ける線はぼやけてくる可能性が高い。いわば「サービスとしての住宅」だ。結婚して、子どもができて……という人生の節目節目に、テクノロジー企業が新しい生活スタイルにあった家を提案してくる日もくるかもしれない。
だが、それでマイホームを購入したとしても、その家を本当に動かしているのは誰なのか。所有者である私たちなのか、それとも私たちが招き入れたテクノロジーなのか──。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Carl Franzen/不動産ニュース「Inman」編集長、翻訳:藤原朝子、写真:nathan4847/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.