西野亮廣がオンラインサロンを「オワコン」だという理由

2019/4/9
 いま新しい経済の潮流が生まれている。「共感経済」や「感謝経済」など、共感や信頼関係をベースに営まれるコミュニティやサービスたちだ。
 その潮流を担うキングコング・西野亮廣氏、ポケットマルシェ代表の高橋博之氏とPoliPoli代表の伊藤和真氏が集い、「HOPE NIGHT」が2月に開催された。
 「ビジネスは希望を創る」というコンセプトのもとリリースされたタブロイド紙『HOPE by NewsPicks』。昨年11月に配布を開始したVol.2から、読者の人気投票で見事上位を獲得した起業家たちに依頼してのトークセッションだ。
 前半ではキングコング・西野亮廣氏が登壇。
「オンラインサロンはもうオワコン!」「生き残るためには、敗北を売る」など、人気オンラインサロンを運営する秘訣というシンプルな質問に対して、予想を超える驚きの答えが返ってきた。
 後半ではポケットマルシェ代表の高橋博之氏とPoliPoli代表の伊藤和真氏が登壇。
「政治家も野菜の生産者も顔が見えない」「ちゃんとした意見を持つ人にこそ権力を持たせるべき」など、日本の社会課題を解決し、新たな市場を作る2人には共通点が多かった。
 会場の応募は定員を上回り殺到。用意していた100席も満員となった。「#HOPE」「#ビジネスは希望を創る」というハッシュタグを通し、SNSでも意見が飛び交うほどの白熱した時間となった。その様子をリポートとしてお送りする。
西野亮廣「生き残るために『敗北』を売る」
 いま西野亮廣氏の活躍といえば、2018年に開設された月額制オンラインサロンの興隆である。登録者は、1年間余りで2万3000人。学生から主婦、企業経営者まで、多岐にわたるファンを獲得している。
 ただ情報を流すだけでは、決して彼のようなサクセスストーリーは生み出せないはずだ。彼独自の情報発信の 仕方や、より踏み込んだファン獲得の方法についてひもとく。
会員数が2万3000人を突破したオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」
冒頭、オンラインサロンの秘訣を聞くや否や、「オンラインサロンビジネスは基本的に右肩下がり。自分のサロンですら、最大でも4万〜5万人で拡大が止まる」と断言。オンラインサロンというビジネス自体の限界について、明晰な持論を展開した。
1980年兵庫県生まれ。1999年梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。芸能活動の枠を超え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。著書に、絵本『Dr.インクの星空キネマ』『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』、小説『グッド・コマーシャル』、ビジネス書『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『バカとつき合うな』(堀江貴文氏と共著)『新世界』があり、全作ベストセラーとなる。絵本『チックタック 約束の時計台』が4/18発売予定。
西野 オンラインサロンの市場規模はわずかに成長しているかもしれませんが、それは認知が広がって、サロンオーナーの頭数が増えただけの話です。
 実際のところは2018年の6月くらいにオンラインサロンバブルははじけて、各サロンごとの会員数は大体どれも右肩下がりですね。「衰退」というよりも、「オンラインサロン本来のサイズ感に向かっている」と見た方がいいかもしれませんね。
 そんな中、会員数を伸ばそうと思うのなら、サロンオーナーは何を売るのか考えた方がいいと思うんですけど、結論から言えば、「入会すればお金が稼げるようになります」みたいなノウハウ系のオンラインサロンはもう無理ですね。
 そうやってしまうとユーザーがオンラインサロンに入ったのに、お金を稼げなかったら「稼げる身体になってないやないかい」と言って辞めるし、もし稼げるようになっても「稼げるようになりました。どうもありがとうございました」と言われて、辞めてしまいます。
では、西野氏自身はどのようなコンテンツを発信しているのだろうか。
西野 僕が売っているのは情報じゃなくて、『物語』です。例えばヒット作品って主人公の感情曲線が、大体N字なんですよ。良いことがあって、上がって、とんでもない敵に出くわして負かされて、ドンと下がる。仲間も全員離れていって、ここからもう一回上がっていきましょうよっていう。サロンオーナーも今はこれを描かないといけないですね。
 そもそも僕なんて、一昨年まではたぶん好感度低い芸人だったんですよ。でもリベンジ成人式したりだとかしていると「あいつ実はいいやつなんじゃね」となってしまって、最近好感度低いビジネスもできなくなっちゃいました(笑)。
 前までは負けていたんですけど、頑張っているうちに勝っちゃったから、「これは大変だ」と。ここで勝ってしまったらだめで、負けに行かなきゃダメなので。でもあえて嫌われに行ってもばれちゃうじゃないですか。
 次にどうやって負けを演出するんだろうって考えたときに、「べらぼうな借金だ!」となって、総工費15億円ほどの美術館を作ることに決めました。べらぼうな借金なら、小学生でも「西野が死にかけてる」ということが分かるじゃないですか(笑)。
 20代は芸人やって、30代は絵本作家。今38なんですけど、ここからは、また別の仕事をゼロから始めます。もちろん沈むと思いますけど、問題ないです。
 皆さんに応援していただくには、成功よりも、N字の感情曲線を描くことの方が重要なので。
絶頂になれば、その状態をなるべく維持しようと考える人が多いはず。しかし、西野氏は自分から「負け」を作りだし、またはい上がるという物語を実践している。とことん身を削って物語を語る人物だからこそ、フォロワーも目が離せないのだろう。
気になるのは彼がオンラインサロンのようなダイレクト課金型ビジネスにこだわる理由だ。
西野 昔レギュラー出演していたテレビ番組が、視聴率は良かったんですけど、局の都合で終了してしまったんです。テレビ局員であれば、また新しく別の仕事が振られますが、そこには家族を養っているフリーのスタッフさんもいました。僕は、彼や彼のご家族のことを守ることができなかったんです。
 その時に、自分たちの人生のハンドルをテレビ局の編成に握らせるのはあまりにも無責任だと感じ、首を切られても自走できるシステムを作っておこうと思いました。そういうものを作れば僕は友達やスタッフを守れるので。その一つがオンラインサロンですね。
期待を上回る経験により経済が回っていく
始めるのは簡単だが、右肩上がりで続けるのは困難なのが有料オンラインサロンの運営。どういう発信者がオンラインサロンを始めるのに向いているのだろうか。西野氏がサロンオーナーの絶対条件として掲げるのは「作家性」である。
西野 クラウドファンディングも濃いコミュニティのオンラインサロンも「宗教でしょ」と揶揄されることがあります。そういう人たちに理屈でいっても論破はできなくて。論破したところで相手は不快になるだけなので。吹っ掛けてくる人を黙らせるためにはちゃんと成果物を出さないといけない。
 彼らを黙らせるには強烈な「作家性」が必要ですね。ホリエモンならロケットを飛ばす、箕輪さんなら本を100万部売るみたいに、作品をつくっていないと、世間からサロンメンバーへの攻撃が止まらないので。水戸黄門の印籠のように、サロン発の作品を出すことが大切だと思います。
 あと基本的にはサロンに限らずお店でも会社でもリピーターがいないと回らないですよね。じゃあどうやってリピーターをつくるかというと、計算式があって、“満足度−期待値”です。
 たとえば、集客のうまい観光地って、パンフレットに「奇跡の一枚」は載せないんですよ。奇跡の一枚を載せてしまうと期待値が上がりすぎて、現場に行ったときに「思ったほどでもなかったな」となって二度と来ないんですけど、うまい旅館はだいたい3〜4番目くらいの出来のものを載せる。そして実際に来た人にそのパンフレットのものを上回る体験をしてもらう。この瞬間にリピーターが発生するんですよね。
成功に居座り続けることのない西野氏。成功を手放した先に、負け状態が待っているにもかかわらず、立ち止まることなく壮絶な努力を欠かさない。その意欲の源泉とは一体何だろうか?
西野 結果ですね。ちょっと行動して結果が出れば、「もっとお客さんを楽しませたい」となるので。降って湧いてくるものではないですね。「モチベーションが上がらないから行動に移せない」とよく聞きますが順番としては逆で、行動して喜んでもらったときに初めてモチベーションが上がるんで、モチベーションの根源は『結果』ですね。
『結果』を出し続けるしかないです。
話題の起業家たちは新しい市場に血を通わせる
 第2部のセッションは、ポケットマルシェ代表の高橋博之氏44歳と、PoliPoli代表の伊藤和真氏20歳による年の差対談が行われた。
1974年、岩手県花巻市生まれ。‪岩手県議会議員を2‬期務め、2013年、NPO法人東北開墾を立ち上げ、食べもの付き情報誌「東北食べる通信」編集長に就任。2014年、「日本食べる通信リーグ」を創設し、全国と台湾50地域に同モデルが広がる。2016年、農家や漁師から直接、旬の食材を購入できるスマホアプリ「ポケットマルシェ」サービス開始。著書に、『人口減少社会の未来学』『都市と地方をかきまぜる ―「食べる通信」の奇跡』など。‬
 高橋氏は岩手県議会議員を務め、震災を機に、岩手県知事選に出馬。圧倒的に優勢だった現職候補を覆せず、落選。その後、事業家に転身したという異色の経歴の持ち主。
 生産者と消費者が分断されていることに問題を抱き、生産者のストーリーと食を提供するサービス「ポケットマルシェ」を開始。また、食べ物付き情報誌「食べる通信」を手がける「日本食べる通信リーグ」を創設し、日本全国と台湾の50地域に展開している。
九州大学非常勤講師。慶應義塾大学在学中。F Venturesでベンチャー投資に参画。自身で作成したアプリ事業を毎日新聞社に売却後、PoliPoliを創業。
 現在は慶應義塾大学に通いつつ企業を経営している伊藤氏は、ネット上の政治コミュニティが荒れるということと、政治家や行政に課題をスムーズに伝えられないことに問題を感じ、「PoliPoli」を創設。投票者と政治家をつなげ、要望を政策につなげられるサービスを始動した。
「食」と「政治」。サービス内容は異なれど、両者は日本が抱えている社会課題につながっている。2人はサービスを通し、日本の未来をどう見据えているのか。
都会と田舎のどちらの価値観の上に共存すべきか
セッションは、パネル上のキーワードを起点に進められた。最初のテーマは「ツルツル✕ゴニョゴニョ」。聞けば、地方と都会の関係性についての話題である。「ポケットマルシェ」で地方生産者と都心部の購入者をつなげる高橋氏は、田舎と都会の違いを指摘する。
高橋 この「ツルツル✕ゴニョゴニョ」というキーワードは、都会と田舎を指すワードとして使っています。都会はオープンで人間関係が「ツルツル」している。田舎はクローズで人間関係が「ゴニョゴニョ」しているってことなんです。
 都会は効率化が進み、個人を尊重して風通しが良くて、「ツルツル」とスムーズにやりとりができるようになっている。ただ、その分、個人個人はバラバラで、地域課題を相互扶助で解決したりみたいに、自分たちの手で暮らしを変えるリアルな手応えのようなものは感じにくい。
 田舎は共同体を重視するあまり、「ゴニョゴニョ」と風通しが決して良くない環境とも言える。非効率的なことがある半面、五感と感動を共有できる相手が近くにいるので、記憶に残る濃い時間を過ごせる環境としては豊かだと言える。つまり、コミュニケーションがディープ。ツルツルな都会ではなかなか得られない、田舎ならではの達成感や幸せがあるんです。
 つまり、田舎で重視することと、都会で重視されることは異なっています。田舎と都会の二項対立ではなく、それぞれの強みでそれぞれの弱みを補い合うことが大事だ。田舎と都会、どっちを選ぶか揺れている人もいるが、その揺れ動きをそのまんま抱きしめるような生き方をすればいいと思いました。どちらも認めるような生き方や社会が必要、というのが僕の考えです。複数の価値観、共同体に所属し、それぞれのところで自分らしさを発揮できれば、生活の質も豊かさも増すと思っています。
伊藤 僕も愛知の田舎出身なので、東京に出てきた時は、つい田舎と都会を対比しちゃってましたね。たしかにツルツルとゴニョゴニョ、どっちかじゃなくて、両方に所属しているのが良いですよね。
 たとえば「地方って固定化しているな」と思ったんです。でも九州大学で講義をしに福岡に行くと、福岡ならではの産業に引かれる。地方ならではの特性はやっぱりあるなと思っています。
 高橋さんがおっしゃっていた「どちらも認める」という考えでいうと、インターネットでのコミュニティがやっぱり素晴らしいですよね。鎌倉にいながら東京の人たちとリモートで働いたり、サロンを通していろんなコミュニティに所属できる。田舎と都会のコミュニティの在り方は、インターネットを通して変わっていくんじゃないかと思います。
「自分ごと化」するために大切なのは情報の“可視化”
次に両者が選んだキーワードは「可視化×価値化」。バーチャルな空間をサービスとして提供し、コミュニティを生み出すという両者の試み。両サービス共に、最初のフックはインターネットだが、地場との関係性が強い。その背景には「まずは興味を持ってもらう」という意図が隠されている。政治家と人々が一緒に未来を作るサービス「PoliPoli」においては、身近さを可視化することがはじまりとなっている。
伊藤 政治というと抽象的な議論になりがちです。でも本当は、もっと近くにあるといいですよね。政治を「自分ごと化」するには、地域の課題が大事かなと。「○○駅前の喫煙所の煙がひどい」「××は酔っぱらいが多いから治安が良くない」とか、そういうささいなことでも取り上げられるべきなんです。そうなると地域性を強くするプロジェクトは重要だと思っています。
高橋 政治の身近さが感じられないのと同じで、食べ物の生産者も、顔を見る機会がなく、雲の上の存在になってる。それはすごく嫌なんですよね。伊藤さんのようにエンタメ化させて、政治家が雲の上からグラウンドに降りてくるような仕組みを作り、そこにコミュニティを作るということは良いアイデアだと思うし、ポケマルがやっていることもある意味同じです。
伊藤 インターネット全体に言えることですが、「透明化」の実現ができると考えています。透明化することではじめて、農家のすてきな育て方や、魅力的な政治家を透明化してコミュニティを築くことができます。
 その一案として、政治家や一般市民が議論に参加するほど、コミュニティ内の通貨がもらえるような仕組みを作るのも良いと思っています。スコア評価だけじゃなくて、いろんなところで使えるポイントがあった方がおもしろいなと。
高橋 貨幣はユーザーの意識を可視化するためのツールにもなるんですよね。同じく「ポケットマルシェ」でも例えば自然災害にあって流通に出せない生産物をユーザーが応援購入したら、ポイントを与えるとかして、地方の生産者に貢献している人が可視化されるようにしていきたい。そういう人が一定期間内に地方を訪れた時に、そこで初めてそのポイントを使えるようになれば、地方と都会をつなぐ経済圏ができる。
伊藤 ビジョンを共有している人同士の通貨や、世界観を共有できる人たちだけのコミュニティで使える貨幣というのは魅力的ですよね。例えば、祭りをやりたくてもお金がない時、祭りのビジョンに共感した人だけがコミュニティで使えるコインが発行されたりしたら良いと思っています。ユーザーのプラットフォームという文脈で、通貨が動くのはおもしろいです。
ネットの中にもエモや温かさがあると信じる
最後のパネルテーマは「通貨✕体温」だ。サービスや仕組みを利用してもらうために必要なのは「人の血が通ったものを作ること」だと両者はいう。政治家や生産者という簡単には伝わらない魅力を、両者はどのようにして伝えるのだろうか。
伊藤 最近では「未来を作る活動にちゃんと向き合っている人」への信頼感が生まれている、そういう人が社会的に認められつつあると肌で感じます。そうした人々の情報を可視化することが大事です。そういった人々はある意味で、NewsPicksのプロピッカーのような存在と捉えています。
 未来に向き合っている人に権力を持ってもらうことで、ものを言えるユーザーが増えていくのではと仮定しているんです。すてきな政治家さんの魅力をちゃんとネット上で伝えるにはユーザーの数を増やす必要があり、かつ「PoliPoli」に登録する政治家の数を増やさないといけない。そうやってサービスを拡大していき、もっと政治に一般市民の声が反映されやすい環境を作りたいです。
 僕らの世代はネットにずっとつながっている環境にあるからこそ、ネットの中にも温かさやエモがあると信じています。そういう環境を僕ら世代が作っていく必要があるんです。
高橋 その「ちゃんとした意見を持つ人」という点で近いと思ったのが、うちの生産者のランク化についてです。毎月「生産者のベスト10」のようなランキングを作っているのですが、単に売り上げだけで評価するのではなくて、ユーザーといかにコミュニケーションをとったかによって、生産者を評価しているんです。
 生産者の苦労や工夫の物語があるからこそ、そして一人ひとりのユーザーとして大切にされるからこそ、ユーザーは購入したくなる。物語を多く語った人が評価されるような基準であることは、町づくりのコミュニケーションにも関連すると思います。
 あと、今「ポケットマルシェ」で抱えている課題としては、サービスが日常的に使われてないことです。特別な日に使うためのサービスにとどまっている。より日常に浸透させ、気軽なコミュニケーションを生み出すためにも、次のステップはキュレーションだと思っています。
 例えば広島カープ好きの生産者だけを集めた八百屋、みたいなコミュニティが作れればいいなと思ってるんです。それもある意味生産者の透明化なのではと思っています。
コミュニケーションや共感がビジネスを動かしていく
 トークセッションの終了後、来場者には「ポケットマルシェ」で販売された食材を使ったおにぎりやみそ汁などを提供する懇親会を実施。来場者と登壇者が交流し、おのおののビジネスを次のステップに移行させるために、様々な議論を交わす時間となった。
 ビジネスオーナーとユーザー、ないしユーザー同士のコミュニケーションは「経済的価値」以上に、「ビジネスが希望を創る」ことにつながっている。そんな新たな時代の潮流を、登壇者と来場者の交感により、確信させるイベントとなった。
(編集:中島洋一 構成:佐藤大介[ワードストライク] 撮影:小林由喜伸 デザイン:久喜洋介)