熱エネルギーで秩序状態と無秩序状態を行き来する化学システムを開発
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注目のコメント
明らかにエントロピーが減少するような方に向かって自発的に進む不思議感がたまりません。
坂道を転げ上がるボールを見るようです。
実際のところエントロピーが小さくなる方向に自発的に進む現象自体は存在するのですが、それが可逆的でスイッチングできる条件まで見つかっているというのは凄いですね。
100℃のときと25℃のときで、安定な集合構造が異なるのがポイントのようです。
★Fig 1 のc
https://www.nature.com/articles/s41467-019-09495-1#Sec6
一回構造形成させてから急冷すると、常温においてはそれが速度論的な安定状態になっているというのが面白い。
それと、分子構造中に水素(H)の代わりに重水素(D)をちょいちょい入れています(Fig1のa)。 2つの分子を見分けられるように、という理由のようですが、重水素自体が分子内の電子密度を少し変化させる要因になりますので、この操作が独特な集合挙動に影響している可能性もありませんか?検証は非常に困難ですが...
原理的なお話も。化学反応等が自発的に進むかどうかの目安になるギブズの自由エネルギー
ΔG=ΔH–TΔS
がありますね。反応の前後でΔGが負になる反応なら自発的に進むというやつです。これを定性的に読んでみる試み。
①「分子が規則正しく並ぶ」という現象は、エントロピー変化が大きく負になるのでΔGを大きくする方向に作用し、その現象は自発的には進みにくくなります。
②ところが、分子が規則正しく並んだ結果、例えば密集した分子間に強い水素結合が働くなど、整然としていた方が熱力学的に安定だったりするとエンタルピーΔHが大きく負になり、ΔGを小さくするのでその現象が自発的に進む方向に作用します。
①②をまとめると、
「規則正しく並ぶことによるエントロピーの低下分よりもさらにエンタルピーが大きく低下する(熱力学的(化学的)な安定化が得られる)系においては、形態が揃うような一見してエントロピー的に不利そうな反応であっても自発的に進行する」
事になります。
本論文に出てくる2つの分子がキューブを形成したとき、どこにその構造をロックするような力がかかっているのかを考えるととても楽しいです。