[東京 1日 ロイター] - 1日付で全国銀行協会の会長に就任した三井住友銀行の高島誠頭取は、日銀のマイナス金利政策の継続が金融機関を過度なリスクテイクに追い込んでいるとの見方に対し、リスク量などの判断は経営者の責任に帰すべき問題で、金融政策に責任を押し付けるべきではないとの考えを示した。ロイターとのインタビューで述べた。

市場では、世界的にクレジット・リスクが意識される中で、ハイ・イールド債やローン担保証券(CLO)などの保有リスクが浮上している。高島会長はCLOについては「リーマン危機前にあったCLOとは枠組みが異なっている。過去の反省材料が織り込まれた商品設計になっている」と説明する一方、行き過ぎた運用にはリスク管理上、問題があるとの認識を示した。

また、日銀のマイナス金利政策について「2%の物価目標設定は、柔軟に作る余地はある」と指摘した。

主なやり取りは以下の通り。

――日銀のマイナス金利政策をどのように評価するか。

「日銀は物価が2%を超え、持続するのを確認するまで現状の政策を続けると説明している。だが、そこまでリジッド(頑な)な目標を設定するのはいかがなものか。欧米でも、2%を超えてから初めて金利を上げたとか、出口の議論を始めたということでは必ずしもない」

「これまでの金融政策で成果は確実に上がっている。センチメントも含めてデフレではない状況に持ってきたし、貸出金利も押し下げた。明らかに経済状況は好転している。目標設定は、柔軟に作る余地はあると感じている。副作用も含めた総合的な検証を引き続き行い、適切な金融政策の展開をお願いする」

――低金利を背景に収益的に追い込まれた金融機関が、リスクの高い投資やビジネスに乗り出しているのではないか。

「日銀の金融政策のせいで利回りが上がらず、運用難に陥ってるため、銀行がハイリスクな運用や行き過ぎた業務をしているとの指摘がある。しかし、全ては個別銀行のリスク選好の枠組みや、顧客本位の業務運営をどのように進めるのかという経営者の責任に帰属する問題だ。日銀の金融政策の責任で、そうなっているという議論はあってはならない。利ざやや市場業務の収益環境が悪いというのは、言い訳にならない」

――実際にハイリスクの運用に傾いているとの指摘もある。CLOにリスクはないか。

「CLOで言えば、確かに相当な割合を日本の投資家が持っているというデータもある。しかし、リーマン危機前にあったCLOとは枠組みが異なっていることも客観的な事実。過去の反省材料が一定程度織り込まれた商品設計になっている」

――リーマン危機の時にも「トリプルAだから大丈夫」という指摘があった。

「物事には矩(のり)というものがある。いくら1つ1つの案件を詳細に見て安全だとしても、100件全部を取りにいくかというと別問題だ。リーマンの反省材料として格付け会社の運営もあり、当時のトリプルAと今のトリプルAは異なる。ただ、経営の規律として、いくら良いものだとしても、野放図にやることは本来のリスク管理の原則から外れることになる。ましてリスクの所在や分析ができないにもかかわらず、これを買っておかないと今期の業績が厳しいから買うんだ、という金融機関はあってはならない」

――企業との関係でメインバンクの機能が落ちてきているのではないか。

「確かに、メインバンクが果たしてきた融資先企業への監視機能が弱ってきている。1つには、上場している大企業では、情報開示レベルがどんどん上がってきており、メインバンクだからといってやみくもに情報交換をして、金融支援を頼むということができなくなっている」

「もう1つは、全体の競争環境が厳しくなってくる中で、金融サービスが限りなく均一化して、価格差がなくなっていることがある。情報の優位性や親密度などによる差が付かなくなり、メインバンクの存在感が薄れている」

「何が必要かと言えば、顧客企業が中長期的に抱える課題に対し、銀行がどれだけ真剣にソリューションとして総合的な提案ができるのかということに尽きる」

――企業の課題解決のためには何が必要か。

「大企業であっても自社だけで新しいビジネスモデルが作れる時代ではなくなっている。多くの顧客企業が、銀行と一緒に新しいビジネスモデル、プラットフォームを作り、付加価値を生み出せないかと考えている。こうしたオープンイノベーションの流れは、銀行としてもチャンスだ。いろいろな企業と様々な形で連携し、新しい世界に対応するビジネスモデルを作ることが、ソリューションの新しい形として広がっている」

(布施太郎 編集:田巻一彦)