【常岡浩介×安田純平】シリアで民主主義が実現する日は来るのか

2019/4/20
「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれるシリア内戦が、とうとう8年目に突入した。
統計を取ることも難しい状況だが、この内戦による死者はおよそ60万人にも上るとされる。
そして今も、武器を持たない市民を含めた多くの人々が殺されている。
だが、「内戦は最終局面を迎えている」といった報道もある中、世の中のシリアへの関心は薄れつつある。
特にシリアから遠く離れた日本においては、その報道の少なさは際立つ。
しかし、グローバル化が進み、世界中の国々と何らかの関わりを持つ昨今、中東で起きる人権侵害とその原因を知ることは、私たちの責務ではないのか。
また、シリアの内戦を理解することは、日本で平和を維持するための有効なヒントになるはずだ。
ただ、アサド政権、反政府軍、イスラム系武装組織、クルド勢力、アメリカ、ロシア──など、シリアの内戦には登場人物が多く、それぞれの利害関係や歴史などの知識が必要となる。
そのため、どの組織が何を目的に覇権を争っているのか、すぐに理解することはなかなか難しい。
NewsPicks編集部は、シリアなどの紛争地で取材を重ねてきた常岡浩介氏と安田純平氏にインタビューを敢行。
前編では、シリアの情勢を理解するための基礎的な話と、日本のジャーナリズムの課題を、噛み砕いて語ってもらった。
一見、穏やかな情勢の裏で
──シリアの情勢は依然として不安定ですが、これは2011年のアラブの春が発端でしょうか。
常岡 確かにアラブの春までは、基本的にシリアの情勢は落ち着いていました。
日本人もよくシリアを訪れていたんですよ。大学でアラビア語を学び、語学留学先にシリアを選ぶ人も少なくありませんでした。
常岡浩介(つねおか・こうすけ)フリージャーナリスト
1969年生まれ。早稲田大学人間科学部を卒業後、NBC長崎放送の報道記者。1998年から独立。タリバン、イスラム国など武装組織の幹部や、ロシアの反体制派を取材。2008年に『ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記(KADOKAWA、2008年)』で平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞受賞。他にも著書として『イスラム国とは何か(旬報社、2015年)』や、『常岡さん、人質になる。(KADOKAWA、2011年)』がある。
安田 また、日本政府とシリア政府の親交も深かったです。
外務省はシリアの支援に力を入れていましたし、JICAの海外青年協力隊も、シリアで積極的に活動していました。
日本人の多くは、「シリアは平和な国だ」と感じていたでしょう。
しかし実際は、アサド政権が独裁支配していて、政府に反対意見を訴える人が拷問されたり、殺されたりしていました。
安田純平(やすだ・じゅんぺい)/フリージャーナリスト
1974年生まれ。一橋大学社会学部を卒業後、信濃毎日新聞社の記者に。2003年から独立。イラク戦争や、スマトラ沖地震で被災したインドネシアなどを取材。2018年10月、およそ40ヵ月拘束されていたシリアの武装組織から解放される。著書に『誰が私を「人質」にしたのか―イラク戦争の現場とメディアの虚構(PHP研究所、2004年)』や『ルポ 戦場出稼ぎ労働者(集英社新書、2010年)』『囚われのイラク(現代人文社、2004年)』『シリア拘束 安田純平の40か月(扶桑社、2018年)』などがある。
常岡 当時のシリアは、アサドに反発しなければ平穏に暮らせましたが、異を唱えれば命が危険にさらされました。
そうした中、「これでは家畜じゃないか」と市民は不満を溜めていったのです。