人への戦略的投資が経営の要になる

これからの10年は、再教育が必要不可欠な要素の1つに──おそらく何よりも必要に──なるだろう。職場で機械が人間を補完する場面が増えるにつれて、自動化が仕事の定義にもスキルにも大きな変化をもたらすからだ。
自動化が、想定されるシナリオのうち中間のペースで進んだ場合、2030年までに世界の労働力の約15%、4億人が機械に取って代わられるだろう(自動化が遅いペースで進んだ場合はほぼゼロ、急速に進んだ場合は8億人と見込まれる)。
一方で、新しいテクノロジーとそれがもたらす生産性の向上は労働力の需要を生み、多くの仕事が創出されるだろう。過去の例に照らすと、2030年には労働供給の8~9%が今は想像もつかない新しい仕事になりそうだ。
さらに、テクノロジーの導入が選択的触媒となって、5億5500万人~8億9000万人の雇用が創出される可能性がある。たとえば(とくに新興経済国では)収入の増加に伴い支出と消費が増え、その需要に応えて製品を供給するために新たな労働が創出される。
全体として、完全雇用を確保することができ、最悪のシナリオの場合に失われる雇用が相殺されるだろう。ただし、変革は厄介なものだ。

歴史の中で繰り返される「仕事の変化」

まず、2030年までに多くの人が仕事の分類を変えざるを得なくなる。職場の自動化が予測のうち中間のペースで進んだ場合は世界の労働人口の3%(約7500万人)が、急速に進んだ場合は14%(約3億7500万人)が、それぞれ異なる分野の仕事をするようになるだろう。
仕事に必要な能力や職種が変わることは、歴史の中で繰り返されてきた。
19世紀の欧米の産業革命では、熟練した技術を持たない労働者が蒸気機関で動く機械の操作を学び、熟練の織物職人から仕事を奪った。半世紀前の看護師は、薬の管理や患者の世話が主な仕事だった。
今日では基本的な診断検査を行って結果を確認するなど、半世紀前は医師がやっていた仕事を引き受けている。
新しい技術が登場するたびに、何らかの変化がもたらされるのだ。ただし、今回の変化は加速している。労働環境の変化に取り残されないために、人々は学習しなければならない──学習し続けなければならないのだ。

再教育のために企業が担うべき役割

労働者の再教育に関して、企業は重要な役割を担う。(SAPのように)社内で研修プログラムを提供し、あるいは(AT&Tのように)外部の研修機関と提携する。
ウォルマートは全米で100カ所以上の「アカデミー」を開設し、カスタマーサービス部門のマネジャーなどに講義や実地訓練を提供している。経営者たちは、適切な人材配置は企業の将来にとって重要だと語っている。
政府の役割も大きい。たとえば、教育機関が将来の必要に応えるカリキュラムを提供しているかどうか監督しなければならない。現在はSTEM(科学、技術、工学、数学)のスキルが緊急に必要とされているが、創造性や、批判的で体系的な思考、適応学習や生涯学習も改めて重視されている。
さらに、人的資本への投資には新しい手法が必要になる。労働者の訓練に対する公共投資が少ない、あるいは減っている傾向を見直すことも重要だ。
もちろん、生涯学習そのものは新しい概念ではない。ただし、これからの時代は求められるスキルの本質が大きく変わり、さまざまな部門や職業に影響を及ぼして、しかも私たちが経験したことのないペースで変化が進むだろう。
したがって、現在通用するスキルと将来必要になるスキルを考慮した綿密な人材戦略は、企業にとって「あると助かる」だけでなく、成功に不可欠な要素になる。最高人事責任者(CHO)が、最高財務責任者(CFO)と同じくらい重要な存在になるだろう。
再教育にはコストがかかるが、払う価値のあるコストだ。自動化の規模を縮小したり、普及を遅くしたりしようと抵抗するべきではない。
実際、新しいテクノロジーは経済的剰余を生み出し、その余裕が社会に労働人口の移行を促す。したがって、あらゆるところで働く人々が、新しい自動化の時代に必要なツールとスキルを手にできるようにしなければならない。適応力と継続的な学習が、成功のカギとなる時代に向けて。
原文はこちら(英語)。
(執筆:James Manyika/Chairman of the McKinsey Global Institute、翻訳:矢羽野薫、写真:monsitj/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.