【平井卓也】Disruptiveなイノベーションが起きる国へ

2019/3/28
日本ではdisruptiveなイノベーションが起きない、と言われる。
世界では、シリコンバレー(米国)、深圳(中国)は言うに及ばず、ニューヨーク(米国)、リスボン(ポルトガル)、テルアビブ(イスラエル)、北京(中国)、ロンドン(英国)など世界各地で、多数のスタートアップ、ユニコーン企業が育ち、社会・産業構造を大きく変える破壊的イノベーションが起こっている。
日本のオープンイノベーションは進んできているものの、その動きは速いとは言えない。世界の状況と比較すると「強い危機感」を持たざるを得ないスピード感だ。
では、どうすれば日本でdisruptiveなイノベーションが起きるのか。
NewsPicksで、IT・科学技術担当大臣の私が目下取り組んでいること、目指すところを紹介してみたい。
平井卓也(ひらい・たくや)/1980年電通入社。1987年西日本放送代表取締役社長に就任。2000年に無所属で衆議院選挙に当選し、同年に自民党入党。自民党ネットメディア局長などを経て、2018年に情報通信技術(IT)政策担当 内閣府特命担当大臣(科学技術・知的財産戦略・クールジャパン戦略・宇宙政策)に就任

重要なのは「現場の意見」

まずそもそも、従来の延長線上や積み上げで、政策や取り組みを進めるには限界があると感じている。
disruptiveなイノベーションを起こすためには、創造する未来社会、実現したい未来像からバックキャスト的に考えるべきだ。未来像を実現するには何が必要かという視点で技術開発とルール作りをする必要がある。
この「バックキャスト」思考には誰もが賛同する。私も、大臣就任以前から、「present push(現状の延長線上)」ではなく「future pull(未来からの牽引)」の考え方で新しいモノ、コトを考えないといけない、と繰り返し言ってきた。
しかし、実際にそれを進めるのは決して簡単ではない。では私は、実際にどう進めるのか。
私は、自民党・IT戦略特命委員会の委員長として、政策提言「デジタルニッポン」を2010年から2018年までほぼ毎年まとめ、政府に提言してきた。
その際に重視したのは、徹底して現場の取り組みや意見をヒアリングすることだ。役所を通すとスクリーニングがかかってしまい、情報にバイアスがかかる可能性もあるからだ。
だからこそ、役所を通さずに、予断を持つことなく直接現場の意見をフラットに多方面から聞いて、自らの考えをまとめていく。
そうした意見の中には、当然「そうだな」と納得することもあれば、考えが異なる意見を聞くこともある。マチュアでない情報に多数接し、未来に対する想像力を最大限に働かせ、判断していくことが重要だと感じた。
(写真:metamorworks/iStock)

「平井ピッチ」の全貌

役所を通さずに、現場から直接意見を聞く。大臣就任後、その機会をさらに増やす取り組みを行っている。
それが、『平井ピッチ(HIRAI Pitch)』だ。
自らの担務に関する「政策立案エンジン」となるプラットフォームとして立ち上げた懇談会で、大臣就任後にすぐに準備に取り掛からせた。
創造する未来社会からバックキャスト的に新たなイノベーションを起こしていくためには、アイデアを持っている方、新たなビジネスに挑戦している方を中心に、その取り組みを直接ヒアリングし、政策を立案していくべき、と考えたからだ。
また、私の担務である、情報通信技術(IT)、科学技術、知的財産戦略、クールジャパン戦略、宇宙開発等は、「デジタル化」をキーワードに全て繋がっている。
しかし、日本は「縦割り」の言葉に代表されるように、横のつながりが十分ではない。言うまでもなく役所も例外ではない。
そこで、平井ピッチにより、関係する各部局が自分のもとに一堂に会し、セクションを超えた情報共有を進め、統合的な政策立案、提言ができるよう心掛けている。
加えて、結果論になるが、平井ピッチは、私(大臣)がピッチを直接受ける、ということで、頑張っている方を広く応援することにも一役買っているようだ。ピッチをしてほしい、という方から多数問い合わせがあり、今や順番待ちになっている。
ちなみに、平井ピッチ。正確には「Pitch to the Minister懇談会」という。
名前のヒントはエストニアから。同国には、役所の方がピッチに参加することがよくある、という。ならば直接大臣にピッチ、ということで、Pitch to the Minister。
大臣に直接、という取り組みはこれまで聞いたことはない。恐らく、初めてではないだろうか。

地方でも「平井ピッチ」

日本をDisruptiveなイノベーションが起きる国へ。課題先進国である日本の舵取りを今、間違ってはいけない。
昨年10月に起動した平井ピッチは、まず、AI・IoT、バイオ、量子、宇宙などの分野で果敢に挑戦を続けているスタートアップ、VC(ベンチャーキャピタル)、研究者等の方々を中心にピッチを受けた。
通常は内閣府の大臣室でピッチを受けるのだが、できるだけ現場に赴き直接意見交換すべき、と考え、地方版ピッチもこれまで福岡、渋谷、麻布、日本橋、つくば、大阪、名古屋で行った。
これまでのピッチで、今後何をすべきか、自らの考えもほぼまとまってきている。カギは「都市を中心としたスタートアップエコシステムの拠点形成を加速すること」。
今、ベンチャーブームと呼ばれる向きがあり、確かにスタートアップがアツい。だが、まだまだ持続可能性のある強い動きになっていない。
日本が持っている技術、人材のポテンシャルを解き放ち、限界を超える加速度をつけなければならない。『Beyond Limits. Unlock Our Potential.』ということだ。
近々に政策提言として中間的な取りまとめをしたいと考えており、今後はこの政策提言を中心に紹介してみたい。
(デザイン:九喜洋介)