2030年、人類の暮らしは良くなるか
人工知能のニュースを追っていれば、この新たな技術によって私たちの社会全体の変革が期待できることをよくわかっているだろう。もちろん、イーロン・マスクや故スティーヴン・ホーキングが警告したように、人類を滅ぼすことにならなければの話だが……。
ピュー研究所はこのほど、人工知能による影響がどのようなものがあるか明らかにするため、機械学習に詳しい専門家約1000人を対象に調査を実施した。驚くことではないかもしれないが、調査の結果は「人工知能は人類に恩恵をもたらす」というものだった。
一方で、人工知能による社会の破壊を心配する意見があったのも事実だ。とくに、人間の行為主体性や仕事の消失、監視やデータの乱用に関する懸念を指摘する声が多かった。一部の悲観的な人々が予測しているような暴力的な破壊などを心配する意見もあった。
ただし、調査対象者のかなりの割合が「こうした危険を軽減できる」と考えていることも明らかになった。「2030年、人工知能の役割が拡大した結果、人類の暮らしは良くなるか、それとも悪くなるか」という質問したところ、63%が「良くなる」という楽観的な見方を示したのだ。
多くの専門家が回答の中で、AIと人類の未来に関する自らのビジョンを詳しく語っていた。その一部を引用すれば、やや冗長な調査レポートのもっとも魅力的な部分を取り出せることになる。
そこで筆者はすべてを読み、興味深いビジョンを厳選した。機械学習アルゴリズムの力は借りずに、すべて自分で行ってみたのだ。それでは、さっそく紹介しよう。
1. マサチューセッツ工科大学(MIT)デジタル経済イニシアチブ(IDE)ディレクター、エリック・ブリニョルフソン
「世界の貧困を根絶し、病気を大幅に減らし、地球上のほぼ全員に、より良い教育を提供することが可能だ。とはいえ、AIとML(機械学習)は、富と権力のさらなる集中を進め、多くの人を置き去りにするのにも利用できるし、いまより恐ろしい兵器の開発にも利用できる」
2. ハーバード大学バークマン・クライン・センター(インターネットと社会)、ジュディス・ドナース
「2030年には社会の大半でボット、すなわち人間のように人間とやり取りする、一見、知的なプログラムの力を借りるようになるだろう。家庭では、子どもの宿題の手伝いや夕食の会話のきっかけのため、親が熟練ボットを雇うようになる。職場では、会議をボットが運営するようになる。
健全な精神にはボットの親友が欠かせないと考えられるようになり、着るものから結婚相手まで、ますます多くのことについてボットの相棒にアドバイスを求めるようになるだろう」
3. イェール大学イノベーティブシンキング・センターのエグゼクティブ・ディレクターで、前米大統領府最高技術責任者(CTO)補佐、アンドリュー・マクラフリン
「AIによって効率の最適化が広範囲で進む一方で、保険、求職、業績評価などの分野では人間を密かに差別したり、ペナルティを恣意的に課したりできるようになる」
4. ICANN初代プレジデント兼CEO、マイケル・M・ロバーツ
「知的なエージェントが人間の知能を拡張する機会の範囲は、実質的にまだ限定されていない。
大きな問題は、エージェントがより便利なものになるには、あなたの好みやタイミング、知的能力といったあなたの情報をエージェントが知る必要があるということだ。助けてもらうには、立ち入られる必要があるというトレードオフが成り立つ」
5. マイクロソフト首席研究員、データと社会研究所プレジデント、ダナ・ボイド
「人間は、権力の追求など、あらゆる目的にAIという道具を使うようになる。科学や人道主義の取り組みがAIで進化するのと同じように、AIを使った権力の乱用もあるだろう。残念ながら、圧倒的な不安定化を招きそうな、確かな傾向がいくつか存在する。
たとえば、気候変動と気候難民。欧州と米国はこれでさらに不安定化するだろうし、ほかの地政学上の危機を考えると、われわれはパニックの中、AIが危険な形で使われるのを目にすることになるだろう」
6. フューチャー・トゥデイ・インスティテュート創業者でニューヨーク大学教授(専門は戦略的洞察力)、エイミー・ウェッブ
「これまでは存在が必要とされたことのない仕事ができる、ハイブリッドスキルの新しいナレッジワーカーが必要になる。たとえば、ビッグデータの扱い方を理解している農業経営者、ロボット工学者の訓練を受けた腫瘍学者、電気技術者の訓練を受けた生物学者が必要になる。
こうした要員を一気に準備する必要はない。カリキュラムは少しずつ変えていけばいい。AIの成熟に合わせて、数年おきに新しい処理やシステム、ツールに適応できる、理解が早い人員が必要になるだろう。
こうした分野の必要性は、労働省や学校、大学の認識を上回るペースで高まるだろう(中略)。進んで声を上げようという人がほとんどいない困難な真実に、対処が必要だ。AIによって、いずれたくさんの人が永久的に失業するだろう」
7. エジンバラ大学教授(専門はインターディシプリナリー・アート)、サイモン・ビッグズ
「私の予想では、2030年には、戦闘でより効果的に人を殺害するためのAIの利用が日常化する。人間が戦闘や殺害に関与しなくなるため、社会は今ほど戦争に動じなくなる」
8. Information Technology and Innovation Foundation(ITIF)プレジデント、ロバート・D・アトキンソン
「先進国は前代未聞の生産性低下に直面しており、生活水準の向上が制限される見込みだ。AIは、生産性と生活水準の向上に重要な役割を果たす可能性がある」
9. サーテイン・リサーチ(Sertain Research)創業者でプリンシパルのバリー・チュダコフ
「2030年までにはAI、あるいは伊藤穰一氏の用語を使えば「拡張知能」が、人間の行動と交流の事実上すべての側面を評価し、再評価するようになる。AIと先進技術は、私たちの反応のフレームワークとタイムフレームを変えるだろう(それによって、私たちの時間感覚も変わるだろう)。
仕事、学校、教会、家庭といった環境でいったん社会的な相互作用が生じれば、そうした社会的相互作用は、連続時間的にも同時間的にもますます生じるようになっていくだろう」
10. ワシントン大学情報大学院教授(専門は人間とコンピューターのインタラクション)、バトヤ・フリードマン
「戦争の自動化、つまり人間が関与しない自律兵器による人間の殺害は、敵の命を奪うことへの責任感の欠如、さらには敵の命が奪われたという認識の欠如に至る可能性がある。
問うべきは、私たちが生きたいのはいかなる社会で、いかにして人間性を実感するのかにほかならない」
11. カーネギーメロン大学CERT部門チーフサイエンティスト、グレッグ・シャノン
「インテリジェントなかたちで健康へと『後押し』してくれる健康アプリや、心臓発作が近いという警告、あるいはサービスが受けられない人(遠隔地)や在宅ケア(高齢者ケア)のためのヘルスケアの自動化。こうしたAIによって、人々の寿命は延び、人生は確実に向上する。
(中略)将来の幸福は、じつは明確ではない。現在、オピオイド(麻薬性鎮痛剤)危機により人々の主体性が奪われているのとまるで同じように、ゲーム、仕事、コミュニティーにおいて主体性をAIに譲る人が出てくる。
一方で、日常の魅力のないタスクや仕事から多くの人が解放される。AIの目標関数に「コミュニティーの幸福」という要素があれば、AIが触媒となって幸福が爆発的に増大するかもしれない」
12. モジラ・ファウンデーションのエグゼクティブ・ディレクター、マーク・サーマン
「AIによって、権力と富の集中は引き続き、米国と中国のわずかな独占企業に集中するだろう。ほとんどの人、ほとんどの地域で暮らしぶりが悪くなるだろう」
13. 未来学者で「ジ・オニオン」の元デジタルディレクター、コメディとテクノロジーのスタートアップ「Cultivated Wit」共同創業者のバラトゥンド・サーストン
「私たちはいまや、自分の朝食も朝のワークアウトも、仕事場への道順も選ばない。アルゴリズムが選んでくれるのだ。そしてその選択は、(狭義の)有効性が最大化し、おそらくはサービスを提供している側の収益を最大化する形でのことだ。
2030年には、私たちはさらに多くの活動や交流を1日に詰め込むようになると予想されるが、それによって私たちの生活が『よりよく』なることはないだろう」
14. 研究者で『Politics for a Connected American Public』の共著者、タード・ホール
「AIは、私たちが気がつかない形で、現実が操作されうる世界を作り出している。フェイク動画、フェイク音声、それに準ずるメディアが爆発的に増大し、『現実』の認識が困難な世界を作り上げる可能性がある」
15. 米国行動調査・技術研究所(AIBRT)シニアリサーチ・サイコロジスト、ロバート・エプスタイン
「われわれがまるで、ハエがたたかれるようにピシャリとやられる合理的な可能性が少なくとも存在する。スティーヴン・ホーキングやイーロン・マスクなどが警告した可能性だ。私が知る限り、こうした未来の到来を阻止する方法はない」
16. 米国社会科学研究会議(SSRC)のアソシエイト・リサーチアナリスト、デイビッド・A・バンクス
「AIは、小さな専門職業階級にはとても有益だろうが、ほかのみんなを監視してコントロールするのに使われるようになるだろう」
17. フィンランドのアアルト大学の准教授(専門はコンピューターサイエンス)、スタブロス・トリパキス
「1984、ジョージ・オーウェル、警察国家」
18. ベッドフォードシャー大学上級講師(専門はコミュニケーション)、デビッド・ブレイク
「証明書のない移民が知り合いに何人かいるという理由で、自分の行動が不法移民の特徴に合致するとされて、国内旅行の際に何度も書類を確認されるとしたらどうだろうか。抗議すれば、ますます『疑わしい』とアルゴリズムに分類され、嫌がらせが増える可能性があるため、抵抗すべきかどうかもわからない」
19. アリゾナ大学デジタル社会データ研究センター研究者、ベッツィ・ウィリアムズ
「AIは、一部の消費者には損害を生じさせるだろう。たとえば、金持ちは自動運転車の恩恵を受ける。一方で、そうでない消費者は、AIにもっと良く視認してもらうように、自分の自動車をお金をかけて改良しなければならないかもしれない」
20. エジンバラ大学教授(専門は自動推論)、アラン・バンディ
「スキルがない人々は、雇用がほとんどなくなるので、苦労するだろう。これが社会に崩壊をもたらすかもしれない。トランプやブレグジットなどに、すでにその一端が見られる」
21. グーグルのチーフ・インターネット・エバンジェリスト、ビントン・サーフ
「AIと機械学習は、ダグラス・エンゲルバート的な『人間の認知の拡張』だと理解している。乱用や欠陥はあるだろうし、危険もあるだろうから、こうした技術をどのように実装し、利用するのかはしっかり考える必要があるが、おおむね建設的なものだと思っている」
22. ファーポイント・グループのプリンシパル、クレイグ・マサイアス
「インターネットそのもの、電力網、道路・高速道路など、みなが依存する大規模な技術は、ソリューションの複雑化と需要の増加が続く。すべてではないにせよ、大部分が将来、AIなしでは機能できなくなる」
23. ハンソン・インクのバイスプレジデント(エクスペリエンス・イノベーション担当)、マイク・オスワルド
「私が考えているのは、人々が持つデバイスが、絶えず周囲の世界を評価し、安全と健康を向上させる世界だ。
大きな都市部に住む人々は、音響分析、大気質、自然事象などに関して、デバイスがAI用インプットのネットワークを形成する。これにより、環境因子や身体的健康の懸念について、特定地域の全住民に通知や洞察をいっせいに提供することができる。これは、地域パトロールで迷惑な行動を取る者に厳しく対処するのにも役立つ」
24. 精神科医で未来学者、ゲームデザイナーのダナ・クリサニン
「人々や自然界との交流が重要だという認識が高まり、そうした目的をサポートするようにAIをプログラミングするようになるだろう。それが回りまわって、いま出現中の『スロームーブメント』をサポートするものになる。
たとえば、食料品の買い物や日常的な家事をAI搭載のスマート機器に割り振れば、スローフードのムーブメントに沿った食事を準備するための時間ができる。また、環境への懸念がスローグッズやスローファッションのムーブメントの拡大を促すだろう。
家庭用3Dプリンターの利用により、リデュース、リユース、リサイクルの能力が高まり、AIが支える新しい種類の『工芸』が生まれる」
25. ウォータールー大学複雑性およびイノベーション研究所、マーク・クローリー
「仕事場から自宅までの長い移動時間を、車のフロントガラスのヘッドアップディスプレイで読書しながら過ごすようになる。車は、ハイウェイでは自動運転になる。アイデアが浮かべば書きとめ、特定の書類に追加する(すべて音声操作で)。
この間にネットワーク化されているほかの車を介して、複雑な交通状況が近づいているのがわかる。AIはドライバーに注意を促して、ヘッドアップディスプレイを片付け、10秒ほど引き継ぐように依頼する。その会話は『アベンジャーズ』に登場する人工知能、ジャービスのように自然で完璧で、愛嬌さえある。
とはいえ、自動車、個人のイベント、メモ、ニュースといったタスクに焦点が当たっている」
26. 未来学者で経営コンサルタント、非営利団体「ザ・ミレニアム・プロジェクト」(TMP)の共同創設者、セオドア・ゴードン
「AIのいちばん有望な使い方は、テロ活動、初期段階の疾患、環境問題の早期警告と意思決定の改善だろう」
27. ニュー・ジャージー工科大学ソーシャル・インタラクション・ラボのディレクター、イベット・ウォーン
「スマート農場と分散システムのネットワーク化によって、都市部の『食の砂漠』をなくし、農業に適さない地域で食料を生産できるようになるかもしれない」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Eric Mack/Columnist, Inc.com、翻訳:緒方 亮/ガリレオ、写真:from2015/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.