社会問題を解決するために、高難度ビジネスで立ち向かう

2019/3/28
 2000年に設立し、伝統的な食品流通にテクノロジーとロジカルシンキングを持ち込み、“食”を通してさまざまな社会課題を解決している、オイシックス・ラ・大地。

 徹底したユーザー視点で優れた顧客体験をつくるために、地道かつスピーディーな改善活動で誠実に事業を拡大させてきた。そんな同社が関東と関西で3月14日までテレビCMを放映。

 献立に迷わず簡単においしく、楽しく、食事を作れる「Kit Oisix」を紹介しており、派手な施策を展開してこなかった同社にとって、今回のCMは珍しい施策となった。

 なぜこのタイミングで新たな取り組みをしたのか。これまでの同社の歩みと今回の狙いについて、執行役員・池山英人氏に話を聞いた。
目の前の売り上げより、気の利く体験でLTV向上
──オイシックス・ラ・大地(以下:オイラ大地)は、サブスクリプションモデルの中でも“食”という難しい領域で事業成長を実現させています。顧客のライフタイムバリュー(LTV)を最大化するためにどのような工夫をされてきたのでしょうか。
池山 “食”は、人の人生と切り離せない存在です。
 だからこそ、お客様の「かゆいところに手が届く」細やかなサービスである必要があり、わかりやすく派手なマーケティング施策ではなく、日々の細かく地道な改善を続けてきました。
 たとえば、季節の野菜や人気商品を定期的にお届けする「定期ボックス」。これは、あらかじめOisixからの提案商品が買い物カゴに入っており、お客様はその中から不要な商品を削除したり、欲しい商品を追加したりします。
 ただ、買い物カゴの中身をメンテナンスしないまま締切日を過ぎると、提案商品をそのままお届けすることになるんですね。
 目先の売り上げだけを考えたら、提案する商品をそのまま定期的に届ける方が、手間もなく在庫管理もしやすい。だけど、「食べない食材」が届いてしまうと、結果的にサブスクリプションサービスの解約率が増えてしまいます。
 だから、注文メンテナンスの締切日をどうやってお知らせするかは、サービスの開始以来ずっと工夫し続けてきました。
 単にメールを送るだけでなく、お知らせの仕方や配信時間、媒体を変えるなど、地味だけど「かゆいところに手が届く」サービスを目指して進化させています。
 加えて、定期ボックスにはお客様の購入履歴や削除した商品を自動で学習させています。
 買い物カゴから外される商品が増えてしまうと“廃棄”の増加にもつながるため、一人ひとりの好みに近い商品を提案できるよう、パーソナライズの精度も常に高めています。
 これ以外にも、会員登録からECでのお買い物体験、商品の仕入れ、物流、配送、リアル店舗での販売など、あらゆる領域で本当に細かく地道な改善を繰り返してきました。
ハレの日と日常の間にあるミールキット「Kit Oisix」
──そんななか、3月14日までテレビCMを放映されました。オイラ大地としては派手な施策だと思うのですが、どのような背景があったのでしょうか。
 Oisixは、2011年の東日本大震災後に「食の安心安全」を求める声が大きくなったことで事業成長しました。しかし2013年を過ぎると、その波はピタリと止まったんです。
 世の中の食の安心安全ニーズは落ち着き、次に上がってきたのが「献立を毎日考えるのが大変」という課題。それなら献立問題を解決しようと2013年に発明したのが、ミールキットの「Kit Oisix」でした。
 ミールキット市場は、アメリカで昨年22億ドルまで拡大し、さらに2020年には50億ドルになると言われています。日本でも注目されていますが、まだ市場ができているとは言えないほど小さいものです。
 なぜなら、ミールキットはメニュー開発が難しい上に、利益が伴いにくいビジネスだから。野菜は天候に左右されるため、使うはずの野菜が不作だったら急きょメニューを差し替える必要もあります。
 メニューも、たとえば多くの人が自分で手軽に作れる「オムライス」をキット化してもわざわざ買おうとは思いません。だからといって、一流フレンチで出てきそうな高級食材を使ったメニューは、日常から離れるのでハードルが上がってしまう。
 食事がずっとサプライズだと疲れるし、ずっと日常も飽きます。
 サブスクサービスのミールキットだからこそ「ハレの日」と「日常」の間にある絶妙なメニューを開発する必要があり、その原価調整を含めた体制づくりが難しい。それが日本でミールキットに注力する企業が少ない理由だと考えています。
 その点、Kit Oisixはメニュー開発や秘伝のタレ作り、レシピカードの改善など膨大な量の問題解決を続けてきました。
 日本でミールキット市場をつくるトップランナーになるために、「安心安全でおいしい野菜」を切り口にするのではなく「献立を助けます」というコミュニケーションに変え、テレビCMとWeb施策を連動させたプロモーションを始めたのです。
 たとえばカーナビが生まれる前までは、ドライバーは分厚い地図を見て目的地を確認しながら運転していました。でも、カーナビの普及後は、ドライバーは地図無しで目的地までスムーズに到着できるようになりましたよね。
 我々は家庭での料理においても、そういった変革を実現したいと考えています。
不況や逆境時こそ、高難度ビジネスが成功する
──利益が伴いにくいビジネスに力を入れるのはなぜでしょうか。また、このタイミングでプロモーションをした理由はありますか?
 2020年のオリンピック後は景気がダウントレンドになり、多くの人が財布のひもを締め、外食が減って家での食事回数が増えると言われています。
 不況とはいえ、毎日が節約のための調理は寂しい。加えて、都市部を中心に増えている共働き世帯や小さなお子さんのいる世帯は、日々の忙しさから食生活に手を抜きがちになり、それに罪悪感を持っているケースがとても多いんですね。
 時間やスキルが足りなくて献立に困っている方はたくさんいらっしゃいますし、そもそも食事を作るのは女性だと思われている風潮も疑問です。
 こうした社会課題をKit Oisixはもちろん、自社で提供するサービスや商品で解決したい。
 いつものレパートリーにはない料理を作れるKit Oisixがあれば、家での食事を楽しみに変えられて、罪悪感も減ります。その体験者を増やしていくことで、2021年には現在の5倍以上にお客様を増やし、家庭料理を家族が囲む機会を爆増させたいと考えています。
 また、不況や逆境のときこそ、難易度の高いビジネスを成功させるチャンスだと思っています。
──現在、Kit Oisixはどのような頻度で購入される方が多いですか?
 多い方は週5日で、少ない方は月に1〜2回程度。週5日の方でも、家族を含めて飽きずにKit Oisixでの食事を楽しんでもらうために、メニューは常に増やしています。
 また、Kit Oisixの満足度はアンケートや電話などで毎週調査しており、合格点に達しなかったら即座に検証し、改善をしているところです。
手間暇がかかる事業こそ成長できる
──今回の一大プロモーションを牽引されている池山さんですが、そもそもオイシックスにジョインしたきっかけは何だったのでしょうか。
 前職は広告代理店で、テレビCMや雑誌、Webなどの広告を提案していました。仕事は面白かったのですが、事業課題の一部ではなくもっと広く深く事業に関わりたいと思っていたんですね。
 もともと地元は農業地帯で実家も酪農を営んでいるのですが、私が子どものころ、父親のところに農業仲間が集まって国や補助金について嘆いているのをよく目にしていました。
 でもある日、東京の百貨店で働いていた人が婿養子として酪農家を継ぐと、あれよあれよと規模が拡大して。小さいながらに、「売る力という魔法のようなものがあるんだ」と思ったのを覚えています。
 その原体験から「農業✕売る力」が絶妙に融合したオイシックスと出会ったとき、とても魅力に感じたんですね。
 もともと事業会社で働きたいと考えていたこともあり、それなら思い切り“手間暇がかかる”事業や、社会が抱える課題に向き合っている会社の方が成長できそうだと思ったのが、決め手でした。
本質的な問題解決で事業をスケールさせる力
──手間暇がかかる事業、たしかに生鮮食品という在庫を持てない商品を扱い、仕入れから配送まですべてに目を配り、顧客体験を高めていかないといけない。この事業だからこそ、得られるキャリア価値は何だと思いますか?
 徹底した顧客目線にロジカルシンキングが融合した会社なので、「顧客のことを理解してロジカルに問題を解く」という、非常に汎用性の高いスキルが身につきます。
 ブラウザー上の表面的な問題解決だけでなく、生鮮物を扱うので知恵を使わないと仕入れから物流配送までが成り立たない。
 総合的な問題解決力はリアルな事業運営力や経営力となり、これから時代がどう変わろうがずっと使える“生き抜く力”になると思います。
 それから、多くの人は職種や業種など今までのキャリアを大事にしがちです。
 でもオイラ大地で問題解決力を身につけて一気に視野が広がると、たとえば市役所出身の人が配送センターのトップをやっていたり、エンジニア出身の人が商品本部の部長をやっていたり、もともとのキャリアが原型をとどめないこともよくあります。
 コツコツ地道な施策を繰り返すのは、かっこよく見えないかもしれませんが、事業をスケールさせるには本質的で重要なスキル。
 それをオイラ大地流のロジカルシンキングで身につけられることは、得難い価値ではないかと思います。
──事業をスケールさせる力、どこでも生き抜く力が身につくのは魅力的です。どういった思考の人が向いているでしょうか。
 社会課題を解きたい人や、人の役に立ちたいと思っている人は向いていると思います。
 たとえば、震災や災害が起きたとき、現地に足を運ぶだけでなく、今いる場所でも自分にできることを考えて行動に移せる人はいいですね。社内にもそういう人が多いです。
 思考としては、顧客ファーストもしくは結果ファーストで、自己実現のためなど利己的な動機ではなく、顧客か結果のために追求できる人が向いています。
 それから、お客様の声を素直に聞けることは重要で、素直に聞くことは意外と難しいものです。自分に都合が良いよう仮説に合う声ばかりを拾ったり、自己肯定できる声だけを拾ったりすることはよくあるでしょう。
 そうではなく、お客様の声を聞いて自分の仮説が間違っていたら自己否定してでも、新しい価値を作っていける人は活躍しています。
 オイラ大地には小ユニットの事業がたくさんあるので、まずは事業責任者からスタートし、早いタイミングで一緒に全体戦略を考え実行できる人に来てもらいたいと思っています。
 手間暇がかかる事業を成長させるからこそ、本物の実力がつく。ぜひ一緒に最高の顧客体験をつくりませんか。
(取材・文:田村朋美、写真:岡村大輔、デザイン:國弘朋佳)