子ども4人を東大理III合格へ導き、子育て、教育に関する本の執筆や、教育アドバイザーとして活躍する“佐藤ママ”こと佐藤亮子氏。
自身の経験を踏まえ、「子どもにはできるだけ多くの教育費をかけるべきだ」と語る。その理由とは? 佐藤氏がどのような目的で教育にお金を使ってきたのか、話を聞いた。

「3歳までに、絵本1万冊の読み聞かせを目標にしていた」

──子ども4人を東大に送り出した佐藤さんが、どのように教育に関して、お金を使われてきたのか気になります。
佐藤 子どもたちにはたくさんお金をかけてきました。中高一貫校に進学させたり、塾だけでなく、バイオリンやスイミングといったお稽古に通わせたりと。習い事だけでも一人につき、およそ月5〜6万円。他の家に比べてもお金がかかっていたと思います。
でも、教育にお金がかかる分は、あまり気にしないようにしていました。子どもは小さい時にお金をかけることが一番大事なんですよ。
──具体的には、何歳くらいまでにお金をかけるべきだと考えられているのでしょう?
佐藤 12歳までに、ちゃんとお金をかけてあげるといいですね。特に、0〜6歳までにひらがな、計算といった基礎を固めること。逆にその時期にきっちりしておけば、後々はそんなにお金をかけなくても大丈夫。土台がしっかりしていると、その後の成長率が全然違うんです。大学入試のために、高校生くらいからお金をかけるのでは遅いと思います。
──3歳までに「絵本1万冊の読み聞かせ」を目標にしていたと伺いました。
佐藤 同じ絵本でも50回読み聞かせたら、50冊とカウントする形で、延べ1万冊を目指していました。
というのも、美しい日本語をシャワーのように浴びせたかったんです。絵本は、一つ一つの感情がとてもきれいな言葉で書かれていますから。お金がかかりますし、家に置ききれないので、図書館も活用していました。子どもたちと一緒に楽しみながら読んでいました。

目的は「東大合格」じゃなく、子どもが進みたい道に進むこと

──お子さんの教育に力を入れる一方、自分自身にお金を使われることはありましたか?
佐藤 あまりなかったですね。時間の多くを教育のために割いていたので、自己投資をする暇はありませんでした。美容院に行く時間も惜しくて、自分で髪の毛を切っていたほどです(笑)。でも、それも子どもが18歳になるまでの話ですね。子どもが行きたい大学、もしくは行きたい方向へ進んだら、そこからはもう一人の大人。あとは見守るだけです。
──そこまで教育に力を入れるのはなぜでしょう?
佐藤 できるだけ将来の選択肢を増やしてあげたいからです。平均寿命が80歳を越える今の時代、先の人生はとても長い。それなら、なるべく好きな仕事がしたいじゃないですか。「あれもできる、これもできる」と手持ちの札がたくさんあれば、やりたいことを見つけた時にも迷わず進むことができますよね。
──お子さんが進む道を自由に選べるようにするためだと。
佐藤 はい。選べる、ということがなにより大事ですね。よく、私のことを「何としてでも子ども全員を東大に合格させたかったママ」のように受け取られてしまうのですが、そんなことはないんです。
子どもたちがバイオリンを習っていた小学校低学年くらいの頃、こんな話をしたんです。「ママには、みんなを芸術関係の方向に進ませる知識がない。だから、もし音楽の世界で生きていきたいと思うなら早めに言ってね。先生をちゃんと探すから」って。
──それを聞いた、お子さんの答えは?
佐藤 子どもたちなりに、バイオリンのお稽古はなかなか大変だったようで、プロの道に進む気はなかったみたいですね。だから、「バイオリンは楽しみながら弾く程度にして、勉強に力を入れよう」という話になりました。
──芸術方面に進む道も提示してあげていたんですね。
佐藤 もちろんです。私は音楽やスポーツの世界で生きている人たちを、ものすごく尊敬しています。夫とも、子どもが生まれた時に「将来は、野球選手かな? サッカー選手もいいね」って話していたくらい。スポーツは人間の限界への挑戦だし、芸術はその人の感性を豊かにするもの。だから、勉強だけじゃなくお稽古事をさせていてよかったなと思っています。

10冊の参考書を買い、9冊を捨てる覚悟。その「無駄」が大事

──大学受験にはどのようにお金をかけられましたか?
佐藤 例えば、話題の参考書が3冊あったとしたら、3冊すべてを買うようにしていました。普通はどれか1冊だけを買うのかもしれませんが、どの参考書と相性がいいかは、実際に使ってみないと分からないですよね。
10冊買って、そのうち9冊は使わないこともありました。でも、その9冊の無駄が大事なんです。いいものと出会うためには、色々なものを試してみないと。
──お子さんには「たくさんの選択肢を与えるべき」という、これまでの話と繋がっていますね。
佐藤 だからその分、お金はたくさんかかりますよ。でも、使ったお金の分だけ、成績がアップすると期待するのは、間違いですね。教育に関していうと、100万円をかけたから、100万円分の効果が出るなんてことはほぼありません。
たとえ、100万円のうち10万円分だけでも「かけてよかった」という実感を持てれば、それでいいじゃないですか。ロスを恐れたら、子どもは育ちません。
──なるほど。
佐藤 なかには「子どもに『投資』をする」という言い方をする人もいますよね。でも、「投資」って言ってしまうと、見返りを期待してしまうでしょう?
もし「投資」という言葉をそのまま使うとしたら、子どもに投資した分は、親ではなく、子どもに返ってきます。じゃあ親には何が返ってくるかというと、子どもの笑顔ですね。
お金をかけた結果、子どもが人生を前向きに楽しく進んでくれたら、嬉しい限り。そういう意味では、親は「子どもに投資する」のではなく「子どもの笑顔に投資する」と言った方が正しいと思っています。

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