宇宙探査に何世紀も前から使われている動力である「蒸気力」を使おうとするプロジェクトが進んでいる。小惑星の表面の氷から採取した水を蒸気にして推進力を得る探査機は、推進剤を使い果たす心配がなく、宇宙空間でのミッションをいつまでも続けられるはずだ。
訪問先の小惑星から、水を直接調達
小惑星資源採掘という考えが注目を集め始めた当初、多くの関連企業が水をベースとした燃料を使って宇宙船を駆動することを考えていた。
小惑星には氷がふんだんにあるので、それを水素と酸素に分解して、より効率の良い燃料を作るという発想だった。毎回のミッション期間を長くするのに安上がりな方法だ。
しかし、もっとも期待されていた小惑星資源採掘会社の数々が資金調達に苦労し、結局買収されてしまった。それと共に水で推力を得る宇宙船への関心もほぼ立ち消えとなっていった。しかしここに来て、新たなプロジェクトが宇宙の蒸気時代の可能性を再び呼び起こしている。
1月に中央フロリダ大学(UCF)のチームが、水を利用して小惑星採掘、というよりは小惑星探査をする宇宙船を披露した。
「ワイン(WINE:World Is Not Enough)」と呼ばれるこの宇宙船は、宇宙船の推進剤が底をついた時でも、ミッションを終える必要はなく、訪れている小惑星から直接、推進剤となる水を調達する。
ワイン開発チームのアプローチは、水を分解して水素と酸素に分解するという以前の考えとは異なり、水を直接利用する。理論上はこの方法のほうがコストがかからず失敗率も低い。
「その場所で手に入るものを利用したいと考えています」とUCFのプロジェクトを先導しているフィル・メツガー博士はいう。「ハイテクではなく、適切なテクノロジーを利用する必要があるのです」
宇宙を移動する「空飛ぶ蒸気式やかん」
小惑星のような氷に覆われた天体に着陸した後、ワイン宇宙船は氷にドリルで穴を開ける。そして、氷を溶かした水を取り込み、宇宙船のタンク内で再凍結させ、タンクの約3分の1を占めるようにする。
離陸準備ができると、宇宙船はタンク内の氷を約10日間にわたって太陽発電または原子力発電によって熱し、内部圧力を高めていく。その後、蒸気を勢いよく外へ噴出させることで得られる推進力で、宇宙船を次の近くの目的地に向けて発射する仕組みだ。
その概念は、小惑星資源採掘企業のディープ・スペース・インダストリーズ(DSI:Deep Space Industries)とプラネタリー・リソーシズ(Planetary Resources)が提案していたものを彷彿させる。
DSIの前主任エンジニアであるグラント・ボーニンは、かつて、その原型となる「プロスペクタ−1号(Prospector-1)」を「空飛ぶ蒸気式やかん」と称した。
蒸気力は地球軌道において有用なツールとなることが、すでに証明されている。
DSIは以前、水を使った電熱推進(本質的には蒸気力)と呼ばれる方法を応用して、軌道上で人工衛星を動かせるコメット(Comet)という装置を開発した。DSIを買収したブラッドフォード・スペース(Bradford Space)は、コメットを引き続き販売している。
昨年の「SSO-Aスモールサット・エクスプレス(SSO-A SmallSat Express)」の相乗り打ち上げでは、相乗りした衛星のうち4つに水力推進装置であるコメットが装備されていた。
以前DSIの競合であったプラネタリー・リソーシズも同様の概念を提案し、地球のそばの小惑星から採掘される水で作る燃料が人工衛星に永続的に補給されることで、推進剤を使い果たしてもミッションを終了しなくて済むようにしたいと考えていた。
コメット推進システム
蒸気エンジンの最大の利点は「単純さ」
シリコンバレーのスタートアップ企業モーメンタス(Momentus)は、水をプラズマに変えることによって、軌道上での水の有用性を次なるレベルへ引き上げようとしている。
同社は水を太陽の表面温度近くにまで超高温にすることによって、水からより高い推進力を得たいと考えている。結果として得られる推進力は、人工衛星を地球の周囲に飛ばすのにも使える。モーメンタスによる電熱推進システムの初の宇宙実験は今年実施される予定だ。
UCFのメツガー博士は、ワイン宇宙船が小惑星帯の周りに多数集まって作業をしたり、採掘に絶好の場所を見つけ出したり、惑星探査機の航続距離を延ばしたりするのに使えると考えている。
「最終的には、太陽系の天体の地図を手に入れることになるでしょう」と、UCFと協働しているハニービー・ロボティクス(Honeybee Robotics)で、探査技術グループのディレクターを務めるクリス・ザクニーはいう。
蒸気をこのように利用することは、特に効率がよいわけではない。しかし宇宙においては、水はある特別な用途を満たしてくれる。水は環境に優しく、深宇宙でも補充が可能で、有用性は地球において実証済みだ。
「蒸気エンジンの最大の利点は単純さです」と、ブラッドフォード・スペースの宇宙推進装置&システムの技術者であるアリソン・デュフレーヌはいう。「蒸気エンジンはずっと以前からあるものです。どのように働くかはわかっています」
理論上、ワイン宇宙船は、太陽または原子力発電と水を利用できる限り、いつまでも探査を続けられる。しかし、蒸気推進システムが供給するパワーでは、宇宙船は超低重力状態で動くのがやっとだ。つまり木星から火星までロケットを飛ばすことは当分無理であろう。
ワイン宇宙船の採掘と蒸気推進システムは1月に、地球上でのテストに成功した。模型の小惑星の物質から採掘した水を使って、小惑星の間を移動するのに必要な動力を作り出せることを示したのだ。しかし、最初の打ち上げまでにはまだ程遠い。開発チームは打ち上げを実現させるためのパートナーを探しているところだ。
「人々は蒸気を何世紀もの間利用してきています」と、ハニービー・ロボティクスのザクニーは語る。「蒸気がなければ人類は、ここまで進歩することはなかったでしょう。ですから、蒸気が宇宙探査への最初の足がかりとなるかもしれません」
原文はこちら(英語)。
(執筆:エリン・ウィニック/米国版 准編集者、写真:KrisCole/iStock)
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