【重要証言】巨人トヨタ、デジタルシフト「全6年史」

2019/3/15
2016年、米シリコンバレーにAI研究機関トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)が立ち上がる以前、トヨタが自動運転シフトを加速させていくスタートは、2013年ごろのことだった。
以来、自動運転・AI開発をトヨタ社内でずっとリードしてきた、トヨタの「Mr.自動運転」とも言える人物がいる。
鯉渕健。昨年7月、TRIとトヨタをつなぐ新組織「TRI-AD」の取締役にしてCTOに就任した、次世代技術開発のトップだ。
自動運転には否定的で出遅れたとも言われた当時のトヨタは、社内でいかなる議論を交わし、いかに怒涛(どとう)のスピードで手を打ってきたのか。
そして、現在。米グーグルの自動運転開発が極秘プロジェクトだった当初からコアメンバーだった元ロボティクス部門トップ、ジェームス・カフナーをCEOに迎え入れ、二人三脚でTRI-ADを率いる鯉渕は、一体何をしようというのか。
特集「トヨタ“第3の本社”」最終回の本日は、そんな鯉渕がトヨタのデジタルシフトの舞台裏を語る、NewsPicks独占インタビューをお届けする。
*ジェームス・カフナーのNewsPicks独占インタビュー記事はこちら
前編
中編
後編

トヨタ歴代最長字数の「部署名」

トヨタの転機は、2013年ごろに訪れました。「自動運転」を加速させようという機運が高まったんです。
もともとトヨタの自動運転技術の開発の歴史は、実は30年ほどと長い。ただ、それを一気に加速させるべく、2年間の期間限定で新部署を作るから、僕はそのリーダーをやれ、となった。
当時、フューチャー・プロジェクト(FP)部という、バイオテクノロジーからガスタービン、ウェアラブルセンサーまで、一風変わった新しいことをやっている部署の部長も兼務することになりました。
このFP部の中でも、もともと自動運転をずっと研究していて、そこから自動運転だけを切り出したんです。
さらに他の部署からも人を連れてきて、自動運転の可能性を探る「期間限定部隊」を作った。それが2014年1月にできた、「BR(ビジネス・リフォーム)高度知能化運転支援開発室」。
トヨタで当時、歴代最長文字数を誇る部署名です(苦笑)。14文字ぴったり。
もっとも、これにはわけがあって、いろんな迷いや思いがあったから。当時は世間の誰もが「自動運転」と声高に言っていたけれど、それには抵抗があった。
そもそも自動運転ってどういう技術を指していて、トヨタとしては、それにどういう「うれしさ」を見いだして、そしてどこまで自分たちはやるべきなのか。
「運転支援」だけだと、今までやってきたこととの違いが分からない。一方で、ある人は「知能化というワードは入れたほうがいいんじゃないか」とか。チームを立ち上げるギリギリになって、議論して決めた名前です。
「僕らは自動運転で、何を目指すべきか?」
最初は本当に、そんなブレストから始まりました。そのためには、どれくらいのヒト、モノ、カネが要るのか。それらを明らかにした上で、合意を取って自動運転開発を立ち上げてゆく。それが、我々のミッションでした。