【川口盛之助】これから起こる劇的変化。そして次世代に真の価値を発揮するには

2019/3/29
世界中の研究者たちによって、それぞれの立場から未来予測がなされている。これから10年後までに起きるであろう劇的変化、すなわち「メガトレンド」とはどのようなものか。
未来予測の第一人者として世界的に活躍し、『メガトレンド』シリーズの著者として知られる川口盛之助氏。IT革命に続くオープン革命やフラット化の波が国家の在り方すら変えていくこれからの時代。そこで求められる価値創造の方法と我々の進むべき道筋について語っていただいた。
「メガトレンド」とはいったい何か
私が『メガトレンド』の執筆に着手した今から7~8年前、日本だけでなく、世界中の書店に『20XX年』といったタイトルの本が増え始めました。
「BRICsが伸びて世界の主役が代わっていく」「21世紀中盤以降は新興国の人たちの生み出す富が世界の半分以上を占める」──そういう話がリアリティを持ってきたのです。
大航海時代から産業革命という輝かしい時代を終えたヨーロッパの作家たちは、泣き言ばかり書いています。
たとえばフランスは、ナポレオンの頃に帝国を作ってもう一歩のところまでいけたのに、もはや二度とあんなチャンスは来ないと嘆いている。
もう未来がないと思って、資本主義が終わるとか民主主義が終わるとか、みんな終わっちまえぐらいなノリで未来を予測しています。
慶應義塾大学工学部卒、イリノイ大学修士課程修了。戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにおいてアソシエート・ディレクターを務めた後、株式会社盛之助を設立。国内のみならずアジアや中東各国の政府機関からの招聘を受け、各種コンサルティングを行う。日経BP総研未来ラボのアドバイザーも務める。著書に『メガトレンド2019-2028 全産業編』など。Webコラム連載の他、講演や海外メディア、TV出演も多数。
北欧の人たちはもっと冷めていて、このままだと温暖化で地球は終わるなどと言っている。彼らはもともと辺境にいるので、一歩引いたところでノーベル賞を育てて尊敬されるポジションを築き、仙人めいたことを書いています。
アメリカはディフェンディングチャンピオンだから、まだまだ北米の時代は終わらないと言い、イギリスもその前のチャンピオンなので、今あるものは簡単には崩れないと主張する。
一方、シンガポールあたりの未来予測本を見ると、全く違う様相です。シンガポール大学は世界トップ10に入るまでランキングを上げており、ヨーロッパやアメリカは早く自分たちの時代が終わったことを理解しろ、と鼻息が荒い。
それでは日本はというと、技術についての未来予測がほとんどです。
日本は1960年代から80年代にかけてメカトロニクスで富と自信を築いた国なので、日本人が読みたいのは「技術が開く未来の話」です。そして大体は「世界がどうなるかわかりませんが、そこで必要なモノは作らせてもらいます」という立場をとっています。
こうして見ると、みんな読者が読みたいものを書くわけで、自国の人が読んで留飲を下げるような内容に偏っていることに気づきます。
そこでこの種の本をみんな読んでみようと思って、世界中の本を100冊以上も読んでいると、何となくグローバルな景色が見えてきました。
その中で、地政学を語らせたらアメリカ人だよねとか、エコノミーならイギリス、歴史ならフランスというように、各分野で一番リスペクトされている国とか学校とか、聞くべき人の話をできるだけバイアスがかからないよう、フラットにまとめたのが『メガトレンド』です。
この1200ページにおよぶ巨大な本を、私は足掛け8年かけて1人でまとめました。1人でやることに意味があると思ったからです。
全体を薄くたくさん知ることで、初めて見えてくるものがある。あの業界とこの業界で起きていることは本質的には同じなんじゃないか、というような……。『メガトレンド』の最後のチャプターではこれを「メタトレンド」と呼んでいます。
シェアリングエコノミーが市民権を獲得した理由
たとえば「仮想化」というメタトレンドがあります。
「仮想化」はもともとASPサービスやクラウドコンピューティング(cloud)の分野から来た発想で、ストレージやソフトウェアのようなITリソースをインターネット経由で利用して、仮想的に持った方がその稼働率が上がり、生産性や競争力も高くなるという考え方です。
稼働率の概念はBtoBでは当たり前のことで、生産財が稼働していないことは悪であり、お金を含めて動いていることが善。その方が富を生み出すと考えられています。
これが、iTunesが登場した頃からBtoCでも見られるようになりました。データはネットの向こう側に置いておいて、必要なときに曲単位で落とせばいいという考え方が定着してきたのです。
さらに、地球環境の持続可能性という追い風も受けて、仮想化はリアルな世界でも市民権を獲得するようになってきました。
これを推進したのがUberやAirbnbです。自動車にしても家にしても、みんなが所有して寝かせておくより、シェアし合って仮想的に所有する方が稼働率は上がり、集団としての生産性は高まるわけです。
(写真:nrqemi/iStock)
仮想化の波は、人の集団に対しても及んでいます。フリーランスや副業は、会社が人材をクラウドソーシング(crowd)でシェアしていることに他なりません。シンガポールあたりでは国民をヘッドハントしているくらいです。
博士号などの学位を持っていることで国籍を取得しやすくしたりして、どこかで育ててくれた頭脳をもらっちゃえみたいな。これは“国民のシェアリング”なんですよ。
シェアした方が強くなるのは、「情報」についても当てはまります。
情報は個々人が囲い込んで寝かせておくよりも、みんなでシェアして次のものを生み出していく方が、グループ全体の生産性は高まるのです。
自分で所有せず、商品やサービスの使用に応じて料金を支払うサブスクリプションのような形が進むことも、とても自然な時代の流れです。
オープン革命時代における価値創造
こうして物や人や情報のシェアは進み、社会はオープンになっていく。『メガトレンド』ではこれを「オープン革命」と呼んでいます。
これまで「権威」とされてきたものは、情報を囲い込んでブラックボックス化することで成り立っていました。「ジャーゴン」と呼ばれる、仲間うちだけに通じる一見難解な専門用語を多用して障壁を高めています。
ブラックボックス化された情報をグループ内の人だけが持つことで外部との差が生まれ、情報の価値が上がる。弁護士や医師など先生と呼ばれる権威はその典型です。
しかし、情報の共有が進み、さらにそこにAIやビッグデータが出てくると、「もう先生いらないじゃん」となってくる。
すると「情報の非対称性」の上に成立していたかつての権威は失われ、社会はフラットになっていくのです。
オープン革命やフラット化というのは、不可逆な流れです。もう戻しようがない。
ただ、反動は起こります。「ゆらぎ」というものが自然科学にもあって、必ず渦はできる。
ヨーロッパが一般データ保護規則(GDPR)でFacebookとかを火だるまにしていますが、まさに未来がないヨーロッパの泣き言に近いですよね。彼らにとっては失う情報しかないわけです。
今伸びている新興国でそんなことを言う人はいません。そして世界の人口的には、こちらの方が圧倒的に増えていく。
だから「今、揺り戻しが来ている」などと言うんですが、それはベビーブーマーの泣き言。オープン革命やフラット化という大きな流れはもう止まらない
だったらもう心を決めて、それを乗りこなすとか、使いこなすための手段や制度を考えた方がエネルギーのロスがない。私たちは価値観を変えていかなければなりません。
どこかに何かを固めて持っておくのではなく、アクセスポイントを増やして、そこに参加した人の中で新しい価値を生み出していくこと。
これは、今後当分の間通用するメガトレンドだと言ってよいでしょう。
次世代の社会で求められる人材とは
以上のように、例えば「仮想化」といったメタトレンドを見いだし、仮説を持って生きることはとても重要です。
毎日何テラビットの情報が入ってくる中で、仮説がなければ思考停止になってしまいます。思考停止の人たちが集まってブレーンストーミングをやっても何も出てこない。
シンガポールの国籍とiTunesのように、異なるシーンの間に1つのアナロジーを飛ばせるかどうか。これが、遠ければ遠いほどイノベーティブなのです。
1日8時間仕事するとして、残り16時間は誰かの父親であったり恋人であったり、あるいは自治会の役員であったりするのでしょうけれど、そういったときにも仮説を持って森羅万象を眺める。
自転車に乗れるようになると無意識にできるのと同じように、慣れてくると何本も仮説を立てたまま過ごせるようになってきます。
イギリスの脚本家でSF作家のダグラス・アダムスによる「法則」をご存じでしょうか。
人は、自分が生まれたときにすでに存在していたテクノロジーは自然な世界の一部と感じるそうです。そして、15歳から35歳の間に発明されたテクノロジーはエキサイティングに感じ、それ以降に発明されたテクノロジーは自然に反するものと感じられる、という。
厚生労働省によれば、2019年の日本人の平均年齢は47歳です。ダグラス・アダムスの法則を当てはめれば、日本の大多数の人は新しいものに対して拒絶し、保身を正当化する年齢にあることになります。
これは自己防衛本能なんです。そんなふうに世の中が変わったら、年を重ねた自分の価値は目減りしてしまうと脅威に感じる。そのため、そんなことをやったら日本はダメになると否定してしまうのですが、大概の場合、これは正しくありません。
世の中はどうせ変化していくのだから、それによってよくなることを考えていく方が圧倒的に建設的だし、いいものを生み出すイノベーションにつながるはずです。
ちなみに、前回の東京五輪のころの我々の平均年齢は27歳でした。どんなニュースもポジティブに捉えていた時代なわけです。
こんな社会の若者に未来を賭けたい
ノーベル賞を受賞した人が偉大な発明をした年齢のピークは38歳であるという研究があります。もちろん受賞するのは60〜70代になってからですが、それは30代での研究成果が評価された結果にすぎません。
既存のものも新しいものも否定せずに使いこなせる黄金期というのが30代なのでしょう。
だから自分が40歳の声を聞いたら、ネガティブになっていないかどうか、自問しなくてはなりません。
何か新しいものを見たときに、悪いことを探し始める。でもそれは、「自分が主役になれない」とか、「自分が失うものの方が多いからじゃないか」という天の声を聞いた方がいいと思います。自分を正当化するために理屈をこねていないか、と。
何がイケてるのかという議論に関しては、間違っても若い人を頭から否定することがあってはならない。
むしろ、それをいかにブランディングするか、いかに価値を最大化するかだけを考え、力を尽くした方がいい。そういう手練手管というのは、長く生きることで手に入れることのできるバリューですから。
それくらいの謙虚さがないと、この国自体の未来は本当に厳しい。
反対に、若い人は年寄りに負けないでほしいですね。本当にそう思います。
メディアとか上司の言うことを聞いてると引っ張られるんですよね。絶対数が多いですから。
でも少なくとも、昔のブランドとかヒエラルキーの上に成り立ったものにはあまりバリューはない。年を取っているものはイケてない。さらに言うと、若い人もこんな年を取った集団にいるからイケてない。
年寄りも若者も両方がそう思っていればまだ救われます。
若い人には、まず、シンガポールとかドバイとかの若者を見ろ、と伝えたい。できれば行け!
社会全体が若いということはどういうことか? その中では若者がものすごく高い役割を与えられていて、その半分は女性です。講演をやるときに聴衆がおっさんで埋まっているのは日本と韓国だけ
こんな人たちと闘っていかない限り、本当に負けてしまうんだということは体感した方がいいと思います。私自身も、若い国の若者がこうだと思う未来に賭けようと思っているところです。
今後、インターフェースはどうなっていくか
日本をここまで駆動してきた最大のエネルギーは「技術」です。その技術の運命は、あえて一言で言うなら、「人に近づく」ことでしか開かれません。
例えばiPS細胞やゲノム編集のように、今後の応用が期待されるものもあります。
また、すでに皮膚や軟骨の再生医療で実用化されているティッシュエンジニアリング(機能を失った臓器や組織の代替品を、生命科学と工学をうまく組み合わせて作り出す考えのこと)を見てもわかる通り、そこに開かれる未来は計り知れないものがあります。
もう一つ、私たちが注目すべきものに「心」があります。心はデジタル技術とフィットしやすい関係にあるし、脳の外部化はどんどん進んでいくでしょう。
脳の外部化といって真っ先に思い浮かぶのはパソコンです。私は外資系の会社にいたときに、IT担当の若い人から「レッツノート、コスパ半端ないっすよ」と聞いて以来、10年ほど使い続けています。
選ぶ上では、タフそうな見た目というのも重要です。極限まで薄くすることはできるでしょうが、すると今度は重量密度が上がってきて、落としても大丈夫と言われても不安になる。
そういう意味でタンジビリティ(触れて感知することができる感覚)というのは大事です。実際に手にしたとき、一瞬にして「頑張れるな」という感覚が持てる。このわかりやすさが私にはよかったのです。
やはり私たちはリアル世界に生きているので、キーのタイプ感など3Dインターフェースも重要です。キーボードも機能を優先すれば、スマホのようにディスプレー兼用の可変型にできるでしょうが、そうなるとブラインドタッチができなくなってしまう。
インターフェースに関してはコグニティブなわかりやすさがとても大事だと思っています。
ブロードバンドがどんどん太くなり、「肌直」のところまで来ています。
あとは触覚や視覚といった五感を通して脳に入っていくわけですが、いくら向こう側の情報ロジスティクスを太くして8Kだ16Kだ5Gだと言ったところで、結局目で見るときには何キロバイトかになってしまいます。
IoTというのはアナログ世界をデジタルに情報化するものでしかありませんが、IoTの「Things」というのが私は気に入らない。こちら側にいる私たちそのものが広大な宇宙だということからすると、ThingsよりはHumanの方が圧倒的に重要だと思っています。
『メガトレンド』でも挙げている心理革命、バイオ生命革命に近いところで言うと、BMI(ブレーンマシンインターフェース)がキーボードや音声による入力を必要とせず、思考制御による機器操作を可能とする点で応用分野が期待されています。
それより私が重要視しているのは、心につながっていくHMI(ハートマシンインターフェース)の方です。
脳内で好き嫌いをつかさどる扁桃体という神経細胞の集まりがありますが、扁桃体に対するニューロフィードバックの性能を上げていくことによって、もっと深い人間の心がわかるのではないかと思っています。
純粋なヒューマンとしての縄文人や未開の地の先住民の目の前にあらゆる種類のパソコンを並べたとき、彼らが果たしてどれを選び、満足して使ってくれるでしょうか。その時の脳活動状態はどうなっているか。
私はこうしたことにとても興味を持っています。
(執筆:柴山幸夫 編集:奈良岡崇子 撮影:望月孝 デザイン:國弘朋佳)