【藤本あゆみ】企んでいるときが、1番楽しい

2019/3/9
選択肢のある働き方を目指し、タフにしなやかに生きるーー
「働き方改革」の言葉が広がる前から、「働くことにどう向き合うか」を追求してきた藤本あゆみさんに、働き方改革の現状と今後、そして、藤本さんご自身の働き方について話を聞いた。
※このインタビューは、「NewsPicksアカデミアゼミ」の佐々木紀彦ゼミ「実践・稼げるコンテンツの創り方」にてゼミ生が課題として実施したものです。

働き方改革は経営改革の1フェーズ

──会社によって働き方改革の浸透度合いが異なる原因は何でしょうか?
藤本 問題をちゃんと把握しているかどうかだと思います。テレワークや残業規制はツールでしかなく、問題に合わせて適切なツールを選択しているかということが重要です。
──問題が把握できていても、育児のためにリモートワークをすることに反対するなど、古い考え方の人を取り込んでいくことに困難を抱えている企業は多いです。
それは問題を把握できていません。経営者にとっての問題と、現場にとっての問題は異なります。経営の考え方が伝わっていないか、経営が現場の課題感を拾い切れていないか。みんなが幸せになる制度はありません。
働き方改革を浸透させるには、小さく初めて、まずはみんなにやらせることが重要で、やってみないと理解できないこともあります。責任は伝える側にあります。おすすめは、メディアなど外からの情報を活用することです。意外に経営が発する言葉よりも浸透が早いです。
意見が下から上に上がらないのは風土の問題です。現場から「言ってもいいんだ」と思ってもらえるように伝えることをあきらめない。言い続ける努力と、言える文化にする努力が必要です。
──働き方改革の現在地はどのあたりなのでしょうか?
デロイトの調査で、大企業の7〜8割は働き方改革に取り組んでいるという結果が出ていますが、日本の大部分は中小企業であって、現状は一部の企業だけがやっている状態だと思います。やらない企業を増やすことも必要だと思っていて、残業規制に取り組んでいることを働き方改革としている企業もありますが、そんな改革ならやらなくていい。必要な企業はずっと以前から取り組んでいます。
──取り組むことによって、どんな差が出てくるのでしょうか?
短期的には何も差は出ず、管理コストが増えて生産性が下がるだけだと思います。きちんとやっている企業はKPIを設定していて、変わるところはすごく変わっています。働き方改革は経営改革の1フェーズであり、うまくいっている会社の業績は10年後には確実によくなると思います。
──働き方改革の理想像はありますか?
選択肢のある働き方を作るということです。色々な会社の主張が明確になれば、雇用される側とする側の交渉コストが下がります。

終わりを意識するとスピードを意識する

──at Will Workは5年で終えると宣言されていますが、そう決めた理由を教えてください
終わりを意識するとスピードを意識するからです。本当に働き方改革をしたいなら、いつかやるではなくいまやる必要がある。やめる勇気を持つことを体現したくて、そうしました。本当にやめると思いますよ。全然違うことをやりたくなって。
──これまでの3年でどんな変化がありましたか
at Will Workを始めた2016年は、まだ「働き方改革」という言葉はなく、「1憶総活躍」と言っていた頃でした。この3年で、企業が働き方改革に取り組み始めるという事象は起こっており、思っていたよりも様々な動きがあるので、全く悲観的にはなっていません。
明確なKPIは決めていませんが、at Will Workの5回目のカンファレンスでは1~4回目に登壇頂いた方々に再登壇頂き、その間の変化について話していただく予定です。そこでは時間軸の異なる50通り以上の働き方改革のストーリーが語られることになり、そのストーリーで5年間の変化を示すことができると考えています。選択肢のある働き方が目標で、1つの指標だけで見ることは意味がありません。
──Google時代のOKR(Objectives and Key Results)のように、目標を定めた方がいい領域と目標を定めるべきでない領域の違いはどのようなものですか?
OKRは目的であって、目標ではありません。例えば、Objectivesが顧客の信頼度を上げるという場合、Key Resultsは個人の携帯に電話がかかってくることや、会議で隣に座っても嫌な顔をされないといったことを設定したこともありました。Googleでは定性の目的と定量の目標をセットで設定しますが、Objectiveの達成イメージが具体的になるという点で、OKRはすごくクリエイティブです。at Will WorkのObjectiveは選択肢のある働き方をつくることであり、Key Resultsは様々な事例から語られるべきで、KPIは適切ではないと考えています。
──藤本さんご自身の働き方について話を聞かせてください。やりたいことや価値観にフィットする会社はどのように見つけてこられましたか?
全然できていないですよ。きちんと意思表示して転職したのは、Plug and playが初めてです。条件を考えたのも初めてで、やりたいことを仕事にすることができました。それまでは、希望の部署でないところに配属されて、どちらかというと流れにのって得意なこと、好きなことを発見していき、やっとこの歳になってこうやって働きたいというものを見つけてきました。ただ、どんなチャレンジにせよ、気をつけていることは、やりたいと言ったこと、自由に対して責任を持つということです。
──いままでの働き方でストレスに感じたものはありますか?
毎日緊張感はあります。単につらいだけなら、やめたほうがいいと思いますが、今はその緊張感が良いストレスです。ストレスがない仕事はおもしろくない。私にとって一番のストレスは何かを押し付けられることで、あなたはこれだけやっていればいいから、と言われること。そうなったときはやめると思います。
──藤本さんは調査結果をさらりと引用されるなど、引き出しが多いですが、情報収集をどのようにやっているのでしょうか?
NewsPicksのピッカーを始めてからニュースを見る機会が増えました。どんなニュースでもいいというわけではなく、基準は自分の専門性に合うものです。広報の仕事でもニュースは見ますが、ちょっと関係がないものも見るようにしています。また、ピッカーをやっていることで他の人から教えてもらう機会も増えました。
自分ひとりで多くの情報を集めるのは実は難しくて、at Will Work ではAwardプログラムをやっているのですが、私が知らなかった会社を教えて頂いてその会社がAwardを受賞するということもありました。自分のやってきたことについてある程度フラグが立ち始めると、情報が集まってきます。
アンテナを好きなもの、興味があるものに向けて立てることで、つながってくる。その変化が面白いです。効率を考えてあちこちに網を張って薄くなるくらいなら、無計画な方がよい情報を得ることができるので、気の向くままにやっています。
──CESにも参加されていましたね
面白かったということもありますが、今年の大きなテーマはモビリティや自動運転で、それらによって生活や環境が変わることで働き方にもつながってくる。私ならではというところにもつながってきて、なにひとつ無駄なことはありません。CESではモビリティとスリープテック、ヘルステックをずっと見ていました。
──働き方改革というテーマを持っていることで、テクノロジーの活かし方が見えてきたということでしょうか
働き方改革関連でお仕事の話をいただくことが多いのですが、そればかりだと面白くないので、例えばお金のデザインでは、「Fintechと働き方」という、全く関係ないこと二つに取り組むことで自分の領域を広げることができました。
面白いことに、一方のテーマが立ってくるともう一方のテーマも繋がってくるような状態です。どんな方でもひとつのテーマしか持っていないということはなくて、いろいろなテーマを持っていると思いますが、それを発信できているかどうかで新しいつながりを作れると思っています。
私の場合は発信することで、働き方だけではなくテクノロジー、アクセラレーションなどについて、機会をいただいています。発信するのはFacebookでもなんでもいいと思います。
「働き方を考えるカンファレンス2019」登壇の様子

企んでいるときが、楽しい。

──藤本さんの持つ感度の高さ、問題点にフォーカスして実行する力は、幼少期から培われてきたものだと思いますが、小中高といった幼少期はどのような環境でしたか?
小中高は桐朋学園で、女子高でした。中高には校則がなく、自主規制というものがありました。自由や主張には責任が伴う環境でした。例えば、ルーズソックスの着用をどうしたいかということを議論して考えていく機会がありました。制服と学校の歴史を考え、ルーズソックスを履くことはその歴史やブランドを背負えるのかということが議論されるような学校でした。
登山が多いことも特徴的でした。スタートとゴールと大まかなルートしか決められておらず、チームで励ましあって大変な過程を楽しんで達成する。修学旅行も京都と奈良で、基本的に毎日何をするかはチームで決めていました。
演劇もよく見ましたね。いまでもミュージカルはよく見ます。ストーリーの組み立て方や演出など、とてもいい勉強になります。中高では文化祭委員長をやっていました。今のPlug and playも文化祭をやっているような感覚で、あの時の日々が今にもつながっていると思います。
何かを立ち上げる人は過去にそういう経験があることが多いと思いますが、一方で過去のバイアスには注意しています。他の人の意見も聞きながら、たまにあえて違うことをするようにしています。
──大学ではドキュメンタリー制作の勉強をされていましたが、就職では別の道を選ばれました。いまだからこそドキュメンタリーを自分で作ってみたいと思いますか?
先日沖縄で行われた、ディレクソンという市民がドキュメンタリーをつくるNHKの企画に参加してきました。参加者が出した企画をNHKのスタッフが作品にしてくれるんです。マーケティングをしながら、映像をつくるという仕事もするのですが、こんな形で実現するんだ、わたしだったらどう撮るかを審査員をしながら考えていました。ドキュメンタリーを撮ることは、いまだったらやってみたいですね。
──ドキュメンタリーを好きになったきっかけや、ドキュメンタリーで好きな作品はありますか?
すごく好きなのは、NHKの「プロジェクトX」です。「プロジェクトX」は技術者を取り上げる番組ですが、一度だけ営業の方が取り上げられた回があり、大学で、その方が講演に来てくださる機会がありました。その講演が営業という仕事が面白そうだと思うきっかけとなりました。
ストーリーは、ドイツの喫茶店で「ソニーをください」というと、「ソニーはトランジスタラジオだろ」という答えが返ってくるまで俺たちは頑張ろう。誰も知らないソニーをこの地で変えるんだ、というものでした。この話の、企んで仕掛けるようなところが好きでした。もう一度見たいと思うほどです。
──企んでいるときが楽しいのですね
楽しい。どうしてやろうか、と考えているときが1番楽しいです。Googleには人生で大きく影響を受けていますが、そのGoogleに「Think big, Start small」という言葉があり、意思は大きく持つものの、まずは小さく始めるという意味ですが、Googleにいるときにそういった瞬間をたくさん見てきて、自分の糧になっています。

タフにしなやかに生きる

──ロールモデルはないとのことですが、影響を与えてくれた人はいますか?
キャリアデザインセンターのアメリカ支局で当時働いていた女性に言われたことが、今でも糧になっています。「タフにしなやかに生きなさい。」かわす日もあれば、受け止める日もある。ちょっといいなと思うのは、そういった方です。
──自由な時間があれば、何もしない時間を持ちたいとインタビューで仰っていました
CESに行った時に休暇で訪れたサンディエゴでは、本を読みたければ読む、散歩したければ散歩する、寝たければ寝るという時間を過ごしました。何もしたくないときは、インプットで疲れているときだと思います。その時はCESでたくさんの刺激を受けすぎてパンクしていたんですね。「夕日がキレイなんだよね、あの街」と人に言うとせっかく行ったのに何やってたの、と言われますが(笑)
「自由に対して責任を持つ」「終わりを意識するとスピードを意識する」ビジネスで成果を出す人として厳しい一面を見せる一方で、夕日の美しさを見つめる感性の余裕も持ち合わせた藤本さん。
選択肢のある働き方はまだ社会に浸透していないものの、start small から bigな未来へ一歩ずつ前進していることを確信した。
(執筆:松尾沙織)