なぜ部品メーカーのBoschがサービスを提供するのか

2019/3/14
自動車部品メーカーの印象が強いボッシュ。しかし、「MaaS(Mobility as a Service)」という新たなビジネスの登場で、いち早く存在感を発揮している。ハードだけでなくソフトも含めたIoTトータルサービスを推し進めるBoschの挑戦に迫る。
世界最大級のセンサーサプライヤーとして
川端 この半年で、自動車業界では「MaaS」がバズワードになっています。改めておさらいすると、MaaSはICTで交通をクラウド化し、移動にまつわるあらゆるサービスを提供するというもの。
 国土交通省でも昨年秋から「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」を実施していて、私も委員を務めています。日本におけるMaaSのあり方やバス・タクシー分野でAIや自動運転がどんなソリューションを提供できるかを議論し始めています。わかりやすい例でいうと、カーシェアリング、バレーパーキング、UberのようなライドシェアサービスもMaaSです。
 ところで、ボッシュは自動車部品メーカーというイメージを持っている人も多いと思います。「サービス」の分野にはどのように関わっているのでしょうか。
越智 まず、前提からお話しすると、MaaSはIoTを前提としており、IoTは自動車を始めとして様々な「モノ」に「知覚器官」であるセンサーがつき、そこから収集される情報を活用することで実現します。
 ボッシュはセンサーの世界最大級のメーカーです。特に、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれる超小型のセンサーは1995年から生産しており、3軸加速度、ジャイロスコープ、地磁気センサーなど幅広く展開しています。
 これまで累計60億個以上のMEMSセンサーを出荷しており、中でも車載MEMSセンサーはボッシュが世界最大級のサプライヤーです。スマートフォンでも、4台に3台がボッシュのMEMSセンサーを搭載するなど、かなり存在感を示しています。
センサー、サービス、ソフトウェアの「3S」
川端 確かにボッシュは世界最大級のセンサーサプライヤーとして、確固とした地位を築いています。車だけでなく、スマートフォンにもかなり搭載されているのですね。
越智 MaaSに関して、我々はセンサーを中心にしながら、ソフトウェア、サービスまで一気通貫で提供することができます。センサー、ソフトウェア、サービスを網羅した「3S」に力を入れています。
 自社センサーとクラウドを結び、OS、サーバー、ミドルウェア(※)を組み合わせたトータルなソリューションを提供するため、自社クラウド「ボッシュIoTクラウド」も提供しています。クラウドには、自動車はもちろんのこと、家電など様々な製品が接続しています。
(※)ミドルウエア:コンピューターのOSとアプリケーションの中間にあたるソフトウエア
 さらに2017年には、車向けのコネクテッドサービス専用のミドルウェア「ボッシュ・オートモーティブ・クラウド・スイート」をスタート。デバイス(車)の状態管理、キャンペーンやアップデートのロールアウト管理、通信プロトコル管理など、モビリティコネクテッドに必要なバックエンドサービスを網羅しています。
クラウドもミドルウェアもワンストップで
川端 IoTサービスでは、クラウドからミドルウェアまで全部を自社で提供できるのが強みですね。顧客側が自社でサーバーを持つ必要もありません。
越智 はい、自社クラウドとミドルウェア両方を提供するだけでなく、他社の大手クラウドサービスとの互換性もあります。すでに他社クラウドを採用している場合も、MaaSに関連するミドルウェアだけを実装することが可能です。
 できるだけオープンなエコシステムを展開しながら、オープンスタンダードやパートナーシップを構築するというのが、我々の戦略です。
川端 他社のクラウドとも連携できるというのが、ビジネスの可能性を大きく広げていますね。
 MaaS事業者というとレンタカー会社やバス会社のような、実際に車関連の事業者が担い手になるものだと思われがちですが、実はそうでもありません。
 ボッシュのようなサービスを利用することで、IT事業者やディベロッパーのような、まったくの異業種からの参入も簡単にできるようになりますよね。
越智 確かに我々のサービスを利用するお客様の幅は、大きく広がっています。それに伴い、自動車メーカーに部品を提供する会社から、様々な業種の企業にミドルウェアやクラウドサービスを提供する会社へと、我々自身も大きく変貌しつつあります。
 提供するものが、自動車の部品という「モノ」からサービスという「ソフト」に変わってきました。センサーが自動車という「モノ」のパーツであるように、MaaSでは、クラウドやミドルウェアもサービスのパーツなのです。
川端 ボッシュのサービスは、「情報のプラットフォーム」を提供するということ。これからMaaSを手掛けようとする事業者にとっては、非常にニーズが高いものだと思います。
 こういったサービスが提供できるのも、グローバル企業という規模感があるから。開発にかかる時間やコストを考えると、スタートアップにはとてもできません。
ハードとソフトのシームレスに提供
越智 こういったシームレスなサービスを提供していくため、2018年3月に設立したのが、ドイツと中国を主な拠点とする「コネクテッド モビリティ サービス事業部」です。
 日本とアメリカでは、現在、コネクテッドモビリティサービスの事業機会を探っているという段階。日本独自のサービス開発に加え、他国で開発されたサービスを日本市場向けにローカライズしたり、日本の自動車メーカーやサービスプロバイダーの海外市場展開をサポートする役割を担います。
 日本でも導入が進んでいるものとしては、「eCall(自動緊急通報)」があります。事故が起きたときに、その衝撃を検知して自動的にその自動車の位置情報などを救急隊員に通報できるサービスです。
ヨーロッパでは義務化が進んでいるeCall。日本でも高級車を中心に普及しつつある
 ヨーロッパでは2018年4月以降に登録されるすべての新車にeCallをつけることが義務化されています。eCallの中でも、高級車に搭載されているプレミアムサービスのほとんどのオペレーションそのものを、ボッシュが請け負っています。その技術とノウハウを日本でも展開しています。
 自動バレーパーキングソリューションも、国内で展開できるよう注力している分野のひとつです。
川端 自動バレーパーキングはすぐに実現してほしいサービスです。イメージとしては、大きな駐車場のある遊園地やショッピングセンターで、出入り口で待っていると、駐車場の端っこに止まっている車が目の前まで来てくれます。こういうサービスが実現すると、一般の人の認知が一気に広がるでしょう。
 MaaSの可能性はほかにもいろいろあって、例えば、オフィスビルをつくるときに、離れた場所に駐車場を同時に建てるというのもあります。オフィスは一等地に、駐車場は離れた地価の安い場所につくって、無人で車を動かせばいいわけです。
 輸送用に船に自動車を積み込むのも、今は人が1台ずつ運転して移動させていますが、バレーパーキングの仕組みを使えば、自動化できるでしょう。
越智 確かにそうですね。今まで自動車を知らなかった事業者がいろいろなサービスで参入してきます。だからこそ、自動車のことがわかっていながら、クラウドやミドルウェアを提供できることに価値があると思っています。
ダイムラーと共同開発する自動シャトルサービス
川端 自動運転のシャトルサービスをダイムラーと共同開発していると聞いています。これは具体的にどんなことを進めているのですか。
越智 2020年代前半に完全自動運転のシャトルサービスの商業化を目指しています。2017年からスタートしたプロジェクトで、ボッシュはセンサー開発、ダイムラーは車両へのセンサーの組み込みを担当。自動運転のアルゴリズムやソフトウェアは共同開発しています。
 今年の9月からアメリカのカリフォルニア州サンノゼ市で実証実験を始める予定です。
ダイムラーとの実証実験では、ユーザーの反応や交通に与える影響を知ることが最大の目的だ
 実証実験では、自動車1台に約50個のセンサーを搭載して、確実な安全性を担保しながら行います。もちろん技術的な部分もそうですが、我々としては実際にサービスを開始したときのソフト面のフィードバックが知りたい。乗客の反応、交通量の変化、ほかの交通機関との連携がどうなるのか、ということです。
 アメリカでの実証実験や商業モデルを確立して、世界に横展開していきます。
イノベーティブなサービスを生み出す仕事
川端 最先端のソフトウェアを開発し、その先にモビリティサービスという形がある。それは開発を担当するエンジニアにとっては、やりがいがありますね。
越智 時代を切り開く最先端のサービスに関われるということは、大きな魅力だと思います。コーディングだけしていればよいという、ひと昔前のエンジニアと違って、サービスのイノベーションを自ら起こしていく。それが我々の求めるソフトウェアエンジニアです。
 それができる環境はそろっているので、あとはどれだけ自分で考えてイノベーションを起こせるかが勝負です。そういう挑戦意欲のある人材に活躍してもらいたいですね。
 そもそも、イノベーションを起こすには、発信力が大事。それができる人材育成のために、社内でも様々なプログラムがあります。
川端 エンジニアだからといって黙って開発していればいい、という時代ではないということですね。
越智 そうです。「社内ピッチイベント」は、有志メンバーがチームを組んで、新規事業を提案するもの。実際に実用化されたサービスもあります。また、TEDのようなプレゼンをする社内イベントが「The Spark」。2年間育児休業をした男性社員がプレゼンしたりしています。
社内イベントでプレゼンする機会も。自ら発信する経験を積むことがイノベーションを生み出す
 ボッシュ・ジャパンの組織の特徴として、ダイバーシティが挙げられます。女性活用はもちろんのこと、海外事業所からの出向者なども含め、現在41カ国以上の国籍の人間が働いています。
 イノベーションには、トップダウンだけではなく、ボトムアップも重要です。ダイバーシティの中で自分の意見を発信できること。それを吸い上げて組織として吸収すること。そういう仕組みが、イノベーションを生み出していくのだと考えています。
(編集:久川桃子 撮影:稲垣純也 デザイン:九喜洋介)