優秀な同僚の正体は…。企業で働く“AIチャットボット”最前線

2019/2/25
先進的な企業では、今、社員の代わりに働く優秀な“ボット社員”が続々と登場している──。働き方改革や少子高齢化による労働力不足など、さまざまな課題に直面する現代企業が持続的な成長を遂げるためには、業務効率化や生産性向上が不可欠。そんな問題の解決策として近年、注目されているのが、AIチャットボットの活用だ。そう遠くない未来に訪れるであろう、人とテクノロジーが共存する新しい職場の姿を見ていこう。
 「社員からの問い合わせ2500件に1 人で迅速に対応しました」
 最も活躍した社員として月間MVPを受賞した“総務のハナコさん”は、社内から「わからないことがあれば、まず彼女に聞こう」と高い信頼を集める存在だ。
 「パソコンが起動しなくなった」「パスワードを忘れてしまった」「結婚したときにはどんな申請が必要か」「交通費や接待費申請の規定はどうなっていたか」など、社内で日々発生するさまざまな問い合わせにテキストでスピーディに回答。
 ハナコさんの入社によって、総務部に寄せられる問い合わせ電話は激減。同じ部署の社員からはより重要な仕事に集中できるようになったと感謝の声があがっている。
 実は、このハナコさんは人間ではなく、AIを活用した自動応答のチャットボット。これは、空想の物語ではなく、今すでにある企業で起っている現実だ。
 そして、今後、AI技術の進化とともに“ボット社員”の活躍の場はより広がり、単なる業務効率化を超え、ビジネスを加速させる相棒として欠かせない存在になることが期待されている。
 法人向けAIチャットボット「hitTO(ヒット)」を開発する株式会社ジェナ代表取締役社長・手塚康夫氏に、AIチャットボットが生み出す新しい働き方の可能性を聞いた。
チャットボットがビジネスの“最高の相棒”に
手塚 我々がAIチャットボット「hitTO(ヒット)」をローンチしたのは2017年5月。ジェナは2006年に創業した会社ですが、それまでは法人向けの業務アプリケーションを1000以上開発し、200社超の企業に導入するなど国内最大規模の実績を持っていました。
 チャットボット開発に向けた大きな転機は2015年のこと。ソフトバンクが日本語版の「IBM Watson(ワトソン)」の展開を始め、そのサービス開発を手がける初期パートナーとして、当社が加盟したのです。
 「IBM Watson」を活用したサービス開発のなかで、お客様からのニーズが高かったのが社内外からの問い合わせに自動応答してくれるチャットボットでした。
迅速な回答で業務効率化に寄与
 現在「hitTO」を導入していただいているお客様の9割は、従業員1000人以上の大手企業様。
 情報システム部へのIT関連の問い合わせ対応や、人事・総務窓口における社内制度やルールに関する問い合わせ対応など、社内の業務効率化を目的とした導入が中心です。
 実は開発当初は、社内向け、社外向け問わず精度の高いチャットボットを作り出すことだけを考えていました。チャットボットに対しては、ECサイトなどで利用されるカスタマー向けの問い合わせ対応というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
 しかし、お客様と話していると、企業での社内利用のニーズがとても高いことに気づいたのです。
 冒頭のシーンのように、ITトラブルの解決法や社内申請の方法を知りたいという問い合わせは企業内で日々発生しています。社内向けのFAQサイトを探しても必要な情報をなかなか見つけられず、困った社員の方が社内窓口に電話で相談する。
 このプロセスだけでも貴重な業務時間が割かれます。時間帯によっては回答がすぐに得られないこともあるでしょう。
 一方、問い合わせを受ける側のITのヘルプデスクや人事・総務担当者も、毎日同じような質問に答えることになり、本来やるべき生産性の高い仕事ができないという課題を抱えていました。
 そこにチャットボットを導入すれば、両者のストレスが軽減され、業務効率が高まるだろうと多くの期待が寄せられたのです。
ハイブリッドなAIが高精度な回答を実現
 「hitTO」の特徴は大きく3つ。
 お客様のブラウザで簡単にチャットボットを作成でき、AIの自動学習機能により運用の負荷が非常に少ないこと。
 国内の主要なビジネスチャット(LINE WORKSやChatwork、Office365のTeams、Skype for Businessなど)と連携しており、お客様オリジナルのチャットボットができること。
 そして、AIチャットボットの導入を成功に導く、支援メニューが充実しているところです。
 導入にあたっては、カスタマーサクセスチームがフォローに入り、AIチャットボットの受け答えのもとになる学習データの作成やチューニングをサポート。よくある質問とそれに対する回答を覚えさせていきます。
 さらに「hitTO」は、「IBM Watson」に加え、当社が独自に開発した自然言語解析エンジン「hitTO AI」を組み合わせることによって、自動学習ができるように。質問に対する回答の良し悪しをユーザーが評価することで回答精度が向上し、メンテナンス工数の削減につながります。
導入成功のポイントはチャットボットの「擬人化」
 企業のテクノロジー導入でしばしば課題になるのは、最先端技術を取り入れたもののあまり活用されないという事態。これを解決するひとつのポイントが、キャラクターを活用したチャットボットの「擬人化」です。
 実は、導入時の打ち合わせで意外と重要なのが、チャットボットのキャラクターと名前の検討です。お客様の自社キャラクターを使っていただくこともできますし、当社で用意した10種類のキャラクターから選んでいただくこともできます。
 “総務のハナコさん”など名前が決まったら、受け答えの言葉づかいもキャラクターと統一させた、やわらかく、フランクなものにしていくこともポイントです。
 社内の自動応答システムにどうしてキャラクター性が必要なのか?と疑問を持たれるかもしれませんが、私たちがお客様に提供したいのは、“AIのシステムを使う”という無機質なものではなく、“AIとコミュニケーションをとる”有機的なユーザー体験。
 いくら回答精度が高くても、利用されなければこれまでのFAQシステムなどと同じ結果になってしまいます。
 キャラクター化により社員の方がチャットボットに親近感を抱いていただくことで、利用率の向上につながります。そして問い合わせ数が多ければ多いほどAIの学習機会が増え、回答の精度が高まるという好サイクルが生まれていくのです。
 「うちの部署にハナコさんが配属になりました」と人事発表し、ほかの社員と同様に組織図に組み込み、朝礼で発表されるお客様もいます。「これからはハナコさんに聞いてね」と、チャットボットを優秀な同僚として社内で受け入れていただく流れが生まれています。
社員の本音が集まる場所に
 ローンチから約2年。現在、多くの企業でITヘルプデスクや人事・総務窓口に導入され、待ち時間がなく即回答が戻ってくるスピード感に「業務効率が上がった」「仕事が中断されなくなった」と、多くの声が寄せられています。
 さらに、見えてきたのは、「hitTO」に集まるデータの思わぬ有効性です。社員が対応していたときにはほとんど寄せられなかった問い合わせが、多く集まるようになったのです。
 例えば、人事・総務窓口には人事評価や給与、有給休暇についてなど、社員相手には少し聞きにくい質問が寄せられるように。
 「こんなことを業務時間に聞かない方がいいかな…」といった遠慮がチャットボット相手だと薄れるため、これまでは見えることがなかった社員の本音が聞こえてきました。これらは人事制度の見直しや社員の離職対策を考える上で非常に貴重な情報になります。
 また、IT関連の問い合わせでも、社員の問い合わせの傾向をデータ化することで、社員がどんな点につまずいているのかがわかり、事前研修などの設計ができます。
 導入前には多くのお客様が、電話やメールの問い合わせ件数の削減や業務時間の短縮をROIにしていますが、使い始めると社員の満足度向上につながる、社内のマーケティングツールになることに気づく。これは、我々にとってもお客様にとっても、いい意味で想定外の出来事でした。
自分だけの“相棒”がビジネスをサポート
 AIチャットボットの活用は、今後さまざまな領域に広がっていくでしょう。
 例えば営業領域では、提案支援ツールとしての活用が期待されます。これまではお客様先でわからなかったことがあれば会社に持ち帰って調べていましたが、その場でAIチャットボットに問い合わせ、即回答をもらって説明することが可能に。こうして、ビジネスのスピードが加速し、売上の向上にもつながるはずです。
 その先に見据えるのは、パーソナルボットです。一人ひとりがAIチャットボットを“相棒”として持つ世界観。
 例えば、「あの資料を送ってほしい」と同僚からメッセージが来たとき、会議中で手が離せない自分の代わりに、文意を読み取ったパーソナルボットがファイルを送ってくれる。
 メッセージのやりとりをAIが学習することで、普通に仕事をしているだけでボットにどんどん情報が蓄積され、自分に必要な情報を教えてくれる。
 「この企業には過去にこんな提案をしています」「今日はこの書類を提出する期限です」など、最適なアドバイスやリマインドをしてくれる“最高の相棒”が生まれるイメージです。
 システムによる効率化を超え、自分の仕事の特性を理解した「相棒との協働」によって、働き方は大きく変わっていく。そんな世界を、「hitTO」は本気で作りたいと思っています。
(構成:田中瑠子 編集:樫本倫子 写真:的野弘路 デザイン:國弘朋佳)