【山崎万里子】「お客様に対する姿勢」が私たち共通の価値

2019/2/19
衣類や小物などを販売するセレクトショップ「ユナイテッドアローズ」などを運営する企業、ユナイテッドアローズで最年少、かつ女性初の執行役員を務める山崎万里子氏。
山崎氏に、女性や母としての働き方、そして時間のマネジメントなど、リアルな生き方を聞いた。
※このインタビューは、「NewsPicksアカデミアゼミ」の佐々木紀彦ゼミ「実践・稼げるコンテンツの創り方」にてゼミ生が課題として実施したものです。
山崎万里子/ユナイテッドアローズ執行役員
ユナイテッドアローズでブランドマーケティングや経営戦略を担当し、2016年より社名と同じ営業部門ユナイテッドアローズのマネジメント、2018年より人事担当。 2013年12月には、『仕事の不安を一つひとつツブしていくやり方』を出版している

50歳までに転職したい

──著書では小さな事業の責任者をやりたいとおしゃっていましたが、お子さんが生まれて変化がありましたか?
山崎 子供が生まれてから考え方が結構変わりました。生まれる前は小さなビジネスを全部やりたい、パーツの一つではない仕事をしたいと思っていました。
今45歳ですが、50歳までに転職したいと思っています(笑)転職というと語弊がありますが、会社に不満があるとか辞めたいという意味ではなく、正確にいうと転職できる力を付けたいです。
私は生まれて初めてアルバイトをした会社に26年間います。
ユナイテッドアローズという会社のことは誰よりも知っている立場になり、全員後輩。だれからも舐められないし、権限も持っている。ユナイテッドアローズの中ではやりたいことをやれる環境です。
しかし、このままでいると会社にぶら下がる人、社内でしか通用しない人になってしまうのでは、という焦りがあり、50歳までには社外でも通用するような人材になりたいと思っています。
──なにがあれば社外でも通用すると思いますか?
専門性だと思います。
社内のジョブローテーションでは各事業部のトップになりますが、それぞれの部署で私に専門性はありませんでした。
今はユナイテッドアローズで人事のトップをやっています。私はこれまでマネジメントをやってきたので、その部分について不安は全くありません。
部内では私より専門性を持つ人が周りにいるので、私に期待されることは専門性ではなく、人事改革。しかし、しっかりと勉強して専門性を身に着けてから、人事改革を行いたい。
今はそのような意味合いで、他社でも通用するぐらい人事の専門性を身に着けたいと思っています。50歳までに転職したいと言ったのは大げさでしたね。(笑)

ロールモデル型の時代ではない

──人事としてお仕事をされていますが、若い層は従来のやり方が通用しないことはありますか?
たくさんありますね。
若い層全体に言えるのはストレス耐性が弱い、それは理解しなければならないと思っています。
一昔前のマネジメントのスタイルは「いいからやれ」「俺もやってきたから」
今はそのような精神論は全く通用しません。
全員が私のようになりたいと思っていないから、「私のようにやれ」は通用しないし、特に女性社員も多いので就労観はバラバラです。
私のように仕事をバリバリこなすスタイルの女性もいますが、仕事を絶対に定時で終わらせてプライベートを充実させたいという女性もいる。それを受け入れなければだめだと思います。
ロールモデル型の時代ではもうないです。これは女性に限った話ではもちろんなく、男性にもいえること。
──そのような就労観が違う中で組織を束ねる価値観はどこにありますか?
ユナイテッドアローズの場合、共通する価値は「お客様に対する姿勢」。それは全員変わらないです。
すべて顧客視点で物事を判断していて、アルバイトでも社員でも、経営者であっても同じです。
就労観はバラバラでも良いと思いますが、就労観が異なると、パフォーマンスも仕事にかけるエネルギーも違います。それは明確に評価を変えければならないし、報酬はもちろん、機会や権限も差をつける必要があると考えます。
──ユナイテッドアローズでは人事評価で大切にしているポイントはありますか?
まず、年功序列は一切ありません。役職や給与も全く関係ありません。部員のほうが部長よりも給与が高いことも当然あります。
営業など定量的に測れる部署はわかりやすいですが、そうではない部署もパフォーマンス目標達成率と行動評価を用いて評価を行っています。
周囲に対して感謝の気持ちを持っているか、人として正しいことを行なっているかなど、様々な方面から評価しています。パフォーマンスは良いものの、人として駄目な人は評価されないですし、その逆も然り。
今はマネジメントがその評価をしていますが、今後は管理職を対象に360°評価を導入します。
職位が上に行けば行くほど業績目標のほうが重くなります。そうなると「結果を出しているので文句が言えない」という状態になりがちです。一つ間違えるとハラスメントに繋がる懸念があり、就労観の多様化についていけない部分があると思っています。
たとえば私が部下にオラオラしていても、経営者にヘコヘコしていたら評価が良くなってしまう…そのような状態になると早めに顕在化していたら解決していたであろう問題が大問題に発展する可能性がある。炎上した状態でトップマネジメントの卓上にあがってくる。
その状況は組織にとってのリスクなので、マネジメントが自分の姿に気づく仕組みが必要だと思っています。
普通、上司に直接「言い方がちょっとくどいです」「執拗に飲み会に誘われるのが鬱陶しい」とか言えないですからね。(笑)

女性の社会進出への課題

──女性の働き方に関してどのような課題がありますか
女性の働き方改革に必要なのは男性の働き方を変えることだと思います。例えば男性の育休取得。
私自身女性で人事の責任者をやっていると、女性の働き方改革、女性の管理職登用など議題が山のように来ます。私はそのたびに「そのボールはもちませんよ。男性が持ってください。」と言っています。
女性の活躍の対にあるのは、男性の働き方改革であり、女性の社会進出の対にあるのは絶対に男性の家事育児といった家庭への進出だと考えています。
女性の社会進出の議題で、その立場にある女性を集めて議論することもありますが、それは一番だめなやり方です。
女性がなぜ苦労しているかというと、家事育児と仕事を丸抱えしているからです。会社や仕事のことだけを見ても解決しませんし、家事育児の負担を減らすことが大切です。それしかない。
「女性の活躍、社会進出には何が必要ですか?」と聞かれたら、ちょっとリスキーな表現かもしれませんが、「夫選び」と答えます。
今はまだ、多くの家庭で伝統的な家庭のあり方を体現していると思います。男性はフルタイムで働く、残業がある、飲み会に行く。子供の送り迎えは女性がする、食事を作る、掃除洗濯も女性がやる。その役割分担を分解しないといけないと思っています。
その役割を分担してくれるような夫を選ぶことと教育することが大切だと思います。

やらないことを決める

──今ご自身では、限られた時間の中で、時間管理はどうされていますか?
会社の仕事は重要度の高い仕事をやって、そうではない仕事はやらないようにしています。
緊急度と重要度の高い仕事があると、どうしても緊急度の高い仕事の対応ばかりをやってしまいます。そうすると重要度の高いタスクがいつまでも未着手ということになりますから。
自分の中で仕事を重要度という軸で分けて、1週間、1日の予定で、どうすれば重要度の高い仕事に手を付けられるかを考えます。一方で、緊急度の高い仕事が発生してやらなければいけないこともやはりあります。重要なタスクが、それで削られて、削られて、ちょうどいいくらいです。
自分じゃなくてもいいタスクは人に任せるようにしたり、任意参加の会議や打ち合わせは参加しないようにし、やらないことを決めています。
管理職だと1日中会議や打ち合わせに出席しなければならず、仕事をした気にはなっても実は何も生んでいないことも多いものです。
とても忙しい感じの人でも何も生んでいないし、それでも怒られない。私は自身がそのようになることに危機感を感じています。
──子育てしながらだとスケジュールの組み立ても大変だと思いますが。
出産前はぎっしりタスクリスト作ってスケジュールを埋めるのが快感だったのですが、それをハチャメチャに子供が壊してくるわけです。
だからこそ、自分の仕事の中での重要度が大切になってきます。私は重要度を決めてトップ3くらいしかやらない、自分の中で課題リストを作るときは極力減らして、スケジュールには余白を持たせたい、本当はもっとスカスカにしたいと思っています。
──そのやること3つはどのような期間での設定なのですか?
私は長い視点で、人生でのやりたいことを3つくらい決めています。
それが10年、5年、1年のやりたいことって繋がっているイメージです。
今は50歳までに他社でも通用するような、人事分野で専門スキルを持った人材になることが目標です。
そのためには、学びも重要度の高いタスクの一つだと考えていて、1日のスケジュールの中に学びの時間、例えばセミナーとか勉強会への参加や本を読む時間などを必ず入れるようにしています。
行きたいセミナーがあったら「行く」って決めて行きます。本を読むのは中断できるのでなかなか難しいですけど。(笑)
──お子さんが生まれてからはその学びの時間が減ってフラストレーションではないですか?
子供が生まれてから勉強にかける時間は1/10くらいになりましたが、仕方ないですね。頼まれて子供を生んだわけじゃないので、自分で決めたことだからと割り切っています。
今は10倍に燃費上げるしかないです。そのために無駄な仕事をしないってことに繋がっています。
家庭でも同じで、時短を心がけていて、手を抜くか、人にやってもらうか、夫にやってもらうかを実践しています。
たとえば、料理をしている時間のほとんどが切っている時間だと気がついて、野菜は手でちぎるか切ってある野菜やお肉を買ってきて加熱するだけにしています。
毎日の服選びも時間が掛かるので、トップス3〜4着、ボトムス3〜4着、をシーズン頭にまとめて買います。そして毎日その組み合わせをしますのであまり迷わないです。
そんな服の買い方なので、「どれを着ても大丈夫」な組み合わせができるように買います。そして1シーズン常にそれを着るようにして、シーズンが終わると人にあげてしまいます。
こういう仕事をしているので、今シーズンの服を着ていないとだめだと私は思っています。私は外の人と会う時には当然ユナイテッドアローズの山崎として会うので、そのときにユナイテッドアローズの服を素敵に着ていることは大切だと思っていますので、意識して必ずオンシーズンの服を着るようにしています。

合理と情理

──お話を聞いていると意志決定がすごく合理的だと思いますが、合理的じゃない判断はあるのですか?
人事です。
人の悩みを聞く時や、人の配置、職責任命は合理的判断だけではないので、人に寄り添って応えます。
また、頭を悩ますのはアサインメントです。「この部門長は誰にするか?」「そこのサブリーダーは誰にするか?」「この人は外そうか?」などです。
アサインメントを考えるとき、合理だけで考えると「この人がいいけど、この人はこういうリスクがあるよね」など。加えて、マインドの部分や人に対する態度についても考えます。人事には合理的な判断だけではなく情理で考えることも必要だと思っています。
──もともと合理主義だったのですか
女性は同じタイプが多いと思いますが、私もすごくエモーショナルな人間でした。
どちらかというと右脳が強く、当事者意識も責任感も強いけど周囲があまり見えておらず、問題が起きた時には全体ではなく問題点だけ見るというタイプでした。
しかしマネジメントをするにあたって、仕事ができる人の共通項は左脳をちゃんと使い、しっかりと合理的な判断をすることだと気が付きました。
私は得意ではありませんが、鍛えておかないとそういうことができる人達と対等に仕事ができないと思い、合理的思考は嫌いですがやっています。(笑)
私は会計やファイナンスは大嫌いで、合理的思考も最初は苦手で面白くはありませんでした。合理性を担保するために勉強しましたが、初めは辛くて。
ただ、勉強し続けると出来る感覚がわかる瞬間がありました。子供が自転車に乗れる感覚というか。それがわかってからとても面白くなって、それから好きじゃないことを学ぶことへの抵抗感がなくなりました。
──合理的思考は子育てにも生かされていますか?
子供は、生まれて初めて感じた「努力ではどうにもならないもの」です。それを知ることができたことはとても良かったです。人は変えられないと理解できましたから。
子供は期待に応えようともしないじゃないですか。すごく裏切ってきますし。
出産後久しぶりに会社へ行った時に、「最高だな」って思ったのです。ここにいる人は泣かないしわめかない、話せば分かるし、なんてありがたいことかって。(笑)
だから子供が生まれてからは、価値観が違うぐらいでピーピーギャーギャー言うことはやめようと思いました。
夫婦の役割的には私は子供に自信を持たせる担当なので、「好きだ」「愛している」「ありがとう」と言うようにしています。夫は子供の地頭を鍛える担当。(笑)
──自信をもたせることはお子さんだけでなく部下にも考えていますか?
そうですね。「私はあなたの絶対の味方です」というスタンスをはっきりさせています。
良いことも悪いこともメンバーには言わなければならないので、悪いことを言う時に「自分にとっての批判者」と思われると相手がびっくりしてしまいます。根っこの部分で「私はあなたのことが大好きで、一緒に仕事がしたい、あなたの味方ですよ」という前提で接します。
機会提供があり正当な評価をされればいい、といったモチベートされなくても平気な人もいます。そういう人は放って置きます。
逆に「やっている?」というように気にかけて寄り添う必要がある人もいます。
自立できる人もいれば伴走してほしい人もいますので、私は伴走して欲しい人にはそれなりに伴走するようにしています。

恥をかいても死なない

──自信がなく一歩を踏み出せない人も多いと思います。そのような人へ伝えることは?
自信がなければ勉強すればいいと思います。一歩踏み出しても意外と怪我しないこともありますし。逆に今の状態のままだと大怪我することもあります。
自分はそんな能力がないという思い込みもあると思いますので、それは自分で決めずに、第三者評価を受けたほうがいいのではと考えます。方法はメンターでもいいでしょうし、ヘッドハンターでもいいです。
それでも明らかに自分が望んでいる姿に足りないのであればそれは勉強するしかないと思います。
悩んでいるだけでは何も進まないですから。
一歩踏み出して大怪我すると言っても、プライドが傷つくだけ、つまり恥をかくだけだと思います。
そんなプライドなんてどうでもいい。恥をかいても死なないですから。
(執筆:鈴木 潤)