芸人としてキャリアをスタートさせ、音楽プロデュースした「ピコ太郎」で世界的ヒットを飛ばした古坂大魔王氏。
今年1月には著書の発売や、NewsPicksが手がける経済リアルコメントショー「The UPDATE」のMCを務めるなど、その活躍の場は広がりを見せている。
苦境からブレイクまで経験した、古坂氏にとって「お金」とはなんなのか。20代〜現在に至るまでのお金遍歴を聞いた。
「いい洋服」と「いい機材」だけは手放さなかった低迷期
──はじめに、古坂さんのお金遍歴を聞かせてください。
古坂 デビュー時はまったく売れませんでしたが、20代に『ボキャブラ天国』で売れ始め、30代はズコーンと落ちて、40代は「ピコ太郎」のおかげで景気が良くなっています。あくまで景気の話ですよ。収入とか貯金の話じゃないですから。
──各世代で何にお金を使われてきたかを教えていただけますか?
古坂 どの時代も変わらず、「自分」にお金を使ってきました。自分への先行投資ですね。って言うとかっこいいけど、多くは衣装と趣味です。「いい洋服」と「いい機材」。これは売れなくなった時期も絶対に手放しませんでした。
萩本欽一さんの言葉で「貧乏な時ほどいい服を着ろ」というものがあります。「襤褸(ボロ)を着ても心は錦」の逆ですね。だからライブに出演する時は、ライブの入り用衣装とライブ用の衣装をいつも二着持っていました。会場に入るまでの衣装を着て入り待ちのお客さんに会い、楽屋についたらリハ用のジャージに着替える。で、舞台に立つ前にまた別の衣装に着替える、みたいな。
──それはなかなか大変そうです。
古坂 汚い服や同じ服を着ていると、「あ、稼いでいないんだ」って思われちゃう。とくに僕らの職業はプロレスラーと一緒で、悪役は悪役のまま、イメージ通りでいないといけないから。着るのは変なスーツだったりサメの被り物だったり、そんなものでしたけど。
──ちょっと無理してでも、自分の見せ方にお金を使っていたと。
古坂 「自分はイケてる」と思える状況を意図的に作ることは大事です。なぜなら、心の余裕が生まれるからですね。僕ら世代で言う、「大きい部屋に住めば収入が増える」も同じことで、『ボキャブラ天国』に出演していた20代前半の頃は、思えば収入のほとんどを家賃に充てていました。
たとえば、いい車に乗って「ういーっす」と現場に入るのか、満員電車に揺られて「おはようございますっ!」って服がよれた姿で現場に入るのか、両者の精神的余裕は違うと思うんですよね。それは芸には関係ないじゃないかって言うかもしれないけど、「じゃあ売れてる人たちを前にしてひとりで喋ってみて」って話で。そういうときに助けになるのは、「余裕」なんです。
──いい部屋、いい服、は仕事の味方になってくれるんですね。
古坂 ちなみにその後、人気が低迷して小さなワンルームに引っ越してからは、どんどん仕事が減っていきました。そして、思いきって30代後半にまた広い部屋に引っ越して売れたのが「ピコ太郎」です。だからこの説は信用できますね。今思えば、ですけど(笑)。
自分の「表現」にお金を使えることは幸せ
──さきほど「いい機材」にお金を使っていたという話も出ましたが、それについて詳しく聞かせてください。
古坂 もともと、インターネットとか音楽とかそういうものが好きでした。20代のまだテレビに出て間もない頃、パソコンだけに700万円も使って。それから音楽機材も揃えて、自宅でレコーディングができる、プロ仕様の設備を整えました。
「PPAP」にも使っているリズムマシンのTR-808は、40万円くらいするんです。で、鳴るのは「ピ・ポーン」だけ。 「ピ・ポーン」だけで40万円ですよ。「ろくに食えていない時期に、お前バカだな」って、それが大事です。
──プロデュースされた「ピコ太郎」さんがヒットして、お金の使い方に変化はあったのでしょうか。
古坂 たとえば一緒に番組をやっている出演者に衣装をプレゼントしたりとか、プロデュースしたアイドルの子たちに衣装を買ったりPVを自腹で作ったりしたことはあります。すごく気持ちよかったですね。
──誰かの仕事に貢献する楽しさ、というか。
古坂 というよりは、自分の頭の中にある「こんな衣装を着せて、こういう曲をやったらかっこいいんじゃないか」を提示できた嬉しさでしょうか。アイデンティティーを表現できることが、人間としてどれだけ幸せなことか。
僕らは動物的に言えば、きっとDNAを後世に残すために生まれてきたはずなんですよ。また血の次に何を継ぎたいかというと、自分の意思ですよね。「あんな人いたよね」って自分の記憶を残してもらいたい。残したものをたくさんの人に見てもらえたって事実がすごく大事で。
「PPAP」は今累計4億回再生(Ultra Musicと公式チャンネル合算)ですが、収入が増えたことよりも、自分が作ったものを認めてもらえたことが嬉しい。ちなみに、ジャスティン・ビーバーがツイートした「PPAP」のリンク先は、偽物だったんですけどね(笑)。
──え、そうなんですか?
古坂 誰かがコピーして作ったもので、公式ではないんです。悔しいですよね。だけど、もしその偽物がいなかったら、ジャスティンまで「ピコ太郎」は届いていなかったかもしれない。そう考えると、残念だけど、偽物についた再生数は捨てましょうよって。
お金とは「その人の現在の価値」、でもただそれだけのこと。
──これまでの古坂さんの話を伺って、いい意味であまりお金自体には固執していないように感じました。それよりも自身の「表現」の部分を大切にされていますよね。
古坂 僕はそもそも、お金にあまり興味がないんです。お金を使うことは好きですけどね。
前提として、お金ってものは「その人の現在の価値」だと考えています。たとえば、月給30万円の会社に勤めていれば、どれだけ仕事をしていてもその人の今の価値は「30万円分」だと思っているんですよ。その評価に不満があるならば、フリーランスになるなり転職するなりして、自分でその価値を上げていけばいい。
でも、ただそれだけのものである、って言葉は最後に付け加えたいなと。「価値」と言われるとその人の全てと思うかもしれないけど、そこには友情とか愛とかは含まれてない。ただ単に今あなたが社会に生み出している、あなたに対してつけられた値段。
それが明日には1億円になるかもしれないし、来年も10年先も分からない。お金って、言うなればそんなものです。
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