【佐藤琢磨】42歳の非エリート。初の年間王者へのシナリオ

2019/2/20
*前編はこちら
【佐藤琢磨】わずか10ミリの差を制す、“人車一体”の総力戦

時速380キロの中の集中力

――心拍数180に達するインディ500は3時間近く行われます。集中力には総量があると思いますが、どうやってペース配分していますか。
佐藤 おっしゃるように集中力には総量が決まっています。トレーニングによってクオリティを上げることはできても、3時間ずっと集中しっぱなしというのはコンピューターじゃないのでできません。僕らは息抜きをしないといけない。
息抜きと言うとちょっと語弊がありますが、ストレートで走っている時間は基本的に集中力を下げて休みます。
普通の人にとってみると、高速になればなるほど視野が狭くなる中、恐怖心が出てくるからものすごく集中しないと高速道路は怖いですよね。
僕らは真逆です。最高速に到達して380キロぐらいのときは、たぶん一番リラックスしている。それは歩行者や対向車がいないのが前提であるプロスポーツのシーンだからこそできることなんですよ、もちろん。
佐藤琢磨(さとう・たくま)/1977年東京都生まれ。2001年日本人初のF3チャンピオン。2002年からF1に参戦し、2004年アメリカGPで3位。2010年からインディカー・シリーズに参戦し、2017年のインディ500で日本人初の優勝を果たした(写真:AP/アフロ)
けれども、その状態からコーナーに入っていく手前のブレーキングポイントやターンインポイントのときに集中力をパーンと100まで跳ね上げて、コーナーに入っていって車を感じるわけですね。車を感じてないとスピンしてしまうので。
それがまた徐々に下がっていって、コーナーの出口でまた落ちていく。その繰り返しをやって、少しずつ効率的にエネルギーと集中力を使うというイメージですね。
――ボクシングの井上尚弥選手は「ボクシングで3分間集中し切るなんて無理」と話していました(参考記事はこちら)。アスリートの集中の仕方は独特で興味深いです。
その道のプロと言われている人たちは、常人では考えられないようなレベルのところにいるので、その世界を知るのは確かにとても興味深いですね。
でも、僕らもトレーニングや練習によって能力を上げてきています。始めからすべてできるわけではありません。
自分の場合は本当に車とレースが好きで好きで、ずっとやりたくて、でもなかなか簡単にできる世界ではないから、本格的に始めたのは19歳からなんですね。鈴鹿サーキットレーシングスクールを卒業してからレースの世界に入りました。
だから幼少期から英才教育をずっと受けてきた選手と比べると、足りないところはたくさんありました。失敗して、学んで、引き出しを増やしていって、その隙間を埋めていくという作業をずっとやっています。そのために集中すべきところは集中していかないと学び取れないし、吸い取れないんですよね。だから集中力はすごく重要視しています。
当然、フィジカル的なスタミナがないと集中できないですから。今年42歳になりましたけど、トレーニングも集中して効率を上げ、若い選手に負けないようにがんばっています。そうすればこれまでの経験値などで、まだ全体的なパフォーマンスは上向きにできると思うんですよね。