【海部美知】アルゴリズムを金型に儲ける時代へ

2019/3/6
半導体からIT企業の聖地として世界の最先端を走るシリコンバレー。その誕生の歴史とシリコンバレーで生まれた「儲け方のビジネスモデル」をシリコンバレー在住のコンサルタント・海部美知氏が解説する3回シリーズ。最終回では、シリコンバレーが生んだ「儲けるシステム」について語る。
古代から続く投資家と事業家の分離の仕組み
これまで、シリコンバレーの誕生から全国区になっていくまでを振り返ってきた。そこにベンチャーキャピタル(VC)が果たした役割は大きい。そもそも、投資家がなぜ海のものとも山のものともつかぬベンチャーに投資するかというと、失敗するリスクが高い代わりに、成功すれば超大儲けができるからだ。
このような、投資家と事業家の分離という仕組みは、古代フェニキアや、中世ヴェネツィアなどで行われていたという。長距離航海という高度スキルが必要な事業に対し、自分で危険な航海に出る気はないが、お金はだしてもよい、という人が共同で出資。リスクを分散し、リスキーなプロジェクトの実現可能性を高めるというものだ。投資家は、船が途中で沈めば全部なくすが、無事に船が戻ってくれば莫大な儲けが得られる。このころ、投資の仕組みは、「海のもの」だったのだ。
長距離航海は投資の仕組みの原型といえる(写真:JamesBrey/ getty images)
航海がからむ投資事業は「交易による利益」への期待から始まった。ベンチャー起業家クリストファー・コロンブスが、スペインのイサベラ女王に投資依頼のために行ったプレゼンテーションでも、ビジネスモデルは「西向きにアジアに達して、安くコショウや絹を輸入しましょう」というものだった。
スペインの行く手は新大陸に阻まれてしまったが、中南米で銀を発見して結果オーライ、ラッキーにも交易以上に大儲けした。以後、新しく入手した領土での「お宝探し」は、重要なビジネスモデルとなった。北米最初の植民地を建設したヴァージニア会社も、「お宝探し」を目的として、ロンドンで投資家から資金調達して大西洋を渡った。
時代は進み、19世紀の技術爆発期には「お宝」は金銀ではなく、「技術」となった。アメリカで、動力革命やエジソンの発明、通信・鉄道建設など新技術の発達をドライブしたのは、常に「投資マネー」であった。イギリスの投資マネーや東部で蓄積された富が、高いリターンを狙って、伸び盛りのアメリカの電力や電話や鉄道に流入したのだ。
リスキーなプロジェクトを動かすための投資の仕組みは、形を変えながら、フェニキア人の時代から現代のシリコンバレーまで、営々と続いているのだ。
ムーアの法則とネットバブルが「技術のお宝」を
20世紀後半の産業の繁栄は、製造業がもたらした。大量生産により発生する大きなマージンがそこで働く人の給料として分配され、その人たちが消費者となり大量の製品を買うという循環が生まれた。
製造業の大量生産でマージンが生み出されるのは、金型や製造設備のおかげだ。これらを繰り返して使うことで、いちいちゼロから作らなくても、同じ製品を大量に安価に作ることができる。
1970年代後半、ちょうどアップルの創業の頃から、「ムーアの法則」とよばれる、半導体集積度の劇的向上が始まった。1980年代にはソニーがCDを世に出すなど、「デジタル化時代」が始まった。音楽・映像・情報が、アナログからデジタルに移行し始めて、デジタル情報の保存と流通のコストが劇的に下がった。
そして1990年代には光ファイバーの集積度が劇的に向上して通信のコストが劇的に下がり、インターネットバブルが起こった。いずれも、技術革新により、なんらかの「素材」の値段が劇的に下がることで、従来の価格との差に膨大な利潤が生まれる、という「技術のお宝」が掘り出されたのだ。
アルゴリズムという「金型」でマネーを生む
こうした経緯を経て、モノの時代は終わり、サービスの時代へ移行。消費者は、ハードウェア自体の価値よりも、それを介して得られるサービスやエクスペリエンスの価値を重視する。「テレビ」は単に箱であればよく、そこでどんな「コンテンツ」が見られるかが大事になった。
2000年代には、3Gモバイルの普及により、スマホ+クラウド+データの3点セットが可能となった。インターネットはテレビやカタログの代替という「閲覧」の役割を脱し、スマホで写真を撮って、クラウドにアップするという「データ入力」のメディアともなり、世界で蓄積されるデータの量が2007年(iPhone登場の年)以降、幾何級数的に増加した。
「データ」が急激に供給過剰となって「ビッグデータ」と呼ばれるようになり、これを素材として、機械学習や深層学習とよばれるAIのソフトウェアが多くの分野で商用化されるようになったのが現在のシリコンバレーである。
「ソフトウェアが世界を食べている」とは、起業家・投資家のマーク・アンドリーセンが2011年の記事の中で述べた有名な言葉だ。
ソフトウェアそのものが売りものになるクラウド系企業システムや消費者向けアプリはもちろんのこと、ハードウェアでも、医療・金融・製造・物流などのサービスでも、ソフトウェアが組み合わさり価値を出す。ソフトウェア商売自体は、マイクロソフトの時代からずっと続いているが、ソフトウェアによる「産物」である「サービス」を、モノの販売を介さずに直接届ける方法が発達した現在、ますますその重要性は増している。「AI」も、このソフトウェアへの流れの一つだ。
ソフトウェアは、一度アルゴリズムを作れば、そこにデータを入力すれば自動的に答えが出てきて、それをサービス化して売れば大きな利潤が生まれる。もちろん、継続的に改良は必要だが、それにしてもほぼ無限に再利用可能な「金型」であり、「サービス化」をうまくやれば、「お宝」になるのだ。
ソフトにモノや人を組み合わせて儲ける
世界最大の未上場企業、ライドシェアのウーバーは、サービスそのものは運転手が自動車を運転するという現物だ。しかし、提供するサービスは「移動」であり、その本体は配車・ルート案内・課金などのソフトウェアである。ソフトウェアに、ユーザーインターフェースとして「自動車」というハードと「運転手」という人が乗っている。
移動というサービスを提供するウーバー(写真:JasonDoiy/ getty images)
問題は、どうやってサービス化するか、マネタイズする(お金を稼ぐ)か、である。ソフトウェアといっても、その昔のマイクロソフトのように、CDを箱に入れて売っても今どき誰も買わない。グーグルやフェイスブックは広告配信で儲けている。グーグル、アマゾン、マイクロソフトなどはクラウド・インフラ提供が大きなビジネスとなっている。ただし、これらはすでに「勝ち組」が決まっている。
ウーバーは、タクシーのようなサービスにして、そのサービスに対して料金を受け取る。お客さんが料金を払う気になるようなサービスとして販売することが必要だ。ソフトに、運転手や配達人のような「人」を組み合わせたり、車やファッション・レンタルのような「モノ」を組み合わせて、「サブスクリプション」として課金するサービスが最近増えている。
ただし、ソフトウェア=金型でスケールできても、開発や営業などオペレーションコストはかかるので、それに見合う料金をチャージするか、十分な販売量がなければならない。特に、最先端の画像解析などはコストが高いので、単価の高い自動車や医療が「出口」として期待されている。
「お宝探し」化するソフトウェアのマネタイズ
しかし、高価な自動運転技術を開発しても、それを現在の自動車に搭載しただけではその分値段が高くなるだけだ。それで、ウーバー型の「ライドシェア」と組み合わせる「MaaS(Mobility as a Service)」という構想が語られている。とはいえ、そもそもウーバー自身もまだ黒字になっていないとされる。このように、人やハードウェアを乗せたソフトウェアのマネタイズは、まだまだ試行錯誤中だ。
1970年代から始まった「ムーアの法則」は2007年ごろ以降、スローダウンしている。光ファイバーやモバイル回線のコストダウンも、すでに一段落した。次のすべてをひっくり返すような大きな技術革新は何かというのは見えていないのが実情だ。ブロックチェーンもそこまでの大変革のきっかけにはなりえないだろう。AIに適した新しいタイプのチップの開発競争が行われており、ブレークスルーの可能性はあるが、実用化はまだ先と思われる。
現在のシリコンバレーは、船が帰ってくれば確実に儲かる「ヴェネツィアの貿易航海」というより、「新大陸でのお宝探し」に近い。「ソフトウェア」という新大陸は見つけたものの、その「どこ」にお宝が埋まっているかわからない。大金をかけて掘っても何も出てこないかもしれないのだ。
それでも、いや、むしろだからこそ、きっと当たれば大儲けできる。バブルと言われようとなんだろうと、シリコンバレーのベンチャーと投資家の活動は続いていくのだ。
シリコンバレーでゼロからスタートし、世界の巨大企業に成長したグーグル(写真:JHVEPhoto/ getty images)
ゼロからこれほどの巨大企業になったグーグルのような存在は、シリコンバレーでもごくたまにしか生まれず、「次」のグーグルが誰かはまだ見えない。しかし、シリコンバレーは歴史的にも常に変化してきた土地でもある。第2回見たように、お金の流れが変化しつつあるなど、現在のシリコンバレーのあり方がこのまま定着するのではなく、どこかでまた変化が起きるはずだ。
かつてはヒッピーとテック坊やが混在する地であった、どこかボヘミアン的な町から、巨大マネーを生み出すシステム化された町に変わってきたシリコンバレー。その変遷を愛着を持って20年見つめてきた身としては、これからさらにシリコンバレーがどう変わっていくのか、楽しみでもある。
海部美知(かいふ・みち) 米国と日本の新技術に関する戦略提案・投資や提携あっせん・調査などを手がけるコンサルタント。シリコンバレー在住。一橋大学社会学部卒、スタンフォード大学MBA。ホンダを経て1989年NTT入社。米国の現地法人で事業開発を担当。96年米ベンチャー企業のネクストウエーブで携帯電話事業に携わる。98年にコンサルティング業務を開始し現在に至る。北カリフォルニア・ジャパンソサエティ理事。著書に『ビッグデータの覇者たち』(講談社現代新書)など。
(編集:久川桃子 デザイン:田中貴美恵・大橋智子)
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