「機能はあるか」。既存ビジネスに依存しない住友商事のルール

2019/3/8
世界でも類を見ない「総合商社」というビジネスモデルは、時代の変化に先んじて、常に新たなチャレンジが求められる。2019年に創立100周年を迎える住友商事は、次なる100年に向けて、かつてない自己革新を起こそうとしている。本連載では、日本有数の総合商社である住友商事の「100年目の革新」に迫る。
AIやIoT、ロボディクスといったテクノロジーの進化によって、あらゆる産業のビジネスモデルが大きく変わろうとしている。自動車と農業はその代表格だ。
もちろん、住友商事にも自動車や農業に関わる部署が存在する。それぞれに歴史があり、既存のビジネスによる確固たる基盤で成果を挙げている部署だ。
しかし、既存ビジネスも変化し続けなければ、時代のうねりに対応することはできない。いかに、自らをバリューアップさせていくのか。その取り組みに迫った。
「住友商事の自動車関連事業は、完成車や自動車部品のトレード(仲介貿易)から始まりました。1950年代のことです」。
そう語るのは、自動車製造事業第一部の池端勇治氏だ。その後、日本車は世界での競争力を高め、販売台数も増加。世界を席巻し、日本経済牽引の立役者となっていた。
潮目が変わったのは、バブル崩壊だ。失われた20年が始まり、商社にも「冬の時代」が訪れた。住友商事も含め、多くの商社はトレードによる利益が減少し、事業投資に活路を見出すようになる。
「製造業への事業投資は、かなりユニークな選択だったと思います」(池端氏)
住友商事は、1990年代後半から部品製造事業や完成車事業への本格的な投資を開始。これが、自動車製造関連事業の始まりであり、自動車製造事業への参入の大きな第一歩だったと言える。
その先駆けとして1998年、住友商事は広島の自動車部品メーカー「ヒロテック」との合弁会社「ヒロテックメキシコ」(設立当時の会社名は「アベンテック」)をメキシコで設立。ドアやボンネットなどの外板部品を製造し、GM(ゼネラルモーターズ)へ供給した。
ヒロテックメキシコは、メキシコに進出した日系自動車部品メーカーとしてもパイオニア的存在だ
2004年にはそれらの知見を生かし、高い技術力で自動車ブレーキを製造する「キリウ」を買収し、100%子会社化した。ブレーキであれば、自動車が存在するかぎり需要が続く。
「自動車産業は100年に一度の転換期にあると言われています。CASEやMaaSなどが話題に上りますが、クルマ自体がなくなるわけではない。電気自動車にしても自動運転にしても、走る、止まる、曲がるといった根本的な機能は必要です。
ただし、メーカーに求められるものは変化します。たとえば、電気自動車はバッテリーを搭載するぶん、車重が重くなり、それに耐えうるブレーキ性能が求められる。新たな潮流に合わせ、自ら変化し続けることができるメーカーが生き残っていくのです」(池端氏)
高い品質を誇るキリウのブレーキディスク 
住友商事は、高い技術力を持つ彼らが十二分に技術力を発揮できるよう、あらゆるサポートをしてきた。経営企画や営業、人事総務関連、ガバナンスはもちろん、海外拠点の拡大のため、現場で共に汗をかき、バリューアップを追求する。
結果として、買収時と比べ、売上規模、海外拠点数共に2倍以上に増えた。
また、IoT、AIなどのデジタル技術を活用し、工場のデジタルトランスフォーメーションも検討している。さらに、「ヒロテック」や「キリウ」等のものづくりノウハウと組み合わせることで、次世代の製造事業の創出も試みている。
ここでは、時代に合わせた既存ビジネスのバリューアップが、今まさに行われているのだ。
100年に一度の大転換をバリューアップの源泉に
「自動車関連事業は完成車のトレードから始まり、川上の製造事業、川下のサービス分野まで裾野を広げています。この一気通貫のバリューチェーンとその相互連携が住友商事の自動車関連事業の強みです」(池端氏)
現在の住友商事の自動車関連事業は、「自動車製造事業」「自動車流通事業」「自動車モビリティ事業」と、自動車産業の川上から川下までを網羅している。
さらには全社横断の自動車ワーキンググループを設ける等、組織の垣根を越えた連携による新たな価値創造を目指す。ここでは、これからの自動車ビジネスに役立つ技術やサービスを持ち寄り、新規ビジネスの検討を行っている。
「この自動車産業の大転換は、社会インフラといった自動車以外の分野も巻き込みながら進んでいます。自動車製造事業においても、これまでの延長線上になかった知見も結集しながら変化に対応していくことがますます重要になっていくでしょう」(池端氏)
住友商事の自動車バリューチェーンの大きな一角を成す自動車製造事業は、自動車産業の変化をチャンスと捉え、飛躍的に進化していくのである。
自動車関連ビジネスは、危機をチャンスに変えるバリューアップを行うことで、時代に合わせて進化してきた。これは、農業ビジネスも同じである。
農業ビジネスのはじまりは、自動車関連ビジネスと同じトレードだった。扱っていたのは、日本メーカーが製造する高品質な農薬だ。東欧への輸出を皮切りに、農薬トレードは商品数と取引国を増やしていき、最盛期には100を超える国に輸出を行うまでに成長した。
しかし、1980年代になると、農薬メーカーによる独自の販路拡大や円高、東欧諸国の民主化など、複合的な要因によってトレードだけのビジネスに陰りが見え始める。このときから、農業ビジネスのバリューアップへの取り組みが始まった。
アグリサイエンス部の田中克憲氏は次のように語る。
「最初の変化は、ディストリビューション事業への進出です。1992年から、農薬を輸出して政府等に納品するだけでなく、輸出先各国での卸売りを始めたのです。
まずは各国をまわってマーケティングを行い、顧客ニーズに応じて販売する体制を構築した。それが功を奏し、東欧からスタートした販路は世界30カ国にまで広がった。今では農薬に限らず、種子や肥料なども手掛けている。
2011年には、卸売りからより川下へとサービスを展開し、農業資材を農家に直販する農業資材直販事業へと進出した。ルーマニアから始まったこの事業は、現在、ブラジル、ウクライナへと広がっている。
「ですが、究極的に農家が欲しているのは、農薬や農業資材ではありません。それらを使うことで安定した収量を得、手間を削減したい。これが農家が求めるものです
住友商事では、『機能があるの?』という会話がよく交わされます。ここで言う『機能』とは、時代や技術の進化に合わせてカスタマーのメリットを追求すること。つまり、『世の中の役に立つか』が、すべてのビジネスの判断基準になります」(田中氏)
ビジネスの課題も答えも、現場にしかない
農薬トレード→ディストリビューション→直販事業と「機能」を付加し、バリューアップしてきた農業ビジネス。さらなる「機能」を求めた先に見据えるのは先端農業(農業ICT)だ。
「先端農業の目的は、農作物の収量と品質を一定のリスクの中に収めることです。そのために、IoTによる情報収集で経験や知識を集積し、AIで分析。ドローンやロボティクスを用いて栽培を行います」(田中氏)
具体的には、作物上空30cmの至近距離を飛行し、作物の生育状態を1株ごとにリアルタイム診断。最適量の肥料・農薬を1株単位の精度で散布するドローンや、水位センサーと通信システムによる遠隔水位管理、農機の直進・自動操舵装置、農業経営の「見える化」を促進するデータ管理システムなどを提供する。
最終的には、これらをパッケージ化して販売する予定だ。
ナイルワークスの農業ドローンは農地の上空30~50センチで自動飛行し、薬剤散布と生育診断を同時に行う
現在、日本の農業は危機に瀕している。農業従事者の平均年齢は68歳と高齢化が進み、後継者不足も顕著だ。これから、大量離農が始まると予想されている。
それにより、農業法人が離農後の農地を集約した大規模農業に着手するケースも増えているが、栽培の効率化や勘や経験が頼りだったノウハウの伝承という課題もある。
これらを解決するのが、効率的な精密農業を実現する先端農業なのだ。
「農業ビジネスの初期、住友商事は最も高品質な農薬や農業関連商品を組み合わせて、安定した収量や手間の削減を実現しました。
そこに今、IoTやAI、ドローンを組み合わせた先端農業も加わりました。ですが、農家の悩みにとことん耳を傾け、『機能』を提供しようという現場主義の姿勢は、今も昔も変わりません」(田中氏)
現場で課題を把握し、新技術や革新的なアイデアを持ったパートナーをつなぎ合わせることで、これまでにない画期的な仕組みを創り上げる。これは、総合商社にしかできないことだろう。
住友商事の事業精神は、「信用・確実」「浮利を追わず」「公私一如」に重きを置きつつ、「進取の精神」をもって変化を先取りしていくことだ。自動車ビジネス、そして農業ビジネスのバリューアップは、すべてこの事業精神に適っている。
400年の歴史を尊びながら、時代の変化を逃さずに、常に新しいチャレンジを行う。変わり続ける住友商事の姿がそこにはあった。
(執筆:笹林司 編集:大高志帆 撮影:小池彩子 デザイン:國弘朋佳)
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