クリエイターのエージェント会社、コルクを創業し、『ドラゴン桜2』や『漫画 君たちはどう生きるか』といったヒット作を送り出しつづける佐渡島庸平氏。

そのクリエイティブに対する深い造詣は、若かりし頃からのめり込んできた、膨大な数の本や映画に育まれたものだ。佐渡島氏のお金の使い道、そしてお金に対する考え方を掘り下げていこう。
メリハリあるお金の使い方を重視していた10代の頃
ーーまずは10代の頃の佐渡島さんが、主にどのようなことにお金を使っていたのかを教えていただけますか。
佐渡島 高校から大学にかけては、本と映画にばかりお金を使っていましたね。とくに本に関しては完全な雑食で、エンタテインメントから純文学まで何でも読みました。当時は文学の研究者になりたいと思っていたほどで。
また、映画はいわゆる弐番館(※封切りから1年以内の作品を上映する映画館)も含め、年間300本くらい観ていました。本と合わせると月に8~10万円くらいかかるので、その分、食費を切り詰めなければならず、学校にも弁当と水筒を持参していました。
――徹底していますね。当時からストイックだった様子が窺えます。
佐渡島 というよりも、メリハリを大切にしていたんですよ。矛盾するようですけど、本や映画に次いでお金を使っていたのが食事で、普段の食生活は質素でも、月に1度は気になる高級レストランで1万円くらいするランチコースを食べていましたからね。
――そうした体験から広がる見識もある、ということですね。
佐渡島 そう。こういうメリハリは本や映画も同様で、何でも手当たり次第に手を伸ばしていたわけではありません。例えば映画なら、レンタルビデオを借りてきて適当に流すのではなく、ちゃんと映画館へ行ってパンフレットを購入し、あとから作品を振り返るようにしていました。これも文学の研究者になるための勉強の一環で、その物語の背景について考えるようにしていたんです。映画でも本でも、物語を通して表出する書き手の個性や人生観というのが、必ずありますから。
――結果的に文学の研究者ではなく漫画の編集者になる佐渡島さんですが、当時の経験が糧となっている部分も多いのでしょうね。
佐渡島 そうですね。僕は小説でも漫画でも、ただ作品に目を通すのではなく、なぜその作者がその物語を描こうと思ったのかを、自分なりに考察するようにしています。その意味では、僕にとって本を読むという行為は、頭の中でその作者と会話をすることに近いですね。
時短、体メンテナンス。“生きるため”にお金を使った社会人生活
――ちなみに佐渡島さんは中学時代を南アフリカで過ごされたそうですが、当時の経験はお金の使い方や金銭感覚に影響していますか?
佐渡島 日本とかなり環境が異なるので、当時なりに発見はたくさんあったと思います。例えば、向こうでは家にメイドやガーデナー(庭師)がいるのが当たり前なんですが、いずれも密入国して来た人でしたからね(笑)。
――それは中学生にとって衝撃的だったでしょうね。
佐渡島 たしか月に3万円くらいの報酬で雇っていたと思いますが、それでも彼らの国では大金で、十分な仕送りができるんです。
――そんな様々な経験を経て、20代に入ってからお金の使い道はどのように変化しましたか。
佐渡島 社会人として“生きるため”にお金を使うようになりました。これは単純に、学生時代と比べて生活費が高騰したからですね。
漫画の編集者は不規則で多忙なので、料理をする時間が取れなくなり、どうしても外食が増えます。また、この頃は慢性的に疲れていたので、原稿の待ち時間によくマッサージに行っていました。あまりにマッサージに通うものだから、ついには30万円もするマッサージチェアを購入したほどです。
――つまり、20代のお金の使い道は、生活費とリラックス代ということになりますね。
佐渡島 そうですね。この時期に意識していたのは「時短」で、洗濯などもクリーニングに出すことで、それにかかる時間を圧縮しようと工夫していました。
あと、20代後半くらいからは、ゴルフをよくやりました。『ドラゴン桜』(三田 紀房、講談社)を担当していた時に、作中に出てくるアドバイスをそのままゴルフに当てはめてみたら、みるみる上達していったんです。最終的にはスコア72を目標にしていました。
――ゴルフはなかなかお金がかかりそうですね。
佐渡島 年間50~70ラウンドくらいまわっていましたし、『ドラゴン桜』の連載が終了してからは、2日に1度は練習に行ってましたからね(笑)。
お金とは「使う」のではなく「回す」もの
――そして30代。佐渡島さんは33歳の時に株式会社コルクを創業しました。お金の使い方も大きく変わったのでは?
佐渡島 これは自分で会社をつくってみて気づいたことですが、会社員の頃というのは、受け取った給料は自分の生活に使うか、あるいは貯蓄にあてていました。当たり前ですよね。つまり、自分のお金と会社のお金が、明確に分かれていたわけです。
ところが、スタッフに給料を支払う立場になって初めて、これが非常に楽なコミュニケーションツールであることを痛感させられたんです。
――それはどういう意味でしょう?
佐渡島 僕は今、コルクの理念に賛同してくれている人たちと一緒に働いていますが、彼・彼女らに対して、どれだけ助けられているか、どれだけ感謝しているかを、言葉だけで伝えてボランティアで働いてもらうのは至難の業です。
そこで、「あなたがやってくれていることには、これだけの価値がありますよ」と、明確な数字で渡す。それが給料です。これって、めちゃくちゃ楽な伝え方だと思いません?
――たしかに。言葉だけではできないことを、お金が実現させていますね。
佐渡島 例えば海外旅行へ行った時に、たまたま街で出会った人に「自分は怪しい人間ではないから、今夜泊めてもらえませんか」とお願いするのは、物凄く難しいことです。でも、「この国の生活がもっと知りたいので、2万円払うから泊めてもらえませんか」と言うと、格段に可能性は上がるわけです。
つまりお金が介在することで、初対面であってもコミュニケーションがスムーズになる。言い換えれば、お金とは最も楽なコミュニケーションツールであり、お金の流れとは壮大なコミュニケーションの流れなんですよ。
――なるほど。そう言われると、お金に対する見方が変わりますね。
佐渡島 その考え方でいえば、お金がたくさん集まる人とは、「あなたには価値がありますよ」というコミュニケーションの多い人です。
そしてコミュニケーションとは、こちらが投げた言葉に対して、相手も返してくれること。お金も同様で、「使うもの」ではなく「回すもの」と考えるべきだと僕は思っています。僕が若手のクリエイターなどに投資をするのも、そういう理由です。
――投資もまたコミュニケーションである、と。
佐渡島 そう。その人がやりたがっていることに対して、単に「やりなよ」と言うのではなく、「ここに500万円あるから、すぐに始めなよ」と言ったほうが効果的ですから。そういうコミュニケーションをたくさん回していくことが、僕は今、楽しくて仕方がないですね。
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