【ムーギー・キム】ビジネスの競争原理が変わる。これからの「グローバル・デジタル・サピエンス」時代への対応力

2019/2/6
現在、大中小を問わずさまざまな企業に導入されつつあるRPA(Robotic Process Automation)。まだできることは限られているが、将来的にはAIなど高次のコンピューティングと組み合わさることにより、より複雑な仕事を担えるようになる。
アメリカの発明家で未来学者であるレイ・カーツワイル氏は、2045年までにロボットや機械の知能が人間の知能を超える「シンギュラリティ」に到達すると予測した。その時代を大きな転換点として、これからヒトの役割や、組織のあり方は本質的な変化を求められていくだろう。しかも、この変化は日本に限らず、世界で同時多発的に進行する。
では、いまの世界ではどのようなテクノロジーやイノベーションが注目され、ビジネスパーソンに求められる知識や教養はどう変わってきているのか。世界の変容をキャッチアップして備えるためには、国境を越えて最先端の知やノウハウに触れる必要がある。
RPA総合プラットフォーム「RPA BANK」は、2月26日に「The Global Innovation Forum 2019」を開催する。
デジタライゼーションとグローバリゼーションが進展する中、AI、ブロックチェーン、フィンテックという3大重要テーマで、世界各国のイノベーションエコシステムから最前線の第一人者を招聘する。
また国内からは竹中平蔵氏と、日本で最も影響力のあるベンチャーキャピタリストとしても有名な高宮慎一氏も登壇する。
その企画・プロデュースをRPA BANKと共に推進しているムーギー・キム氏に、イベントの背景と見どころを聞いた。
1977年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA取得。大学卒業後、UBS,アーサーディーリトル、フィデリティ投信、香港・シンガポール・日本のプライベートエクイティファンドを経て、現在はシンガポールを拠点にP6Partners共同代表として活動。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。『最強の働き方』『一流の育て方』などは国際的ベストセラーとして、6か国語で60万部を突破。オンラインコラムのPVは一人で一億PVを超える。3月にKADOKAWAより、「最高の生き方」上梓予定。

インダストリー4.0時代に、淘汰されないために大切なこと

「グローバル・デジタル・サピエンス」時代への実践的対応。それが今回のイベント「The Global Innovation Forum 2019(TGIF 2019)」のコンセプトです。
RPAやAIの導入で自動化が進み、生産性向上が多くの企業で実現しています。
成功例としては、「退屈だけど複雑で、正確さが求められる業務」が「格段に速く正確に、安く処理できるようになった」事例もあります。
しかしながら、一連の自動化は新たなチャレンジももたらします。企業の最大の悩みは、“余ってしまった、解雇もできない人々”です。RPAで仕事が減った分、どのように人材を活用すれば良いのかわからない。
最近新卒採用を一気に絞るようになった、某業界がそうです。企業のオートメーション化が進む中、人材もやはり、二極化しているんですよね。
よく、AIやRPAが導入されたら、インターネットと同じように新たなオポチュニティが生まれると言うじゃないですか。「そうなるように、人を再教育すればいい」と安易に言う人が非常に多い。しかし、実際はそんなわけはないのです。
リカレント教育は、逃げ切り態勢の世代や、窓際族になって久しい“テコでも仕事も勉強もしない”おじさんたちには、縁遠いものになるでしょう。
これに対し、頭が柔らかく吸収力の高い20代の人は、逆にデジタルサピエンス化しやすく、実際ブロックチェーンやAIの最前線で活躍している人たちは30代前半と若い人が多いのです。

30代・40代に最も必要な、グローバル×デジタル化へのアップデート

イノベーションに関するリカレント教育が一番重要なのは、30代、40代の人たちでしょう。あと30年、40年と働く必要があり、これまで受けてきた教育や職業訓練が陳腐化してしまう人たちです。
日本人は大学までは真面目に勉強しますが、社会人になると勉強する習慣を失ってしまいます。そんな中、ブロックチェーンと聞いて頭が痛く、AIと聞いて腹が痛くなり、フィンテックと聞いて、「オンラインバンキングすら使えてないのに、どうしたらいいんや」と抵抗感を抱いている人たちが、その岐路に立っているのです。
これからますます二極化は進むでしょう。RPAのようなデジタルオートメーションをチャンスと捉えて、ホモ・サピエンスからデジタル・サピエンスに進化する人と、そうなれずにアナログ・サピエンスとして滅んでいく人たちがいます。
なかでもデジタルは国境を無意味なものにするので、「グローバル・デジタル・サピエンスと、「ローカル・アナログ・サピエンス」に分かれていくことになるでしょう。
一般的に、グローバル情勢の知識はさまざまなメディア情報をインプットすることが中心になりますが、やはり日本のメディアの記事は、日本中心に偏っています。
国内で開催されるカンファレンスなども登壇者が固定されており、最新のグローバル情勢をキャッチアップする機会は非常に限られます。どうしても、国内メディアだけに依存していると、情報が島国化してしまうのです。

RPA BANKを通じて、世界中のデジタルイノベーションとつながる

それでは、どうすれば、日本にいながらに世界中の実際のイノベーション事例にアクセスできるのか。
今回の「The Global Innovation Forum 2019」では、日本を含め、各国のビジネスシーンの最前線で活躍している方々から直接話を聞く機会を設けたいと思います。
たとえば、AIを通じたオートメーション化の先行事例では中国、フィンテックや暗号通貨ならシンガポールや北欧、グーグルやフェイスブックなど大手多国籍企業が無数のスタートアップに投資をし、大企業がスタートアップのイノベーションを取り込むエコシステムならシリコンバレーというように、各国の規制や地域のカルチャーによって、マーケットの発達には大きな差があります。
大切なのは、先行しているマーケットのリアルな情報を吸収し、かつ、RPA BANKのモットーである“明日から何をすればいいのか”という実践的なアクションにつながる機会を提供することです。
ちょうど先週、某大手多国籍企業の、世界中からCFOが集まるミーティングで、アジア太平洋地域の全ての国の政治・経済・企業アジェンダについて私が2時間英語でプレゼンする機会がありました。
もちろん私一人が、世界の先端事例をカバーできているわけではありません。世界の広さと複雑さを知れば知るほど、いかに自分の頭が空っぽなのか謙虚に認められるようになります。
私が何かを持っているとすれば、グローバルな信頼できるネットワークであり、それぞれの国や領域において確かな知識と経験を持つ第一人者たちとのつながりです。
シリコンバレーやイスラエル、インド、中国、台湾、香港、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどなど、15くらいの国および地域の政治経済・企業イノベーション動向を集中的に聞いていると、少なくとも横串を刺して比べるなら、相当自信を得ました。
そこには、現地にいるからこそ知り得る最新の情報、アイデア、ビジョンが詰まっているからです。一人ひとりは解決策を持たなくても、各国で解決策を持っている人とつながっていればいい。
PCに入れていたものが全てクラウドに切り替わっているのと同様、私自身は比較的空っぽでも、つながっているクラウドの質が高ければ、比較的なんでもできるものです。同じことがビジネスパーソンや企業のイノベーションにも言えます。
世界有数のイノベーション聖地からINSEADとスタンフォード大学コミュニティのAI・ブロックチェーン・フィンテックの専門家を招聘し、日本の多くのビジネスパーソンの“グローバル×デジタル化”を図る契機にする。
これが、今回のフォーラムの目的です。ネットワークをつくるためにも単発で終わらせるのではなく、定期的な企画としてコミュニティを育てていきたいと考えています。

グローバル・デジタル・サピエンスに進化するために

このイベントのもうひとつのポイントは、デジタルオートメーションに特化して、実際のビジネスにつなげる実践性を重視していることです。
この手のAIやブロックチェーンのカンファレンスは、世界的なものでも、いざ行ってみると“なにやらふわっとした話”で消化不良気味に終わり、打ち手につながらないことが多いものです。RPA BANKは“明日から変われる実践性”にこだわります。
当日紹介する事例で自分たちの会社もそのいろんな国のイノベーティブなサービスを使いたい、自社に取り入れたい、ないし投資したいとなれば、RPA BANKとともに、そのエクセキューションにもつなげます。
実際に世界中のブロックチェーンの有力スタートアップに投資したり、中国のAI先端企業にアクセスしたり、シリコンバレーのAI新サービスを導入したりする場合は、闇雲に投資するより、各国の専門家と長期的なパートナーシップを築き、企業自体がまず“いろいろ使ってみる”という機会が重要です。
新たな自動化技術を使って、どのようなバリューイノベーションを先行市場で起こしているのか。現地の第一人者から直接聞くことで、危機感をもって明日からの一手につなげる契機にしてもらいたいと思います。
インダストリー4.0時代には、世界中の企業や個人が社会から必要とされない「無産階級」に転落してしまう可能性があります。中国やインド、韓国、インドネシア、その他若い人口を大量に抱える国々でも、デジタリゼーション時代に自国民を経済的にレリヴァントに保つため、大きな問題意識を持っています。
しかし、最も高齢化している日本において、その危機感を実感している人はあまりにも少ないのではないでしょうか。
自分は「ローカル・アナログ・サピエンス」で終わるのか、「グローバル・デジタル・サピエンス」に進化していくのか。これからの数年が、その分水嶺になっていくはずです。
(編集:宇野浩志 撮影:林和也 デザイン:九喜洋介)