変わるのは市場だけではない

ビジネスの成功を望む起業家が、変わり続ける市場に進んで適応しなければならないことは、秘密でも何でもない。
だが、市場だけでなく、労働者も絶えず変化している。現在は従業員を満足させることに成功していたとしても、数年後にはそれだけでは不十分になる可能性もある。
リッピンコット(Lippincott)のイノベーション業務担当シニア・アソシエイトであるローレン・ウォンによると、未来の労働者は以下の3点によって特徴づけられるという。
1. 限界のない自己
「未来の従業員には、追求したいキャリアやスキルセット、専門知識がたくさんある。しかも、それらすべてを同時に追求したいと思うかもしれない」とウォンは語る。
「『限界のない自己』とは、多くの関心や体験に満たされたキャリア、複雑で直線的でないキャリアをつくることにより関心があるという意味だ。
彼らは自分の人生で、1つの役割、1つの企業、1つのキャリアにとどまる自分を想像しなくなる。その代わり、自分自身と自分のキャリアをつねに再構築しようとする。それも多くの場合は、同時に作り直そうとする」
ウォンは例として「チャイルディッシュ・ガンビーノ」というラッパー名で有名なドナルド(ダニエル)・グローヴァーを挙げている。グローヴァーはこれまでに、ミュージシャン、脚本家、プロデューサー、俳優など多くの仕事をこなしてきた。
2. 終わりのない選択
「これまでの従業員には、働き方や協働の仕方、コミュニケーションの取り方に柔軟性があまりなかった。しかし未来の従業員は、どこで、誰と、どのように働くかについて、無限に選択することがますます標準的になる。
そのため、正しい選択をする方法について不安が生じる可能性がある。企業は、明確でシンプルな指針や最良の決定を下せる方法を提示して、従業員が「選択肢の海」をどう進んでいくのか手助けすべきだ」
この分野でモデルとなるのが、スポティファイだ。同社は、従業員の誰もが特定の祝日を祝うわけではないと認識しているので、どの公休日に休んだり働いたりするか、チームのメンバーが決められるようにしている。
3. 休むことのない行動主体性
「休むことのない行動主体性とは、未来の従業員は変化を起こす力が自分にあると認識しているものの、自分の仕事の目的や緊急性が見えないときには焦燥を感じかねないことを意味する」
従業員は、外の世界にインパクトを与えて自分の人生を豊かにできるチャンスを求めており、そうした方向で会社の力を使おうとしている。
ここで指針となるのは、パタゴニアだ。同社は、従業員が日々の仕事と並行して有意義な何かを追求するのを支援しようと努めている。たとえば、環境問題に関する平和的な抗議活動で逮捕された従業員の保釈金を払い、環境保護に関心があるベテラン従業員に長期有給休暇も与えている。

変化に対応するための4つの点

ウォンはこうした変化が起きた理由として多様化の拡大、そしてテクノロジーやデータの利用を挙げている。以前に比べて拡大した多様性にさらされており、さらに高度なツールを利用して答えを得ることに慣れている。
同時に、パキスタンの女性人権活動家マララ・ユスフザイや、パークランド高校銃乱射事件を生き延びて銃規制を求める運動を行っている生徒たちのようなロールモデルに関する情報が手に入ることで、変化を生み出す自分の力をいっそう鋭く意識し、個人の行動の力を知っている。
だが、硬直した制度が問題を引き起こすかもしれない。その場合は、従業員が追求したいと望むことが制約を受ける恐れがある。「未来の従業員を受け入れるために、雇用主が注意すべき点は、以下の4つだ」とウォンは説明する。
1. 柔軟なキャリアパス
従業員に対して、自分自身の道を選び、その途中でそれを再構築する機会を与えよう。企業内で、彼らが興味をもつさまざまな側面を学ぶことができるローテーションオプションや、社内「インターンシップ」を提供しよう。
2. 自主性を促す取り組み
従業員に対して、基本的な材料を提供しながら、彼らが自分自身のビジョンを構築できる機会を提供しよう。管理者であることより、よき助言者であることを優先させよう。創造的なプロジェクトに時間を割り当て、社内外の学習機会を奨励しよう。
3. 仕事と生活の統合
従業員に対して、フォーマルな立場に縛られず、自分自身の役割を生み出す機会を与えよう。これは、仕事への情熱と私生活への情熱を調整するのに役立つ。
4. 改善へ向けた道を構築する
従業員が自分の強みを理解し、適応性の高いパーソナライズされた学習を優先することを手助けしよう。彼らが自分の強みをたびたび自己認識し、それに基づいてチーム作りをする手助けしよう。

新たな雇用層の出現に備える

「最も大きなレベルでいうと、こうした緊張関係は、現在の従業員とは異なることを切望する未来の有能な人材を惹きつけたり、つなぎ止めたりすることができるのか、企業の理解を助けるのに有効だ」とウォンは述べる。
「われわれが見ているのは、企業から新たなことを求める、新たな人口層だ。彼らは働く場だけでなく、自分にとっての核となる信念に合う場も求めている」
理想を言えば、ほとんどの企業は、こうした新たな要求や期待に応え、順応するだろう。ウォンが挙げた4つの必須事項は、スタートのための実際的な指針になる。
だが、十分速いペースで適応できない企業が存在したとしても、社会全体のイノベーションの点から見れば、悪いことばかりではない。それどころか、信じられないほどすばらしい「次の段階のコンセプト」を促すかもしれない。
「こうしたシフトの結果として、どこにもなじめないと感じるようになった未来の従業員は、自分自身の会社を設立するステップを取るようになるだろう」とウォンは言う。
その場合、唯一の疑問はそうした従業員がどんなことを思いつくのかということだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Wanda Thibodeaux/Copywriter, TakingDictation.com、翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、写真:RichVintage/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.