【坪田信貴】個人や組織の才能を伸ばし、価値を生み出す方法とは

2019/2/18
テクノロジーの急進によって、これまで見たこともない速度で変わっていく人の働き方。これからの時代に、価値を生み出す才能とはどのようなものか。
ベストセラー『ビリギャル』の著者であり、坪田塾の塾長として塾生の人生を応援し続けている“価値創造人”、坪田信貴氏。教育者にとどまらず、起業家やコンサルタントとしてもValue Creationを体現する坪田氏に、個人やチームの才能を開花させるにはどうすればよいのかを聞いた。

「才能」とは何か

人はよく「あの子には才能がある」「自分には才能がない」と言ったりします。しかし、それは才能という言葉の使い方を間違っていると思います。
才能に至るまでには3ステップあると思っています。まず最初が「動詞」、そして「能力」、その次に来るのが「才能」です。
あらゆる動詞が、実は反復トレーニングによって能力となり、さらに的を絞ったトレーニングによって際立ったとき、才能となるのです。僕はこれまでにさまざまな生徒さんの勉強や企業の社員さんの研修を見てきた経験から、そう感じます。
人は当たり前のようにしていることを、もともとできるものだと思っているところがあります。日本語を話すということを取っても、才能があるからできているというものではありません。
なぜなら、アメリカに生まれ育っていたら、普通に英語を話しているはずです。それなのに、日本で生まれ育った人が英語を話せるというだけで「あの人、語学の才能あるよね」などと言ってしまったりする。
しかし、こうしたことは反復トレーニングによって身についた「能力」であって、それは才能があってできているわけではありません。
受験勉強をしなくても東大に入ってしまう子というのは実際います。
灘高から東大法学部に入り、ロースクールを首席で卒業して弁護士になる子がいます。面白いことに、法学部なのに最も得意な教科は数学。なぜ理系じゃないのと聞くと「僕、なぜ数学ができてしまうのかが自分でわからないんです」と言うのです。
受験勉強も1日7~8時間はしたでしょうと聞くと、本当にしていないのだそうです。
勉強せず東大に合格してしまうのですから、周りからは間違いなく天才と呼ばれるでしょう。
しかし、彼が努力していないかというとそれは違うのです。実は幼い頃、名のある幼児教室に通って、人並みならぬ訓練を受けていました。
わかりやすく言うと、幼稚園のうちに100億円貯めて、複利で1%ずつ運用している子には高校生になったら勝てないというだけの話だと思います。
『ビリギャル』のさやかちゃんも、スタートしたときは本当に慶應に行くなんて誰も信じていませんでした。しかし、慶應に合格した途端、「地アタマがよかった」「才能があった」と言われるようになりました。
結局、人は結果でしか評価していないのです。ZOZOの前澤さんや堀江さんのように目立つ人に向けられる「運がいいよね」の言葉も、同じような意味で使われていると思います。
しかし、能力を昇華して才能レベルに達した人というのは、全員確実に努力しているのです。「地アタマ」というのは幻想です。

才能を伸ばす方法とは

多くの人は、自分の才能探しに走りがちです。人には特定の才能があって、自分も何かしら種を開花させなければ、と思っていたりするものですが、これは大きな間違いです。
動詞が能力となり、能力が才能になっていくのであって、極端な話、何でもいいのです。
基本的に何の種をまいてもたぶん大丈夫。どちらかというと「土壌」が問題なのだと思っています。
面白いのは、稲が育ちやすい土壌もあれば、リンゴが育ちやすい土壌もある。例えば、両親がものすごいピアノの先生だったりしたら、子どものピアノの才能を育てる上で非常にいい土壌だと思うのです。
周囲を見て、自分はどういうものを育てやすい土壌かを把握する。それでもわからない人は、何でもいいから興味を持ったものをやってみることです。
正解を探し求め、その種だけをピンポイントでまこうとしない方がいいと思います。
もし、どうしてもこんな種を育てたいというものがあるのであれば、土壌、すなわち環境の方を変えてみることをお勧めします。
才能を伸ばしていく上では、周りの声が障壁になることが多いようです。人から「無理だろう」と言われたら、自分でも「無理だな」と思い込んでしまう。それと、「やればできる」という発想がいろんなことを邪魔しています。
例えば、僕が今からNBAの選手になれるでしょうか? ありったけのお金を使い、世界最高峰のコーチを雇って、超科学的なトレーニングを3年間くらい必死でやったとしましょう。しかし、身長や体格も違えば年齢も何もかも違う。無理なものは無理なのです。
ところが3年後の僕を想像するに、バスケそのものは抜群にうまくなっているはずなのです。
これはつまり、「やればできる」はウソであり、「やれば伸びる」ということなのです。
しかし、みんな目標を設定しても、できそうにないと思った瞬間にやめてしまう。
できそうにないと思う瞬間というのには2つあって、1つが、周りの人が「無理」「できない」と判断した場合。もう1つは自分で「無理そう」と思い、大して努力もしていない段階ですぐやめてしまう場合です。
トイレトレーニングを始めて2~3回失敗した子どもが「いや、僕トイレ、やっぱり無理っすよ」と言っているようなもので、それはあり得ない話です。
ちょっと順調にいかなかったくらいで「無理」だと判断してはいけません。そんなに順調にいくわけがないし、僕ら普通の人には才能の有無を判断するセンサーもないのです。才能を開花させるには、やはり膨大な努力や工夫が必要なのです。
才能を伸ばす方法としてもう一つ言えるのは、自分の周りの超一流の人の行動をとにかく「まね=完コピ」することです。
そのときに重要なのが、考え方や発言に従うのではなく、行動を完コピするということです。
というのも、超一流の人は自分が初心者だった段階でどうだったかなんて覚えていないので、「君、今の段階だったらこういうことしたほうがいいんじゃないの」っていうのは、大体違うんですよね。人を育成することに相当慣れている人であれば別ですけど。
ただ注意しなければいけないのは、超一流の人の行動はその人に最適化されている可能性があるので、ある程度レベル分けはしてもいいかもしれません。
初級の人であれば、自分の2~3年先を行っていてすごくうまくいっているくらいの人を完コピするくらいがちょうどいいかもしれません。
また、ただのコピーじゃなくて完コピというのも重要です。ちょっと手の届きそうな人の完コピとなると、自分にとってこれは違うんじゃないか、みたいなことも出てくるかと思うんです。
でも、それは俺はやるべきじゃないとかは、絶対やめたほうがよくて、まだ何もわかってないくせに自分で判断してはいけないんです。
今の段階の自分が判断すべきじゃないっていうことって多々あって、だからまず完コピしてみろっていう話です。それをやらない、できない、その段階で判断する人っていうのがあまりにも多いんじゃないかと思います。

組織における才能の伸ばし方

人の才能を伸ばす上で重要なのは、指導者によるフィードバックです。
褒めたり叱ったりするように、ある人の行動や表情、価値に対して「それいいね」とか「駄目だよ」とフィードバックすることが大事と思われがちなのですが、これは主観的なフィードバックです。言うなれば洗脳状態を生み出してしまう。
これに対して、中立的なフィードバックというのがあります。「パソコン使ってますね」とか「スピード上がりましたね」のように、単なる事実を言っているだけ。しかし事実を言うだけで、人はその人の価値観に応じて変化するのです。
「背筋、曲がっているね」と言うと、すみませんと言って背筋を伸ばしたりする。こちらとしてはそれをいいとも悪いとも言っていないのにです。
その人なりに勝手に正しい方向に行こうとするのを助けるものが、実は正しいフィードバックです。評価につながるようなことをわざわざ言う必要はないのです。
この手法は自分自身の才能を伸ばすのにも効果的です。自分で自分に中立的なフィードバックをする「実況中継」という方法で、例えば、こんな感じです。
「僕は今ソファに座って、テレビを見ている。スタートが午後2時半だから、すでに2時間30分テレビを見続けている」
客観的事実を実況中継することによって、自分で「それって見過ぎじゃない?」というような意識が立ち上がってきます。最初に、自分の状況の客観的な把握があって、そこから「~すべきだ」というような判断が導かれてくるわけです。
実況中継することによって、説明力やプレゼン能力の強化にもつながります。
また、人と一緒に仕事をしていこうというときには、チームや組織内の信頼感というものがなくてはなりません。その信頼感を醸成するためには「ビジョン」と「大義」が最重要となります。
ビジョンといっても「日本を代表する企業になろう」みたいなのはダメです。なぜかというとその光景が映像として頭の中に浮かばないからです。
例えば、僕のやっている坪田塾のビジョンは「世界史の教科書に載ること」です。
200年後に今のビルはたぶん無くなっていて、跡地に行くと「坪田塾跡地」という石碑が立っている。そこに200年後の修学旅行生が来ていて、はす向かいのすし屋さんはお土産屋さんになっていて坪田塾の「誠」の鉢巻きを買って写真を撮ったりしている光景が思い浮かびます。
こうして映像化できるビジョンを提示すると、やりたいことが非常に伝わりやすくなり、チームのテンションも上がっていきます。
ここに「何のためにそれをやるのか」「これをやることによって、僕らが世の中をよくするんだ」という大義がそろうと、あまりやる気がないっていうような人でも、ちょっと興味を持つようになり、やろうかなって前のめりになるんです。
ビジョンを映像化できる具体的なものにするのと同様に、チームづくりをする際は、いちばん最初の段階で言葉の定義をチーム内で細かく合わせておくことをお勧めします。例えば「すぐに」というのは10秒以内のことなのか、1時間以内のことなのか、言葉の意味を決め、共通認識を持っておく。
これがないとズレが発生してしまいます。10秒以内のつもりで「これ、すぐやっておいて」と言っても、1時間かけられてしまうようではどれだけ優秀な人でも使えないヤツになってしまうんですよ。
 このように言葉の定義というのは、非常にあいまいになっているものです。だから、まず初期にちゃんとコミュニケーションをとって認識を統一させないと、チームなんてうまくいくわけがないんです。

これからの時代に「価値を生む才能」とは

才能にもいろいろあると思います。AIだ、ロボットだといわれるこれからの時代において「価値を生む才能」とは何かというと、結局「人の役に立つ」ことだと思うのです。
自分の好きなことをして生きていく人もいるでしょう。それはいいことだし、見つけられるのだったらやればいい。
しかし、人生で成功しやすい人というのは、意外と「自分のやりたいことがわからない」人だと思うのです。自分にやりたいことがないのだったら、家族や上司がやりたいことを手伝えばいいし、市場が望むことを作っていけばいい。
プロダクトアウト思考に偏った主張が目立つ中にあって、マーケットインを考えればいい。
ビジネスの根幹は他人の課題を解決することだとするならば、自分のやりたいことよりも人がやりたいことを手伝う方が、本質的だと思います。
そういう意味では「人とのつながり」をたくさん作ることができたら、成功や幸せに近づきやすくなるでしょうね。
このインタビューは、スポンサーがレッツノートだということですけど、結局、パソコンが何を生み出したかというと、僕は人とのつながりだと思うのです。例えば50年前、ブラジルの人とつながろうとしても多分できなかったでしょう。
でも今はパソコンを通じてどこの人でも、月にいる人とでも交信しようと思えばできるわけです。
僕がパソコンを持ってアメリカに行って、アメリカと日本間で通信を経験し、人とつながりを持てたときに、これはすごいことだなと思ったのです。
僕はレッツノートのユーザーでもあるんですけど、レッツノートのおかげで本当にいろんな人とつながっていきました。キングコングの西野さんもそうですし、西野さんのラジオ番組出演をきっかけに吉本興業の大﨑社長ともつながりました。
『ビリギャル』もレッツノートで執筆しましたよ。単行本の文字数はだいたい10万字程度だと思うのですが、書き直しも含めて結局60万字書きました。
ローマ字入力で単純計算するとキーボードを約120万回たたいたことになります。それでもレッツノートはビクともしなくて(笑)。
話がそれましたが、人とつながるといっても、人脈だなんだとか言って名刺を何枚持っているかとか、そういうのは必要ないと思っています。自分のレベルが上がっていけば、結局それに見合った人と会うんですよ。
無理にすごい人と知り合ってどうにかやってもらおうって、何かこの人に乗っかってやろうって感じなわけじゃないですか。超一流の人とかは、そういう人とは付き合ってくれないですよね。
だから本当に重要なのは、やっぱり顧客と向き合うことだと思います。本当に成功するためには、お客さんとか市場とか、世の中のために自分だったら何ができるかっていう視点を常に持つべきなんじゃないでしょうか。
(執筆:柴山幸夫 編集:奈良岡崇子 撮影:大畑陽子 デザイン:國弘朋佳 取材協力:ユニオンスクエア東京 03‐5413‐7780)