金融業界においてパラダイムシフトが起こっている。テクノロジーの進化によりFintechが台頭。異業種が相次いで参入し、業界地図は一気に塗り替わったかのように見える。変化の渦中にいる人は、この流れをどのように捉え、何を思うのか。KDDIフィナンシャルサービスの石月社長に話を聞いた。

異業種の参入が相次ぎ混沌とする金融業界

――まずは、金融業界の現状をどのように捉えられているか、石月社長のお考えをお聞かせください。
従来型の金融機関は、社会的要請や競合他社との観点より全方位的なサービスラインナップを用意してきました。さほど利益率は高くないサービスがあったとしても、その他のサービスでバランスをとり、利用者に提供してきました。
ところが、現在は収益性の高い一部のサービスやプロセスだけに絞って事業化するFintech企業など、異業種が金融業界に新規参入する状況にあります。
これは良くも悪くも、時代の流れの中での必然的な変化であると捉えています。ある部分でコンペティターの関係にある企業が特定の事業においてアライアンスを組むなど、協業と競合が複合的に組み合わさることもありえます。
また、バリューチェーンの中で各々の企業の得意な領域を組み合わせた、まるでパズルで生成されたようなサービスを提供する新業態も登場するかもしれません。この混沌とした状況はしばらく続いていくことが予測されます。私たちがこのKDDIフィナンシャルサービスという会社を立ち上げた5年ほど前とは、さらに状況が異なってきていると感じています。
KDDIフィナンシャルサービス株式会社 代表取締役社長 石月 貴史
1990年、KDDI入社。 財務部などを経て、株式会社じぶん銀行の創業に参画。2011年、KDDIに帰任し、新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部 事業開発部長として、「au WALLET構想」の具現化に向け、新会社設立を企画。2014年、KDDIフィナンシャルサービス株式会社設立と同時に現職に。
――銀行の再編どころの騒ぎではありませんね。
そうですね。金融のサービス自体が大きく変わっていく可能性があります。しかも参入してくる企業は、各々価値観が違いますから、収益化するポイントが違う。従い、コスト投下する場所も額も違います。
たとえば同じ「決済」というレイヤーで事業をしているように見えても、決済手数料そのものに価値を見出すのか、“決済を顧客接点や情報として活用すること”で価値を見出すのかでビジネスモデルは大きく異なります。色々な人たちが、色々な思惑で動き始めている、それが現在の金融業界の特徴といえます。
――その環境下で何をもって事業運営していくことが重要と考えますか。
私としては、変化を的確に捉え順応しつつも、企業として揺るがない信念をもって運営すべきであろうと考えます。
KDDIフィナンシャルサービスは、企業理念に記しているとおり、「信用を通じ人々の生活に資する」という思いを実現するために立ち上げた企業です。現在は、クレジットカード事業と決済代行事業がメインとなっていますが、私たちが本質的に目指しているのは、“信用供与力”を高めることで、お客さまがより豊かな生活を送っていただけるようお手伝いすることです。
“信用供与力”は、金融事業にとって命ともいえるコアな部分です。たとえ様々な異業種が参入し、多様な価値観が入り乱れるビジネスになったとしても、重要なピースであり続けるのは間違いありません。

与信の精度を高めることで実現できる世界

――与信が重要であることはわかりますが、一方で、先ほどのお言葉をお借りすれば、決して利益を生みやすい事業パーツではなさそうに思います。石月社長はなぜ、与信に着目し、特化しようと思われたのですか。
与信力を進化させることで、既存のモデルでは成立しない契約を成立させられることもあるのではないか、つまり新たな信用を創造できるのではないかと考えました。また、逆に従来は見抜けなかったリスクを排除できるだろうとも考えました。さらには、我々がはじき出したスコアを他の事業に活用することも考えられるでしょう。信用創造は、利益創出の核となりえるのではないでしょうか。
私がKDDIの社員としてキャリアビリングに携わっていた頃から、蓄積されたデータを分析しスコアリングモデルに活用することにより与信を高度化したいと考えていました。今では、現行のモデルに採用していない情報を追加し更に進化させたい、そして多くの方々に進化したモデルによるサービスを提供したいと思うようになりました。
与信の精度と幅が広がることで、これまでの与信では対象外になっていた人が、お金を調達することができるようになります。それは生活の支えになるかもしれないし、新たな夢を実現するエンジンになるかもしれません。それは間違いなく、世の中にとってプラスになることです。
例えばバングラデシュの貧困層を対象に低金利の無担保融資を行っているグラミン銀行の話などを聞くと、私の心に響くのです。もっと多くの人が幸せで豊かな生活が営める、そんな世界を作るために、金融にできることって、まだまだたくさんあるのではないかと。
――理想の世界の実現を目指すことができるのは、どのような力が御社の中にあるからとお考えですか。
私たちが新しいことにチャレンジできる理由として、膨大なキャリアデータ、顧客基盤、強い販売チャネルといったauのアセットとの連携による成長速度の速さがあげられます。早期にスケールさせ収益化できるからこそ次の一歩も大胆に踏み出せるのです。この点は競合他社と比べ、すごく恵まれていると思います。
もうひとつ、私たちが身軽だという理由もあげられます。今の金融機関の多くが過去から積み重ねた大きなアセットを抱えており、それがあるがゆえにデジタルトランスフォーメーションや会社の今後の成長を左右するような取り組み着手の弊害要素になっていることもあるかと思います。その点において、私たちはコアな業務以外は基本、アウトソーシングしており重い資産がないため、変化に対応しやすいという強みを持っています。

組織の理念と目指すべきゴールを掛け合わせる

――強大なアセットと強み、そして独自の理念をお持ちでいらっしゃる御社の、今後のビジョンについてお聞かせいただけますでしょうか。
根幹にあるものは変わりません。コアコンピタンスである信用供与力を研鑽し、これを機軸に事業を増やしていきます。海外では、携帯電話の使用状況で与信を取っている例もあります。お客様自体に情報を入れていただく手法は過去よりありますが、データの解釈の仕方は多様化しています。まだまだ与信の精度をあげるために取り組まなければならないことはたくさんあると思っています。
与信可能範囲を拡大し続ける中、我々の提供価値を違う形で活用する企業が現れるかもしれません。私の頭の中だけでもいくつか候補があげられます。多様なパートナーとのアライアンスによって、その活用の範囲はさらに拡大していくでしょう。これも当社の理念である「信用を通じ人々の生活に資する」の実現に資するものと考えます。
――そのためには、どのような人材が必要なのでしょうか。御社が求める人材像についてお聞かせください。
人材要件は非常にシンプルです。当社のビジョンに共鳴いただける方、そしてその中で自分も何かを成し遂げたいと思う方です。
起業家でなくても、誰しも必ず成し遂げたいものはあると思います。私はKDDIに在籍していた時代に、成し遂げたいことを見つけることができました。これをKDDIのニーズに合致させ、この会社を設立させていただく承認を得ました。
自分のやりたいことを組織の理念や目指すべきゴールと合わせ、具現化することが組織人としての理想ではないでしょうか。求職者の方々は主体的に自己表現ができる場所を探すべきでしょう。
人それぞれに夢や求める幸せのカタチは違いますが、口をあけて待っているだけで飛び込んでくることはめったにありません。なので、その機会は自分で作らなくてはいけないし、そのためには努力をしないといけない。そして準備をする必要があります。
環境は自分で作るものです。そして自分で考え、自分で動き実現することで、人は気持ちよく働くことができると私は思います。自己実現できる場所を用意してお待ちしています。
(インタビュー・文:伊藤秋廣[エーアイプロダクション]、写真:岡部敏明)