【石川善樹×為末大】幸福を感じられる成長とは何か

2019/1/26
予防医学者の石川善樹氏と「日本的Well-Being」を考える連載の第2回は「成長」が幸福に与える影響について、元陸上選手の為末大氏と共に考える。
スポーツ選手の成長と引退後の幸福から、ビジネスパーソンの幸福なキャリア設計の考え方を導き出す。
最所 「石川さん、Well-Being連載のリニューアル第1回、好評でしたよ!」
石川 「おぉっ、まじっすか!?……ところで、前回ってどんな内容でしたっけ?」
最所 「えっ、覚えてないんですか!?」
石川 「いやー、すみません、とにかく忘れっぽくて……」
最所 「今回は、前回出たテーマから『成長とは何か』を考えることになっています。NewsPicksでも頻繁に見るワードです!」
石川 「あ、そのテーマはまさに為末大さんから考えるように言われていたお題です」
最所 「じゃあ、せっかくですし、為末さんと一緒に話してみましょうよ!」

幸福感を生む成長の「2つの型」

石川 ……というわけで今日この場が設定された次第です。NewsPicksを読んでいる人がよく口にするのが「成長したい」ってワードなんですが、そもそも「成長とは何か」ってことから考えたいんですよ。
為末 なるほどね。僕も最近、石川さんにそれ聞きましたもんね。
石川 だから押しかけたわけです(笑)。いきなりですが、成長しなくてもいいシチュエーションってあるのかなと。
為末 その仮定は、いいですね。まずは極端な状況を考えてみようと。
石川善樹(いしかわ・よしき)/1981年広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業。ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きる(Well-Being)とは何か」をテーマに企業や大学と学際的研究を行う。
石川 それで結構考えたんですが、おそらくそれは、常に物事が達成されている状況なんじゃないかと。もし目的が「達成」でそれが常に満たされているのであれば、全く成長しなくてもいいかもしれない。
為末 なるほど。スポーツでは「オリンピックでメダルを獲る」や「大会で優勝する」といったわかりやすい目標の達成を目指しがちですが、それはやっぱり達成することが人にとっての快楽だからだと思うんですよね。
ただ、快楽だけにとどまらない、長期的な達成を目指してもよいはず。つまり、成長にもいろんな型があるわけです。
為末大(ためすえ・だい)/1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダルを獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者。陸上引退後は、Sports×Technologyに関するプロジェクトを行う株式会社Deportare Partners代表を務める。主な著作に『走る哲学』、『諦める力』など。
為末 これまでの日本のスポーツ界は、「ある日の大きなリターンのために、今日のトライをする」が一般的な考え方でした。言うなれば、我慢の払い戻し。
一方で、「昨日出来なかったことが今日出来ることに喜びを覚える」という考え方もあります。
どちらが正しいわけじゃないけど、合う合わないはある。
ただ、払い戻しモデルで一度成功してしまった場合、引退した後にホームラン級の出来事をいち社会人として起こすことは難しいんですよね。
そういう彼らは「俺の人生はあの日を境に下り坂だ」って言うんです。
石川 それはそうですよね。
為末 ええ。言葉が悪いですけれど、全てのレベルが低く思えてしまう。「レベルが高いものは素晴らしく、低いものはしょうもない」という価値観を持っていることも多い。だから、スポーツ以外の分野に放り込まれたとき、自分が自信を持てるものがなくなってしまう。
石川 逆に、「我慢の払い戻しモデル」の利点ってあると思いますか?