【図解】劇的成長を実現する「孫流PDCA」8つのステップ

2019/2/7

ソフトバンク「働き方」3原則

──では、今回はソフトバンク社員に求められるという「超高速PDCA」術について紹介してもらいます。
三木 ソフトバンク流の超高速PDCAとは、高速で、残業もしないで高い成果を出す働き方のことです。これは私が孫社長を徹底的に分析して考えた方法です。
三木雄信(みき・たけのぶ)/ 元ソフトバンク社長室長、トライオン株式会社 代表取締役社長
ソフトバンクが圧倒的なスピードで成長している理由は、孫社長というカリスマの経営センスと行動力があるからで、常人では絶対マネできないと思っている人も多いと思います。でも、身近で見てきた結果、そんなことはありません。
下に挙げた3つを実行すれば、孫社長の仕事術は誰でもマネすることができます。
この3つを「ソフトバンク3原則」と命名したのですが、これをPDCAに組み込み、着実に実行してきたのが、ソフトバンクが急成長してきた秘密であると思います。
──では、ソフトバンク流の超高速PDCAは、通常のPDCAと、どのように違うのですか?
コンビニで新商品を販売する事例で説明すると、下のように「8つのステップ」があります。これが、ソフトバンク流の「超高速PDCA」です。
ポイントを挙げると、1か月の目標と1日の小さな目標があること、複数の商品や広告、アイデアを同時に試すこと、毎日結果を数字で検証すること、一番売れる商品に集中することです。

同時に試して数字を見る

──商品を販売する目標も「1年目標」「1か月目標」「1日目標」と逆算していくわけですね。次に、その目標を決めたら、すべての商品を同時に試す。この部分はとても新鮮です。普通だったら、すべては試せないから順番に試そうとするはずです。
事前に計画をよく練るのではなく、考えられる方法は同時にやってしまうのが、孫社長の特徴です。
例えば、「Yahoo!BB」を販売するときは、道端での販売、訪問販売、あるいはモデム無料配布など、何十という販売方法を同時に実行しました。
「通行人と目が合ったらモデムを渡す」など、一見突拍子もない方法も含め、考えついた方法はすべて同時にやります。
それは今も変わってなくて、「PayPay」でも「100億円あげちゃうキャンペーン」から「はじめ特典 500円相当プレゼント」など、多くの販促方法をほぼ同時に行っています。
「PayPay」は「Yahoo!BB」の再来とも言われているのですが、複数の販売代理店を呼び、やれること、考えつく販売方法はすべてやって、それらはすべて結果を数字で検証します。
Photo : アフロ
広告の場合も同じで、広告代理店は必ず複数社呼び、方法が異なる様々な種類の広告を出し、それぞれ結果を検証します。
また、M&A案件の場合も同様で投資銀行を複数社呼びます。なので、案件の資料は膨大な量になります。その資料は投資銀行の何人ものアソシエイトが徹夜して作ったものだけに、多くの情報と知恵が含まれています。
その知恵を、孫社長はすべて吸い取ってしまうのです。昔、「仮面ライダー」に出てきた、相手の能力を完全にコピーしてしまう怪人とまったく同じです(笑)。
このように考えられる策を、すべて1か月やってみて、その中で一番いい方法を探していく(数字で検証していく)というのが、孫社長のセオリーなのです。
ダメな方法は、しれっとやめて、忘れてしまいます。そして、残った方法に一点突破をする──。ここが、普通のPDCAと大きな違いです。
『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』(ダイヤモンド社)より抜粋

毎日の勝ち負けを見る

──毎日の目標数字を立て、毎日結果を検証するのも非常に重要ですね。
孫社長は、日々、数字で報告を受けていないと、気が休まらないタイプです。今日は成功(売れた)、今日は失敗(売れなかった)と、勝敗を毎日、検証しているのです。
要するに、特定商品の売上高を日々追いかけて、勝ち負けをしつこく見ていくということです。
──数字が悪いと、すぐにやめろ、となるのですか?
そうではありません。「是正策を検討しろ!」となるのが基本です。
そうやって、一番いい方法を探っていき、見つかったら、さらに改善を繰り返して磨き上げていく。こういう仕組み作り、システム化が孫社長の真骨頂です。
──毎日、数字で検証して改善していくのは難しくありませんか?
それは「訓練である」と孫社長は言っていました。
孫社長自身について言うと、新聞、雑誌、資料など、自分に回ってくる資料に数字が出てきたら、予測する練習までしていたそうです。
Photo : Rodrigo reyes Marin/アフロ
──どう予測するんですか?
例えば、ある会社の動きが書いてある記事を見つけた場合、その会社の今期の売上高、利益額を予測する。そのあと、その会社の売上高と利益額を確認してみて、勘を磨くんだそうです。自分は、とてもそこまでストイックにはやれませんでしたが。
すし職人は、熟練になると、米粒1粒差くらい正確な大きさで握れるようになるそうです。孫社長は、そういう経営職人の技の世界に早くから入っていたわけです。
要するに、意識的にやらないといけないことが、無意識にできるようになっている。それは長年、毎日数字を追いかけたという訓練のたまものです。
ですから、よく即断で投資を決めたと言われますが、そこには恐ろしい努力の積み重ねからくる経験則、それから事前の数多くのミーティングからくる情報収集があるのです。だから、1粒の正確さで感覚的に投資ができるのです。
──では、最後の商品やサービスを磨きあげる方法とは?
一つ一つの方法は不確実なことが多いですが、複数の方法を並行してやっていくと、良い方法、悪い方法がよくわかってきます。
高速PDCAで一番売れる(一番良い)方法を見つけても、もっと安くしたほうがいい、あるいは、こんなサービスと連携したほうがいいなどのアイデアはあるはずです。
商品にはライフタイムバリュー(顧客生涯価値)がありますから、時間が経ってきたら、そうやってバランスを加味しながら改善をし続ける必要があります。
そんなとき、役立つのが「6:3:1」の法則です。
これは、既存の一番良い方法(A)100%のうち10%を新しい方法(B)に切り替えるやり方です。そして、この(B)がうまくいったら、(A)は60%、(B)は30%にして、さらに新しい方法(C)を10%で導入するのです。
こうすると、リスクを最小限にしながら、世の中の変化に対応していくことができます。
『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』(ダイヤモンド社)より抜粋

孫流PDCAを実践する方法

──このソフトバンク流の超高速PDCAは基本、個人としても実践することができるんですね。
そうです。その場合、大きな目標(1か月)を、1日の小さな目標に落とし込むことが必要です。1日の目標を立てるルールは次の2つです。
①毎日できること、②具体的なアクションであること、です。
『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』(ダイヤモンド社)より抜粋
例えば、まだ契約が取れない新人の法人オフィス向け不動産営業職の人が、会社から月3件の契約を取るという目標が与えられているとします。
この場合だったら、オフィス管理担当者と電話で話してアポを取るという最初のプロセスに注目して、「1日3人と10分以上話す」を目標に設定すれば、数字で検証して◯✕をつけることができます。
そして、✕だったら、質問の仕方やトークの内容を変えていくことによって、営業スキルを向上させていくことができるわけです。
──確かに「お客さんと10分話す」など、工夫すると、1日のアクション目標は思い浮かびますね。
例えば、私が経営している「TORAIZ」は英会話スクールですが、一般に英会話の勉強では自分のスピーキング能力を数字で測ることはできませんね。
そこで、Versantという人工知能に近い仕組みで測るシステムを導入しています。毎月1回は受けてもらって、無理やり会話力も数字にして張り出しているんです。
「TORAIZ」が導入しているVersant。発音、流暢さ、文章構文、語彙、総合点に分けた英語の会話力を数値化して検証する。
──数値化の効果とは?
数値が上がらなかったら、教材を替えるなどの対処ができます。また、スピーキングの点数が高い人は、語彙(ごい)力や構文の時間を増やして総合力アップを図ることもできます。
スクールの受講生さんには、1週間の英語学習スケジュールを立ててもらい、◯✕をつけることを習慣にしてもらっています。そして、もし✕だったら、なぜ時間が取れなかったのか、どう対策を立てればいいかを考えてもらいます。
これはビジネスでもまったく同じです。ソフトバンク流のPDCAは数字で毎日検証し、毎日改善をする。だから、成長が加速度的に速くなる。それがメリットです。
『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』(ダイヤモンド社)より抜粋

高い人生目標を実現する方法

──このような孫社長の仕事の流れを間近で見て、三木さんが一番影響を受けたことはなんですか?
大きかったのは、やはり逆算思考ですね。
前述したように、孫社長は「ソフトバンク300年計画」と「人生50年計画」から始まる、10年単位の計画、1年単位の計画を明確に描いています。
突き詰めると、孫社長の仕事術とは、大きなゴールから逆算して目標を立て、この高速PDCAによって、ホップ・ステップ・ジャンプみたいに成長していくことです。だから、気づくと、想像もつかなかった地点まで到達してしまっているのです。
──まず大きな目標を立てる。そこから逆算して目標を小さく落とし込む。そして、このPDCAを回すと高速で成長する。この一連の流れが成功の秘訣である、と。
そうですね。秘書時代、孫社長から車の中で、こう質問されたことがあります。
「三木、普通の人が大したこともできずに一生を終える理由を知っているか?」
孫社長は、いつもそういう、なぞなぞみたいな質問をするんです。
──その答えとは?
孫社長は紙に山の絵を描いて、こう説明してくれました。
「みんな目指す山を決めないから、山の周りをグルグル回っているだけで人生が終わってしまう。そうではなく、この山を登ると決めたら、どんな道を通るか、どんな道具をそろえるかという計画が立てられる。だから、どんな高い山も登れるんだ。目指す山を決めて、登っていくんだぞ!」
そう言われて、なるほどなと腑に落ちました。
『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごい時間術』(ダイヤモンド社)より抜粋
*明日に続きます。
(取材:佐藤留美、構成:栗原昇、撮影:竹井俊晴、デザイン:松嶋こよみ、バナー写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)