【HRテックの真価】成果を出す、ポジティブな会社はこうつくる

2019/1/16
近年、大きな盛り上がりを見せる「HRテクノロジー(以下、HRテック)」。働き方改革や労働力不足など、今、大きな課題に直面するHR領域において、テクノロジーの活用は欠かせないと注目されている。

「Talknote(トークノート)」は、企業の社内コミュニケーションを活性化させ、社員がイキイキと仕事に取り組めるよう促進するエンゲージメントクラウド。多彩なツールが登場するなか、テクノロジーの導入によって、これからの企業はどう変わることができるのか?

トークノート小池温男代表とHRテック界の第一人者である慶應義塾大学大学院・岩本隆特任教授の対談から、単なる業務効率化を超えたHRテックの本質が見えてきた。
欧米では20年以上の歴史、テクノロジーの進化が後押し
──今、人材マネジメントにテクノロジーを活用するHRテックが注目されていますが、その背景を教えてください。
岩本 HRテックと聞くと、近年突然はやったバズワードのように感じている方もいるかもしれませんが、実は海外では20年以上の歴史があります。1998年に米国の企業が「HR TECH」という言葉を商標登録しています(2005年3月に商標権放棄)。ただ、当初はなかなかマーケットが伸びませんでした。
東京大学工学部金属工学科卒業。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータを経て、2012年から慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。
 潮目が変わったのは、2010年前後。欧米では人手不足の影響もあり、人事の給与や労務管理だけでなく、人のパフォーマンスやスキル、コンピテンシーといったものをデータで管理しようという動きが急速に盛り上がりました。同時期にビッグデータやAIなどテクノロジーが進化し、そこから多くのベンチャー企業が台頭しました。
 しかし、日本の人事部はその動きになかなか気付かなかった。HRテックを日本に広めるため、我々の大学の研究会といくつかの企業で「HRテクノロジーコンソーシアム」を立ち上げました。2016年10月、その中心メンバーの1社だったProFuture株式会社によって「HRテクノロジーサミット」が初めて開催されましたが、そのときも周りからは「人が集まるわけない」と言われていたほど(笑)。
 結果的には、初回から盛況で、テレビや雑誌で特集を組まれたりして話題になりました。政府の働き方改革の動きも大きな追い風となり、そこからはもう、勢いが止まらないという状況です。
──日本で広まり始めたのは、欧米より5年ほど遅いことになります。今、急ピッチでHRテックの導入に取り組む企業も多いですが、その活用に苦労しているという声も耳にします。
岩本 HRテックとは、つまりデータです。人材マネジメントに関する情報をデータにすると、AIが動かせるので、そこから新しい知見が生まれ、経営に生かせるという考え方です。
 でも、日本の企業は勘と経験で経営してきたケースが多いので、そもそもデータ化ができていないんです。これが日本企業のぶつかりやすい壁です。
 一方で、だからこそ日本ではポテンシャルが大きいという見方もできます。
 欧米では新しいことがもうそんなに見えてこないのですが、日本では少しデータ化するだけで、新しい発見がどんどん生まれます。そういう意味で、日本のマーケットの可能性は広大です。
チームの状態が企業の成功を左右する
岩本 小池さんがTalknoteを開発したのは2011年なので、日本でHRテックが広まる随分前ですね。
小池 私はもともと飲食店の経営を経て、成果報酬型求人サイトの事業に取り組んでいました。同時期に似たビジネスモデルの事業を手がけていた企業が複数あり、彼らは上場を果たしましたが、私はやり遂げることができなかった。
 目を付けたポイントや戦略には大きな差異がなかったはずなのに、どうしてか?
 それは、社内のコミュニケーションがうまくいかず、組織をつくることができなかったからです。求人事業にいた20人くらいの社員が3カ月でほぼ全員辞めてしまい、借金だけが手元に残りました。
 そのとき、どんなビジネスもチームがいい状態で機能しなければ成功することはないと強く実感しました。
2003年、有限会社ラピースドリーム設立。飲食事業、インターネット事業を行う。2010年、トークノート株式会社を設立し、2011年に社内SNS「Talknote」をリリース。KDDI、ネクシィーズ、エー・ピーカンパニーの導入を皮切りに導入企業を拡大。現在はトリドール、リンクアンドモチベーション、ビジョン、一家ダイニングプロジェクト、MS&Consulting、シーラホールディングス、ファイブグループ、ギフト、ナッティスワンキーなど、多くの成長企業がTalknoteを導入。資本金6億1985万円。
 それから多数のコミュニケーションツールを試してみましたが、どれも物足りず、それならば自分たちで作ろうと開発したのがTalknoteです。
 当初は、円滑にコミュニケーションがとれる、伝えたいことが伝わるというだけで十分な価値だと思っていました。しかし、サービスを続けていくなかで、投稿した文章を読むだけでは理念が浸透しないし、いい組織にはならないと気付いたんです。
自然と“承認の渦”が生まれる仕組み
岩本 それでエンゲージメントという付加価値を提供していかれた。
小池 そうですね。私が考えるエンゲージメントとは、シンプルにいうと「社員が会社や自分たちの事業、一緒に働く仲間が好き」ということです。それがすごく重要だと思っています。
 では、どうすればエンゲージメントが上がるのか。どうすれば会社がポジティブに機能するようになるのか、ということを徹底的に考えた結果、Talknoteに「承認する仕組み」を取り入れました。
 たとえば、情報共有の投稿をしても、誰も反応してくれなければ次、共有することが嫌になりますよね。せっかく投稿したのに無視された、と感じる人もいるかもしれません。
 なぜなら、「愛」の反対は「嫌い」ではなく「無関心」だからです。自分の意見を無視されたり、さらに批判的な反応をされたりすると、誰でも傷ついてしまうんです。
 そして「無関心」や「批判的」な状態が続き、いいアイデアや重要な情報が発信されにくくなってしまうと、会社の成長は遅くなります。この問題を解決するには、社内の「承認」の回数を増やしていくことが大切です。
 Talknoteではフィードコミュニケーションが起こりやすい仕組みをたくさん導入しています。投稿に「いいね!」を押しやすかったり、コメントが返しやすかったり。自社オリジナルのスタンプを作ることもできます。
 投稿にポジティブな反応が返ってくると承認されたと感じ、今後も積極的に共有したり、他の人を承認するようになります。そうすると会社への愛着がどんどん湧いてくる効果があると感じています。結果、チーム全体がすごくパワフルになる。
 会社員ってあまり社内で褒められることがないんですよね。だから、承認を日々の業務に組み込んでいく仕組みが重要です。
 Googleが生産性の高いチームになるために最も必要なのは「心理的安全性」だと発表しています。Talknoteでも同じようなことがいえて、みんなでの前で安心して投稿ができる社員が多いほど、いい組織になるんですよね。
 否定されると思うからみんな怖くて発信しなくなるわけです。Talknoteでは、みんなが安心して発信できる場を提供したいんです。
社員のエンゲージメントを数値化し、次のアクションを促す
──Talknoteは、優れた日本のHRテックの取り組みを表彰する「HRテクノロジー大賞」で2017年の業務変革サービス部門・優秀賞を受賞しています。岩本先生は審査委員を務められていますね。
岩本 社員のエンゲージメントという経営課題に切り込んで作られたサービスであり、誰もが使いやすいという点が高い評価を集めました。
小池 Talknoteには、社員一人ひとりのエンゲージメント状態を可視化できる機能があります。具体的にはログイン時間、投稿・コメント数、いいね!などコミュニケーションを分析し、経営層や人事など管理者がそれを見られるようにしています。
岩本 いま、数多くのチャットツールや社内SNSサービスがありますが、データによって現状をしっかり把握し、経営層が次に必要なアクションを取れるようにするための機能は経営課題に直結しますね。
 多くの企業での利用を分析して、見えてきたこともあるのではないでしょうか?
小池 たとえば、Talknoteのアイコンにきちんと顔が見える写真を設定している社員が多い企業ほど、社員のエンゲージメントや理念の浸透度が高いということがわかってきました。
 ツールによるテクノロジー化というと一見、顔の見えない無機質なコミュニケーションをイメージされるかもしれませんが、顔がわかることが安心につながり、やり取りが活性化するというアナログな要素も大きいんです。
岩本 興味深いですね。みなさん「デジタル」と「アナログ」を切り分けたがるんですが、実際には“デジアナ融合”のほうがリアルの現場では機能するんですよね。
論理的経営でなければ勝ち残れない
小池 我々はTalknoteを通じて日本の企業が元気になる後押しができればと考えています。岩本先生は日本の企業に最適なツールはどのようなものだとお考えですか?
岩本 今、日本の多くの企業が抱えているのは、分析ツールを入れてもデータがそろわないという問題です。これまでデータ化してこなかったので、材料がないんですね。
 そのため、データがまったくない状態からスタートしても、ツールによって必要なデータを蓄積できるシステムのほうが使いやすいでしょう。
 また、これまでは「静的データ」が主流でしたが、今後はパルスサーベイのように短期間で日々のデータを更新していく「動的データ」を活用するものが広まっていくのではないかと見ています。
 IoT(Internet of Things)の時代から、人の行動データを活用するIoH(Internet of Human)の時代へ変わっていくでしょう。
小池 なるほど。我々のツールは毎日使うもの。日々のデータを記録できるので、その活用も今後はより深く考えていきたいですね。
──テクノロジーもツールも急速に進化しています。HRテックへの取り組みは、今、企業にとって最重要事項といえるのでしょうか?
岩本 お伝えしたいのは、データを活用して論理的な経営をしなければ、それをうまく活用している競合他社に確実に負けるということです。
 業務効率化やコスト削減への効果はもちろんですが、Talknoteのようなツールをうまく使うことで社員のエンゲージメントを上げられる時代なんですよ。それをしっかりと経営に生かすことができる企業は強いですよね。
(構成:尾越まり恵 編集:樫本倫子 写真:的野弘路 デザイン:九喜洋介)