【秘伝】2年連続世界一。前代未聞のウイスキーの造り方
2019/1/14
レジェンドの感慨
「捨てられるかもしれない、この世からなくなってしまうかもしれないウイスキーを自分が助けたような形になって。今度はそれに助けてもらって世界一になって。ウイスキーつくってて良かったなって思いましたね」
2018年3月、イギリスのウイスキー専門誌『ウイスキー・マガジン』主催の世界的なウイスキーのコンペティション「ワールド・ウイスキー・アワード 2018」で、ベンチャーウイスキーが「ブレンデッドウイスキー リミテッドリリース部門」の最高賞を受賞した。
2018年の世界大会で最高賞を受賞したウイスキーを造る肥土伊知郎氏(右から2番目)
「ベンチャーウイスキー」は、前年の2017年にもひとつの樽から瓶詰した「シングルカスクシングルモルト部門」で最高賞を受賞している。世界中の蒸留所が腕を競うこの部門で2004年に創業した新興メーカーが受賞するのは前代未聞で、世界のメディアがこの快挙を報じた。
それ以前から、肥土のウイスキーは世界で圧倒的な人気を博しており、海外では「レジェンド」「スター」と評される。その肥土にとっても2017年の最高賞は予想外で、喜びはその分、ひとしおだった。
しかし、2度目となる2018年の受賞は、それ以上に彼の胸に染み入るものがあった。
ブレンデッドウイスキーとは、大麦麦芽でつくったモルトウイスキーと、トウモロコシや小麦などの穀物を使ったグレーンウイスキーの原酒をブレンドしたものを指す。
受賞した「イチローズモルト&グレーン・リミテッドエディション ジャパニーズ・ブレンデッド・ウイスキー」は、2種類のモルトウイスキーと1種類のグレーンウイスキーがブレンドされている。
イチローズモルト&グレーン・リミテッドエディション ジャパニーズ・ブレンデッド・ウイスキー
モルトウイスキーのひとつは、2000年に閉鎖された羽生蒸溜所で、グレーンウイスキーは2003年に閉鎖された三楽オーシャンの川崎蒸留所でつくられたものだった。
どちらも、廃棄の危機にあったところを肥土が引き取ったものだった。
肥土はそこに、秩父蒸溜所で自ら仕込んだ「イチローズモルト」をブレンドした。受賞したウイスキーには、「ベンチャーウイスキー」の歴史が詰まっているのだ。
“子ども”を守るために
肥土家の家業は1625年創業の造り酒屋・肥土酒造本家を原点に持つ。だが2000年、業績悪化により民事再生法を申請した。この時、ウイスキー「ゴールデンホース」をつくっていた埼玉の羽生蒸溜所は操業を停止。同年、35歳で父親から経営を引き継いだのが肥土だ。
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この連載について
消費量が減少の一途をたどるなど、酒離れが進む日本。そんな中、妥協を許さない粘り強さや並並ならぬ探究心を持ち、酒と向き合う人々がいる。彼らが見据えるのは世界。ウイスキー、ビール、日本酒、ジン、ワイン、ラムの各分野で革新的な取り組みをしている6人を取り上げ、国境を越えて広がる「ニッポンの酒」の現状を伝える。
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