ありそうでない「地銀再編」
2014/03/20, Longine
投資家に伝えたい3つのポイント
- 預金はこれまで増えてきましたが、今年2月は例年になく伸び率が縮小しているのが目を引きます
- 地方の個人預金は、過疎化と相続時の都市部への移転で、大きく減る可能性がありそうです。
- 預金は貸出よりも規模縮小に直結するので、今後再編の圧力になるかどうか、注目しています。
2014年2月の預金が1月に比べ伸び率が大きく縮小
日本銀行が3月10日に発表した「貸出・預金動向」をみると、2月は少し興味深い変化がありました。都市銀行・地方銀行・第二地方銀行の預金残高の前年比が、2014年1月4.1%増から同2月3.5%増へ、比較的大きく縮小したことでした。残高も前月比で減少しています。過去を遡ると、2月は預金が減る傾向があります。年度末を控えて決済や期越えの資金が必要になる時期です。今回は消費税率の引き上げ前の駆け込み需要のための決済が多く、手元に資金を置いておくため、例年以上に取り崩しているかもしれません。普段は、景気や企業・家計の活動を考える上で、貸出のみに関心が向かいがちですが、その元手となる預金を考えてみたいと思います。
個人金融資産1,600兆円、主役はずっと預金
同じく日本銀行の「資金循環勘定」によると、2013年9月末の家計部門の金融資産、つまり個人金融資産は1,598兆円、前年比6%増でした。アベノミクスで注目の「株式・出資金」は9%を占め前年比44%増、「投資信託」が5%を占め同33%増、の大幅な拡大となりました。昔から個人金融資産は活用が主張され、「貯蓄から投資」といった啓蒙活動も続いています。NISA(少額投資非課税制度)もその一環でしょう。しかし依然として個人金融資産のうち、「現金・預金」が54%、「保険・年金準備金」が27%と、合計で81%を占めます。それぞれ2%台の増加ですが、これまで個人金融資産のほぼ一貫した拡大をけん引してきました。その資金は、銀行など金融機関を通じて、貸出先の企業、国債市場と財政を支えてきました。
3月11日が再認識させる「日本の過疎問題」
預金は、銀行業界も支えてきました。特に地方銀行において、県内の経済や貸出の低迷が著しい地域ほど、増える預金を国債などの債券へ投資して利益を確保してきました。リーマンショックの時には、海外の債券や証券化商品、REITなどで多額の損失が発生し縮小しましたが、債券頼りの構図は大きく変わっていないようです。先日で東日本大震災から3年が経ちました。避難生活を送る人は26万7千人にも達するだけでなく、被災地では人口減少に歯止めがかかりません。帰還したくても復興のメドが立たないだけでなく、避難先の都市部が便利で生活の基盤が安定したため帰還の意志が薄れた人々も、少なくないと思います。震災が、もともと進んでいた過疎を加速化させている状況と、復興で人口が再び増えるのか、考えさせられます。
地方の個人預金は伸び悩み
日本の多くの地方でも過疎が止まりません。影響は、「シャッター通り」などの光景からも、地元の売上の減少という形で明らかでした。しかし地方銀行では貸出が低迷してきましたが、預金は増加して債券投資で何とか補ってきたので、問題の重大性は他産業よりも少し希薄だったと考えます。しかし、個人預金の減少の可能性と問題を、考えるべき時期に来ています。全国の各ブロックの国内銀行の個人預金残高を、東日本大震災直前の2011年2月と直近の2014年1月で比較しました。関東など大都市圏のあるブロックに比べ、北海道、北陸、四国では、個人預金の伸び率が低く、2005~2012年の統計から人口の減少が大きい傾向があります。逆に個人預金の増加率が高い、東京都や神奈川・埼玉・千葉県は人口増加、東北は復興予算と事業が背景と考えられます(図表1、図表2)。
意外に多い人口1人当り
図表2をもう一度みると、人口1人当りの個人預金額があります。東京都の高さと北海道の低さが目立ちますが、それ以外は200~300万円台前半で差が大きくありません。むしろ四国の337万円は、神奈川・埼玉・千葉よりも多く、近畿に次ぐ水準です。因みに都道府県レベルでは、徳島県は411万円で東京都、大阪421万円に次いで第3位、香川県は374万円で第5位のほか、富山県は326万円で第8位と、大都市を抱えていなくても高い県があります。有力な地元産業、過去からの蓄積や県民性、住宅価格とローンが都市部に比べ少なく済むこと、などが考えられます。
預金は地方減少→都市部シフトが進む可能性
しかし、ブロック間で驚くほどの格差がないのは、高齢者ほど個人金融資産が相対的に多く、地方に行くほど高齢者の割合が高い傾向があるためと考えます。今のところ、個人預金が大きく減ったブロックはなく、アベノミクスによる景気刺激策が、地方経済をしばらく支えるかもしれません。しかし、地方の高齢化と過疎化に歯止めがかからず加速すると、個人預金は生活費などのため取り崩され減少するだけではありません。遺産相続時には、相続税だけでなく都市部に住む子や孫に預金の多くが移転することで、地方の預金はさらに減少し、大都市圏の預金はますます増加する可能性があります。
預金減少貸出以上に規模縮小に直結、再編圧力の注目点
直近で、地方銀行は64行、第二地方銀行は41行あります。3行以上ある県も少なくありませんが、再編の機運はあまり高くないように見えます。東京都民銀行(8339)と八千代銀行(8409)は2014年10月の統合を発表しましたが、首都圏の銀行です。メガバンク誕生も含め、過去の銀行再編の多くは貸出の不良債権などで追い詰められた結果ですが、それも「金融円滑化法」などの緩和措置などで起こりにくくなりました。地元の貸出市場の縮小が今後も進むとわかっていても、再編圧力としては弱いかもしれません。「都市型」を除くと、地方銀行株の多くは地元企業が保有しているので、株主からの圧力も強くなさそうです。実際の流通株数を考えると、時価総額も数字ほど大きくないとみています。時折、「地銀再編」が貸出を題材に記事になることがあります。しかし預金減少は、貸出以上に規模縮小に直結するので、今後再編の圧力になるかどうか、注目しています。
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