ビデオゲームやドラッグとして知られる「ケタミン」は、スタートアップ各社が開発に取り組んでいる精神疾患治療の新たな選択肢のごく一部だ。

ドラッグとして知られる麻酔薬の効果

創業者が精神疾患と闘うことになる確率は高い。だが、そのことをロン・ダネットに教える必要は誰にもなかった。
ロックバンド「ラッシュ」のニール・パートをはじめとするミュージシャン向けに、高価なスネアドラムを手づくりしているダネットは、ずっと以前から重いうつ病と闘っていた。セラピーやさまざまな薬を試してみたが、効果はなかった。
しかし2017年、ダネットは効果が期待できる新たな治療法があることを知った。ケタミンだ。米食品医薬品局(FDA)承認の麻酔薬、というよりクラブキッズが体外離脱の感覚を楽しむために使用するドラッグとして知られる、あのケタミンだ。
FDAは承認していないものの、ケタミンはうつ病や自殺念慮の治療に効果があるとして近年、高く評価されるようになっている。多数の研究結果がその効果を支持しており、起業家精神にあふれた多くの医師たちが専門クリニックをオープンしている。
そうしたひとりであるスティーヴン・L・マンデル医師は、2014年に「ケタミン・クリニックス・オブ・ロサンゼルス」を開業。ダネットの治療も行った(ちなみに、ケタミンの適応外使用は合法だが、保険は効かない)。
「私にとってケタミンは、一か八かの賭けだった」とダネットは語る。「ようやく、喜びを感じられるようになったよ」。治療を受ける前の彼は、自宅のガレージでバイクを使って自殺しようとまで考えるようになっていた。
「これは誇張ではない。ケタミンのおかげで人生を取り戻している患者たちが実際にいる」と、マンデル医師は話す。彼の患者の半分は起業家だという。

デジタル治療や遠隔セラピーにも注目

ここ数年で利用できるようになった斬新な治療はほかにもいくつかある。たとえば『Inc.』が選んだ「Best Industries of 2019」で取り上げられているデジタル治療は、現在急成長中だ。
ゲームやアプリはいまや、エンターテインメントだけでなく、さまざまな病気の治療にも用いられるようになっており、なかには医師の処方箋が必要なものまである。
ビジネスコンサルティング会社のフロスト&サリバンによれば、アメリカのデジタル治療市場は2017年に8億8900万ドル(約964億6000万円)の規模があると評価されており、2023年までに44億2000万ドル(約4795億7000万円)に達すると見込まれている。
また、遠隔医療や遠隔セラピーの分野も医師やスタートアップの注目を集めている。
遠隔セラピーを手がける企業のドットコム・セラピー(DotCom Therapy)は、言語療法や作業療法、メンタルヘルスサービスなどを提供しており、2017年に200万ドル(約2億1700万円)超の売上を計上している。
ドットコム・セラピーは現在、世界各地の新市場への事業拡大を進めており、2018年には急成長する健康管理業界(self-improvement industry)の1社として脚光を浴びた。
市場調査会社マーケットデータ(Marketdata)によれば、2017年における同業界の総売上は99億ドル(約1兆円)だったという。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Will Yakowicz/Staff writer, Inc.、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真:beijingstory/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.