PET検査の脳画像で、AIがアルツハイマーをこれまでより6年早く予想

2019/1/8

症状が出てからでは治療は困難

高齢になると発症しやすくなる病気はたくさんあるが、それがあらかじめ予想できたらどうだろう。
消費者向けDNAテストで、一部の病気の遺伝子リスクの存在がある程度わかるようになっているが、AIもこの分野にかなり貢献しそうだ。特に注目されているのは、アルツハイマーや認知症である。
昨秋、サンフランシスコの有名な医学大学カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者らが、脳のPET(陽電子放射断層撮影)検査結果の画像からAIがアルツハイマーの発症を6年も早く予想できると発表した。
現時点では、身内の誰かがアルツハイマーや認知症になったとわかるのは、たいていその症状が出てからだ。
記憶がかなり曖昧になる、発言の意味が通じない、前後関係がおかしい、どこにいるかがわからなくなるなど、少しずつ、しかし確実に増えていく兆候を重ねていって、これはただの老化による忘れっぽさではないと気づくようになる。
しかし、そんな兆候が明らかになる頃には病状はかなり進んでいる。アルツハイマーもほとんどの認知症もはっきりとした治療方法がないので、早く見つかっても確実な回復には結びつかない。だから、早期発見に何の意味があるかと思う向きもあるだろう。

初期状態で病気の進行を遅らせる

けれども神経細胞が死んでしまう前の初期の状態で医療的に介入することができれば、病気の進行を遅らせることができる。今から6年後には、治療薬も出ているかもしれない。
そして何よりも、家族や本人がこれからの生活を調整する時間が与えられる。手遅れになる前に、自分の人生に何らかの手が打てるというのは、これからの高齢化社会では重要なポイントだ。
AIを利用してUCSFの研究者らが行った研究は次のようなものだ。
まず、すでにアルツハイマーの症状が見られる1000人以上の患者のPET検査画像2100枚をAIに学習させる。
PET検査は、ブドウ糖に近いFDC(フルオロデオキシングルコース)という薬剤を体内に注入して行われるが、細胞の活動の度合いによってFDCの取り込みの高さ、つまりメタボリズムが異なってくる。
アルツハイマーに侵されるとメタボリズム・レベルが低くなるのだが、AIはPET検査の画像に現れる微妙な違いからどのくらい弱化しているのかを学習するわけだ。

画像とAIで医療分野の進歩に期待

PET検査は腫瘍を発見する手段としても使われるが、この場合は、がん細部は通常の細胞に比べて活動が活発なため、メタボリズムの高くなった一部の細胞を特定する方法で行われる。
しかしアルツハイマーの場合は、メタボリズムの弱化が緩く、また広範に及んでいるために人間の目ではなかなか特定しにくいことが早期発見を阻む要因だった。それをAIが見極めようというわけだ。
研究では、2100枚の画像の90%を用いて深層学習のアルゴリズムを訓練させ、次に残りの10%の画像でテストを行った。これによってAIは、アルツハイマー患者に現れる脳細胞のメタボリズムのパターンを学習した。
研究者らはその後、40人の患者から得た40枚の画像を対象に判断させた。アルゴリズムは、平均してアルツハイマーの診断が下される6年以上前にさかのぼって、100%の確率でその兆候を特定したという。
AIを利用したアルツハイマー症状の特定では、老人が部屋を歩き回る様子からAIが異常を見分けるという方法があることを、以前このコラムでもご紹介したことがある。医療は画像によって画期的な進歩を得ているのだが、AIによってさらに大きな可能性を手にしたことがわかる。
便利さやビジネスなど多様な用途がある中で、AIの利用が本当に期待される分野である。
*本連載は毎週火曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:© US National Institute on Aging, Alzheimer's Disease Education and Referral Center)