【最終話・ピーター・ティール】ジョブズとイーロン・マスクの偉業

2019/3/2
LinkedIn共同創業者で、シリコンバレー屈指のベンチャー・キャピタル、グレイロック・パートナーズの投資家であるリード・ホフマン氏が、著名な起業家にインタビューするポッドキャスト「Masters of Scale(マスターズ・オブ・スケール)」

企業はどのようにしてゼロから一気に成長するのか。伝説のリーダーたちへのインタビューから明らかにしていく模様を「イノベーターズ・ライフ」で公開する。

初回のゲストは、PayPal共同創業者のピーター・ティール氏。PayPal創業時から取締役に名を連ね、副社長も務めたPayPalマフィアの一人であるホフマン氏が、ティール氏の思考に迫る。
Listen to Masters of Scale at applepodcasts.com/mastersofscale and follow us Twitter.com/mastersofscale.
ホフマン:さて、いくつか最後に質問したい。第1の質問。きみの思想、とりわけ競争に対する考えかたについて、ルネ・ジラールから受けた影響について教えてもらえるだろうか。
ティール:ルネ・ジラールは、僕がスタンフォードにいたころの教授で、古典に幅広い教養を持つ知識人だ。彼は人間の行動について、歴史と心理学の観点から、ある理論を打ち立てた。その核になっているのは人間の模倣行為だ。
つまり、僕らは他人が欲しがるものを欲しがる生き物だということだ。この傾向の問題は、他人の欲望を模倣していると、全員が同じものを欲しがるようになるために、争いや競争が起きるという点にある。
こうした争いは、古代の文化では非常に暴力的な手段で解決されたんだ。
この理論によって、人間の性質や心理ばかりでなく、社会の発展や歴史にも説明をつけることができる。
僕の考え方は、この理論にとても強い影響を受けている。僕にとっては、この理論自体がひとつの知の体系に等しい。
(写真:ANDREW WHITE/The New York Times)
一方で、この考え方は実存批判的でもある。ここでは、自分自身が何らかの形でこれに加担していると見なされるためだ。
僕はその知的な側面に魅了されながらも、模倣に関するくだりには長年、反発を覚えていた。わが国が大事にしてきた、リバタリアニズム的価値観を否定するものだからね。
自分の欲望は自分だけのものであり、自分の考え方もまたしかり。僕らは広告なんかに踊らされたりはしない……そう考えるのが個人主義だ。
しかしながら、これは事実とは言えない。アイン・ランドの本に出てくるような英雄は、実際には存在しないんだ。悪役の描写はかなりリアルだけど、ヒーローのほうはリアルじゃない。
『肩をすくめるアトラス』の主人公、ダグニー・タッガートは、8歳のときに大陸横断鉄道の経営者になることを決意するが、完全に大人の考え方をしている。子どもについてどう考えるかというのは、リバタリアンにとってはやっかいな問題だ。
ジラールによると、子どもは周囲の大人から願いや野望を受け取り、分不相応な望みを抱くようになるという。このことに対して、大人は子どもみたいに無責任だ。大人のほうが子ども以上に模倣的で、他人から影響を受けやすい。
ホフマン:僕はきみを通じてジラールの思想を知り、大いに刺激を受けたよ。
さて、次の質問だ。大半の人間が、「指数関数的成長」や「複利」といったものの価値を正しく理解していないことに対して、きみはどう思う?
この点に関して、ペイパル時代の僕らは実にうまいことやっていた。「指数関数的成長について、これだけは理解しておけ」みたいなピンポイントのアドバイスはあるかな?