【佐々木紀彦】ライフ改革、マルチコミュニティ、自省の年に

2019/1/1
みなさん、新年あけましておめでとうございます。平成最終年となる本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
ちょうど一年前の元旦、「ポスト平成を彩る『3つのメガトレンド』」という記事を掲載し、ポスト平成は「若者の時代」「教育の時代」「攻めの時代」になると書きました。
【佐々木紀彦】ポスト平成を彩る「3つのメガトレンド」
この予測を前提とした上で、本コラムでは、2019年に注目を集めそうな3つの潮流を記したいと思います。
それは、「ライフ改革」「マルチコミュニティ」「自省」です。
(1) 働き方改革からライフ改革へ
2018年は、“働き方改革”一色の1年でした。
今年4月から働き方改革関連法案が順次施行されることにより、働き方改革は一段と加速していくことでしょう。
ただし、ワークの改革に比べると、ライフの改革はほぼ手つかずです。働き方改革で生まれた新たな時間の使い道が定まっていません。
今年は、ワークの改革に続いて、ライフの改革が本格化する1年になるはずです。
ライフ改革はあらゆる大人に求められますが、中でもメインターゲットとなるのは、子どもを持つ男性です。
近年、女性活躍が叫ばれていますが、その大きなハードルになっているのは、夫の家事・育児参加の少なさです。
内閣府の国際比較(2016年時点)によると、日本の夫が家事・育児に費やす時間は83分。5年前より16分増えてはいますが、依然、先進国の中で最低レベルです。その分のしわ寄せが妻にのしかかっています。
今のような不利な状況で、子どもを持つ女性に対して、「男性と同じように活躍せよ」と求めるのは酷な話です。
だからこそ、働き方改革で浮いた時間を、男性が家事や育児に使うことが大事になります。
ただし、男性からしても、「もっと家事・育児を手伝え」と押し付けられても、気乗りがしないでしょう。
そこで求められるのが、ライフ領域のイノベーションです。とくに家事・育児の効率化や娯楽化を進めるサービスやプロダクトが切望されます。
たとえば、料理。
最近、私が感動したサービスに、Oisixのミールキット「KitOisix」があります。累計1100万キットを販売するなど、子育て世帯に大ヒットしています。
いくら料理が好きな人でも、材料を買いに行って、一から料理をするのは骨が折れます。材料をうまく使いきれずに廃棄せざるをえないことも多いでしょう。
かといって、毎日、外食したり、スーパーなどでお弁当を買ったりするのも気が引けますし、味に飽きてきます。
「KitOisix」はそうした悩みを一気に解決してくれます。
材料は分量ごとにパッケージされていて無駄がなく、栄養バランスも考慮。メニューが次々と変わるため飽きが来ず、味もおいしい。料理は20分で終わるように設計されているので、効率的に“ひと仕事感”が得られます。
先日、WEEKLY OCHIAIで、予防医学研究者の石川善樹さんが、「現代において幸福を感じるためのカギは“ひと仕事感”。それを味わえるのが料理」と指摘していましたが、まさに「KitOisix」は幸福感を味わえるサービスなのです。
【落合陽一×石川善樹】幸福をアップデートせよ
しかも、そのサービスを2013年7月に立ち上げたのが、オイシックス初の女性執行役員を務める菅美沙季さんであるところに時代性を感じます。
料理に限らずライフ関連のビジネスは無数にありますが、男性より女性のほうが、そうした分野に深い知見を持つ人が多いはずです。
日本のライフ改革が進むにつれ、女性発のライフイノベーションが次々と起きるでしょうし、家事・育児進出を通して新たな発想が湧いてくるでしょう。
かつて、洗濯機や掃除機の発明が家事負担を大きく減らし、女性の自由を拡大しました。
当時と同じように、テクノロジーも活かしながら、家事・育児を革新するサービスやプロダクトが生まれてくるはずです。
今年はぜひNewsPicksでも、ライフ領域のイノベーションを積極的に取り上げていきたいと思います。
(2)マルチコミュニティの時代へ
2018年はコミュニティという言葉をよく耳にしました。
働き方、マーケティング、コンテンツ創り、そして、社会の幸福、安定など、あらゆる文脈からコミュニティが語られました。
中でも、とくに印象に残っているのは、作家の平野啓一郎さんが提唱している「分人」という概念です。
分人については、平野さんの『私とは何か――「個人」から「分人」へ』に詳しいですが、「人間を分けられる存在」とみなす考え方です。
「たった一つの「本当の自分」など存在しない。裏返して言うならば、対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて「本当の自分」である」(前掲書のまえがきより)
この「分人主義」は、(1)のライフ改革とも強くリンクします。
猪瀬直樹さんの言葉を借りれば、これまで“ミニ国家”として機能してきた会社というコミュニティの比重が下がるにつれて、会社外でのコミュニティが、幸福と安寧のための場としての存在感を高めていくのです。
NHKの「平成で変わった家族の形」の記事でも取り上げられているように、今や日本の世帯の35%が1人暮らしです。平成2年時点の23%から急増しています。
だからこそ、1人暮らしの人も、多様な人々と出会えるような、価値観や趣味や地域や信仰などを軸としたコミュニティが大切になってくるのです。
【論考】「ソロ男」の孤独とコミュニティへの向き合い方
各人が自らの分人に応じて、3~5つぐらいのマルチなコミュニティに属するようになれば、人生の楽しみが増しますし、いざというときのセーフティネットにもなります。
コミュニティは日本でも徐々に増えており、オンラインサロンに注目が集まっていますが、オンラインだけではコミュニティの普及は限られてしまいます。
今のところ、オンラインだけでは、どんなに工夫してもこぼれ落ちてしまうものが多いのです。
ロゴス(論理)、パトス(情熱)、エトス(信頼)で言うと、オンラインでも、言語を駆使すればロゴスは伝わりますが、絵文字や写真や動画を駆使しても、パトス、エトスは伝わりにくいところがあります。
総合的には、リアルのほうが断然、効率がいいのです。
きっと今後は、リアルとオンラインが完全に一体化したコミュニティが生まれてくるはずです。
オンラインとオフラインを統合した小売りを「ニューリテール」と呼びますが、それになぞらえると、「ニューコミュニティ」といったところでしょうか。
日本でコワーキングスペース運営のWeWorkが好調な立ち上がりを見せていますが、それはリアルを基盤として、オンラインでもコミュニティを創っているからでしょう。
【直撃】スタバでは味わえない、最高の「仕事空間」はこう生まれた
そもそも、日本のように国土が狭く、人が密集している国では(東京が典型)、人がリアルに会うコストが低い。
国土がバカでかい米国を真似してリモートに振りすぎるよりも、日本の地理的特徴を活かして、リアル空間をとにかく充実させたほうが、異質な人たちの化学反応が起きやすくなるのではないでしょうか。
リアルとオンラインが融合したコミュニティ創りは、ビジネスチャンスになるだけでなく、公共空間としても重要性を増していくはずです。
先日、Coworking Conference Japan 2018というイベントに参加する機会がありましたが、“公共空間としてのコワーキングスペース”に関する話が盛り上がっていました。「コワーキングスペースは昔のお寺みたいなもの」とのコメントには、「確かになあ」とうなずきました。
年末のプロピッカーが勢ぞろいしたWEEKLY OCHIAIでも話題となった「会社に代わるコミュニティ」と「新しい公」。
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2019年は、個人が所属できるマルチなコミュニティを創り出していく元年となるのではないでしょうか。
(3)個人も会社も国も自省モードに
最後のキーワードは、自省です。個人も、企業も、日本という国も自省する1年になるという意味です。
まず個人は、時代が大きく転換する中で、「私はどういう人間なのか」「私はどう生きるべきか」と思索することになるでしょう。
現在、前田裕二さんが書いた『メモの魔力』が発売3日で17万部を記録するなど、爆発的に売れていますが、その理由として担当編集者の箕輪厚介さんは、自己分析需要を挙げていました。
本書のコンセプトの軸は、メモを通して本当の自分を見つめ直すことであり、巻末には、「自分を知るための【自己分析1000問】」が付録として付いています。
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箕輪さんは1年前から、「自己分析本からミリオンセラーが出る」と予測していましたが、「自分自身を省みて、アップデートしよう」というニーズは今後も膨らんでいくでしょう。
自省が求められるのは、企業も同じです。
自社の歴史を深く見つめながら、ビジョン、アイデンティティ、強みを確認し、新時代に向けて再定義しなければなりません。
昭和・平成モードで新時代を迎えると、時代に取り残されて、顧客や従業員からそっぽを向かれかねません。今年は不況が来る可能性も高いだけになおさらです。
企業や経済社会をアップデートするには、海外の最先端の事例に学ぶことも大切ですが、それ以上に、過去を真摯に振り返ることが必須だと思います。
近年、NewsPicksが典型ですが、イノベーターというと、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスなど海外の例ばかり出てきます。
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もちろん、世界最先端のイノベーターから学ぶのもいいのですが、明治、大正、昭和を彩った日本の偉大なるイノベーターから学ぶこともたくさんあります。
しかし、そうした先人の叡智が現代にほとんど引き継がれていません。
私は大学生に講演する際はいつも、松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫、井深大の写真を見せて、「この人たちが誰だかわかりますか」と質問してみるのですが、正答率は「ほぼゼロ」です。
本田宗一郎の写真を見せて、松下幸之助と言われたときには思わず苦笑しました。松下幸之助の名前を知っていればまだいいほうで、名前すら知らない学生も多いです。
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そうした無知は、学生の責任というより、歴史をしっかり次世代につないでこなかった大人、とくにメディアの責任だと思います(自戒も込めて)。
私自身、平成が終わる2019年は、先輩イノベーターたちに徹底的に学ぼうと反省するとともに、NewsPicksでも、そうしたコンテンツを増やしていきたいと考えています。
たとえば、年末に鹿島茂著『小林一三 - 日本が生んだ偉大なる経営イノベーター』を読みましたが、スケールの大きさと現代への示唆の多さに感嘆しました。
小林一三は、阪急電鉄、宝塚歌劇団、阪急百貨店、東宝、阪急ブレーブス、第一ホテル、昭和肥料(後の昭和電工)をつくり、東京電燈(後の東京電力)を再建し、商工大臣も務めた人物です。
さらにもともと小説家志望で多くの著作を残した上、茶や俳句を愛した文化人でもありました。
鉄道、住宅、小売り、エンタメ、エネルギー、アート、あらゆる分野で日本を進化させた“怪物イノベーター”なのです。
(写真:近現代PL/アフロ)
小林一三は死の27日前、1956年12月29日に行った最後の演説でこう述べています。
「日本は大したものになる。それは私が保証します。諸君は安心してよい。ただそれには条件がある。それは国民全体が働くことだ。努力することだ。努力を惜しまなければ日本は実に立派な国になる。若い人はほんとうに仕合せだ。働けば必ず仕合せになれるにきまっているからである」(前掲書、505~506ページより)。
今ちょうどページをめくっている米倉誠一郎著『松下幸之助:きみならできる、必ずできる』もすこぶる面白い。神格化された松下幸之助ではない、イノベーター、人間としての松下幸之助が描かれています。
以下のような幸之助評を読むだけで、本を手に取ってみたくなりませんか?
(写真:近現代PL/アフロ)
「きわめて人間臭く、強さと弱さ、その両面を抱えながら成長を続けていった事業家であり経営者であった。貧困の中から身を起こし、自分の生きる道を探し出し、努力と学習を重ね続けたイノベーターであった。さらに、病弱でありながらも、「愉快」でド派手なイベントを大切にする「お祭り男」でもあった。技術だけでなくデザインや意匠にも優れた才能を発揮し、宣伝やコピー・ライティング、ブランドやトレードマークにも気を配った。さらに消費者の日常や心の中にまでに思いを馳せられるマーケターだった。よく泣き、よく怒り、吝嗇で、豪毅で、大胆で、繊細で、男前で、そして多分モテ男でもあった」(前掲書、3ページ)。
小林一三、松下幸之助はほんの一例です。
私自身は、福澤諭吉にメディア創りを日々学んでいますが、あらゆるビジネスパーソンは、師匠と仰げるイノベーターを日本の歴史から見つけることができるはずです。
「シリコンバレーや中国ではこれが流行っているよ」といった話に加えて、「こんな苦難にぶつかったとき、盛田昭夫はこう立ち向かったそうだよ」といった会話も自然と行われる。
そんな古今東西の実践知に満ちた経済社会を創れるよう、NewsPicksという場をみなさんと一緒に磨き上げていきたいと思います。
今年も1年、足元を見つめ直すとともに、自己変革に励みますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
(デザイン:星野美緒)
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