スタートアップでこそ活きる会計士2.0

2018/12/27
監査法人で働く会計士は多いが、その能力を活かす場はほかにもある。会計士の持つ力に注目し、積極的に採用しているのがフィル・カンパニーだ。会計士のビジネスセンス、スキルは、ベンチャーでどう活きるのか。会計士でもある同社取締役社長室長の小豆澤信也氏にフロントに立つ会計士としての魅力を聞いた。また、生き残る会計士の強みについて討論した会計士限定イベント「会計士2.0」についてもリポートする。

会計士のキャリアの可能性

──小豆澤さんは会計士としての王道のキャリアを重ねてきて、現在はフィル・カンパニーでフロントとして活躍されています。会計士としては異色のキャリアだと思いますが、これまでの経歴を含めて、なぜ今のようなポジションに行きついたのかお聞かせください。
小豆澤信也 フィル・カンパニー取締役社長室長・公認会計士
小豆澤 多くの会計士と同じく、私も監査法人でキャリアをスタートしました。その後、会計士として独立したのですが、フィル・カンパニーが上場する際に業務委託の立場で支援していました。社長の能美から声をかけてもらったのをきっかけに社長室長として参画し、現在は事業や経営の根幹に関わる部分でフルコミットしています。

新たなビジネスモデルで自分の力を試す

 私が従業員数10人に満たないベンチャーだったフィル・カンパニーに関与したきっかけは、そのビジネスモデルの斬新さにありました。コインパーキングの上空に店舗開発をするという今までにないゼロからイチを創るフィル・カンパニーのビジネスモデルは、新しい可能性にあふれていました。そして入社の決め手となったのは、まだ世の中に認められていなかったそのビジネスを少人数で苦しいながらも信じ、広めていきたいと全員が一致団結していたからなんです。
 さらに、会計士としてキャリアを積んできた自分が、事業の最前線に立って今までとまったく異なる分野で自分の力を試すというチャレンジができる。これは私にとって大きな成長のチャンスとなりました。
 会計上の数字を扱うだけは得られないやりがい、会社外部の立場からは絶対に感じられない達成感。ゼロイチのリアルビジネスを尊敬できる仲間と一緒にやることは、こんなに面白いものなのか。まさに冒険で、今も日々の仕事にワクワクできている理由です。
 もちろん、会計士としてのスキルやこれまでのキャリアも、リアルビジネスに大いに活きています。ビジネス全体をお金とサービスの動きから俯瞰(ふかん)して考えられるのは、会計士ならではのスキルでしょう。
 会計士という資格へのお客さまからの信頼感を感じるのも事実です。フィル・カンパニーには、会計士だけでなく、元経営者、建築士やマーケターなどさまざまな分野のプロも多く在籍しています。それぞれが得意分野を集結し掛け合わせることで、より強い組織となる。それがビジネスを成功に導いているのだと思います。
 フィル・カンパニーに来てから思うのですが、会計士には、自分たちが思っている以上にキャリアの可能性が広がっています。会計士は会社の「ブレーキ役」と考えている人も多くいますが、決してそれだけではありません。現に私自身、アライアンス・新スキーム開発・営業など、アクセル全開でリアルなビジネスの現場で勝負しています。
 会計士はビジネスの知識や素養を十分持つ、ビジネスパーソンです。会計士という枠にとらわれずに、自由な環境でチャレンジするマインドをもっと持ってほしいと思います。
 フィル・カンパニーでは、私のような会計士の資格を持つ人間が複数在籍していて、それぞれが新たなキャリアを広げています。私もそうですが、個人の会計事務所を持ったまま在籍していたり、業務委託を選んでもらってもいいのです。自分が望むペースで、新しいビジネスに挑戦する。攻め重視でも守り重視でもいいんです。フィル・カンパニーのそんな自由な環境は、会計士の潜在能力を引き出し次のキャリアステップにつながっていくはずです。

時代が求める「会計士2.0」とは

 会計士の持つビジネスパーソンとしての可能性に期待を寄せるフィル・カンパニー。11月13日には、「会計士2.0」と題して、参加者を会計士に限定したイベントを開催。フィル・カンパニーの小豆澤氏のほか、PCP代表の桑本慎一郎氏、ユーザベース執行役員の松井しのぶの、3人の会計士がAI時代の会計士のキャリア形成について討論。参加者からの熱い質問も数多く寄せられるなど、新たな会計士像を追求した。
大手監査法人で上場企業や金融機関等の監査に従事。その後、ベンチャー企業の管理部長や上場企業の経理マネジャーを経験。2011年、株式会社ピー・シー・ピーを創業。現役で活躍する会計士のことを詳しく知ることができる「会計士の履歴書」といウェブメディアを運営中。
桑本 私は、会計士が適材適所で自分に合った働き方ができる基盤を構築して、日本経済をもっと発展させていきたいと考えています。今はまだ、会計士も、採用する事業会社も、会計士の利用価値、採用価値がよくわかっていない。そこを解決して、会計士が活躍できるプラットフォームやインフラをつくっていきたいですね。
 今後は会計士という資格の価値自体は下がるかもしれません。「会計士×◯◯」という掛け算で、自らの希少性を高めていくことが生き残りの鍵になるはずです。
国内大手監査法人で2年ほど会計監査業務に従事後、PwC税理士法人で8年ほど国際税務のコンサルティングマネジャーに従事。その後、家庭の都合によりトルコで4年半を過ごし、帰国後にユーザベースに入社。2018年、Corporate統括執行役員に就任。
松井 会計士という資格はひとつのツールであって、会計士である前にひとりのビジネスパーソンです。これからはすべてのビジネスパーソンが、自分の付加価値で勝負する時代。ビジネス全般の知識を持ち、会社全体の動きを理解できる会計士としての強みをさらに活かせるキャリア形成が大切ですね。
 私自身は現在、財務部門から離れてコーポレート部門全体を統括しています。会社全体の課題発見をするのに、会計士としての知識や経験が確実に役立っています。ユーザベースには米国公認会計士を含めると10人以上の会計士がいます。コーポレート部門だけでなく、事業サイドでも活躍しています。どんな立場であろうと、ビジネスを動かす数字の意味が理解できるのが、会計士としての強みだと思います。それはビジネスの未来をつくるときに、大きな強みになりますね。
大手監査法人でIPO、事業再生、M&A、金融機関向け研修サービスなど事業面・財務面に関するさまざまなサービスを提供。2014年に独立後、フィル・カンパニーの上場準備に従事。上場後の2016年12月から“無限の可能性”を求めて社長室長としてジョイン。
小豆澤 今後AI時代を迎えるからといって、会計士が不要になるということはありません。AI化で定性情報の整理やリスク管理、判断という、会計士として本来最も重要な仕事に自分のリソースを集中できるようになるというメリットのほうが大きいと思います。
 漠然とAI化への不安を感じるよりも、会計士としてのキャリアを磨くチャンスです。そしてそのチャンスを活かせるような働く環境をぜひ見つけてほしいと思います。

自らをハイブリッド化する環境で働く

 イベント当日は、フィル・カンパニー社長の能美裕一氏からも、会計士のキャリアについて次のようなコメントが寄せられた。
1998年自動車流通ベンチャーに入社。インターネット黎明期に新規事業部門の中心メンバーとして同社の東証2部上場に貢献。その後、インターネットビジネスでの独立起業など一貫してベンチャー・新規事業に携わる。2008年から株式会社フィル・カンパニーに参画し、2 0 0 9 年取締役、2015年から現職。2016年東証マザーズに上場を果たした。
能美 会計士のみなさんは非常に優秀でありながら、次の一歩が踏み出せないという感覚が強く、そこがもったいないなと日頃から感じています。今回のイベントは、そんな迷いを持つ会計士のみなさんにとって、チャレンジへの背中を押す機会になればと考えています。
 弊社の小豆澤についていえば、ジョインした当初は、やはり無意識にディフェンダー的な役割を果たそうとしていました。しかし、彼はもともとフォワード的な人間。フィル・カンパニーのようなベンチャーで勝負するには最適の人材です。
 小豆澤のように会計士としての俯瞰力や数字を見る力を活かしつつ、フロントの最前線に立てる人には、活躍の場が大きく広がっています。会計士としての強みを自由に発揮して、ぜひビジネスにチャレンジしてください。フィル・カンパニーはそのような方に、ぜひ仲間になってほしいと思っています。
(編集:久川桃子 撮影:稲垣純也 デザイン:國弘朋佳)