人と組織のつながり方を再定義する「B with C to C」の新事業

2018/12/26
2025年までに500万人強の労働力不足が生じるとの予測を前に、既存のHRビジネスだけでは解決できない領域が数多く顕在化してきたことは明らかだ。「働き方」や「組織と個人が出会うプロセス」にまつわる本質的課題に向き合い、解決を志すSpreadyの代表取締役・佐古雅亮氏と、自らを「コネクタ」として人と機会をつないできた日比谷尚武氏、GMO VPの取締役パートナー・宮坂友大氏の3人が語った。
 2018年5月に設立されたSpreadyは、組織の枠組みを超えて多様なつながりを持つ個人に「スプレッダー(拡散者)」として協力してもらうことを通じて、人と組織の“縁”をつなぐというサービスを開発している。
 佐古氏がSpreadyを通じて達成したい世界観、そして「スプレッダー」という存在の可能性に迫る。

人と組織が “強みと課題”を相互に補完

──まず、Spreadyのビジネスモデルについて教えてください。
佐古 既存のHRビジネスは、本質的に「求職者」である個人と、採用をしたい企業が、「採用条件」の合致を前提にマッチングされるプロセスを回す仕組みです。
 それに対して、僕たちはこれまで主流ではなかった「雇用を前提としない人探し」をテーマに、「スプレッダー」という顔の見える仲介者を通じて、個人と組織がマッチングされるというモデルを構築しています。
具体的なサービスの流れは以下の通りです。
① 依頼者(組織・法人)は、探したい「人」をSpreadyにオーダーする
② Spreadyは、オーダーを「スプレッダー」に展開する
③ スプレッダーは、適する知人・友人にオーダーを紹介する
④ 紹介を受けた知人・友人がオーダーの内容に興味があれば依頼者と面談する
※Spready社が2018年7月から進めている、仮説検証フェーズでのビジネスモデル図。
 このサービスの特徴は2つあり、1つは法人・組織が、スプレッダーという仲介者を通じて、自社の客観的な魅力をこれまで接触できなかった人に伝えることができ、新しい“縁”につなげることができるということ。
 そして、もう1つの特徴は、「雇用を前提としない」ことにあります。
 一般的な人材紹介ビジネスでは「採用」を成果としていますが、僕たちは、「この領域に詳しい方に助言やアドバイスが欲しい」といった、例えるなら“採用に至る2、3歩手前のレベル”で人と組織をつなぐことを目指しています。
 もちろん、紹介を受けた個人にとっても、その依頼者との出会いに何らかの期待がなければ面談をすることはありません。人と組織が、強みと課題を“相互に補完する形でつながる縁”をつくる、というイメージですね。
なるほど。スプレッダーは現在100人程度いらっしゃるとのことですが、どのような人が選ばれているのでしょうか。
佐古 今は、僕たちの世界観に共感していただける方にお願いしており、一人ひとり、コンセプトやサービスについて直接ご説明しています。
 Spreadyとスプレッダーの間での雇用関係はありませんが、僕たちにとっては大切な仲間だという位置付けでコミュニケーションを進めています。
 僕たちの目指すこの世界観を、個人で以前から実践されていたのが、現在スプレッダーのひとりとしてもご協力をいただいている日比谷さんだと思っています。
──日比谷さんはSansanの創業期からのメンバーであり、現在は「コネクタ」として人と人をつなぐ活動をされています。
日比谷 私は“社内外の人と人をつなぐこと”を自分のミッションとして動いており、こうした活動を「コネクタ」という肩書をつけて続けています。
 たとえば、社内で「こういう人が必要になりそうだ」ということを先取りして、そこに向けて人をつなげるような動きですね。
 最初は社内で自発的にやっていたんですが、次第に社外からも相談が来るようになり、自然と活動範囲が広がっていきました。
 ちなみに、人をつなげるときに自分なりに原則としていることがあって、それは「強みと課題を交換する」ということなんです。
 結局、誰しも強みと課題を両方持っているわけで、スプレッダーとしても、そこをうまく交換するお手伝いをしたいと思っています。
──まさに「人脈が広い人」のバリューですね。
佐古 最近は日比谷さんのように、会社という枠組みを超えていろいろな人と交流したい人や、つながることで価値を発揮される人は多くなっている気がします。
 たとえば会社に所属しながら朝の読書会を主宰していたり、NPO活動をしていたりする人がいますよね。それを僕は「ソーシャル・キャピタルを高めてきた人」と表現しているんです。
 個々人が持つ、ソーシャル・キャピタルは、その方にとって本当に大きな資産です。でも、今はその価値を十分に可視化する手段すらない。
 個々人が持つソーシャル・キャピタルを可視化する仕組みを作り、さらにそれをリワード(報酬)に交換する仕組みを作れば、もっと広くソーシャル・キャピタルが浸透していくのではないかという仮説を描き、それがSpreadyのサービスにつながっています。

人材マーケットに「新たな選択肢」を

──佐古さんは、なぜこうしたサービスを作ろうと思ったのでしょう。
佐古 僕は2008年にインテリジェンス(現:パーソルキャリア)に新卒入社して以来、10年以上既存のHR関連サービスを掘り続けてきたのですが、このマーケットの仕組みに対する本質的な違和感が年々に強くなってきたんです。
 たとえば新卒採用ではクリエイティブな採用プロセスを設計するのに、そのような会社でも中途採用は面接しか行わない。しかも、それは書類選考と1〜3回の面接のみで終わってしまう短いプロセスです。
 どんなプロフェッショナルでも、こんな短期間でその方の全てを知ることは難しいですよね。
 個人の立場から見ても、転職活動を通じて初めて出会う会社ばかり、各社1〜3回の面接で合否の連絡があり、どうするかの意思決定を求められる。しかも1回の転職活動で見ることができる会社の数は10社前後だと思うんです。
 双方ともに、この圧倒的に情報が足りない状態で大きな決断を求められているわけですから、ミスマッチが発生することは構造的に避けられないですよね。結局、全てが3カ月以内にコンバージョンすることを前提に設計されている構造です。
 この業界構造の影響で、転職する人も、採用する会社も、さらには間に入っているサービスも、すべてが痛みを感じている。
 業界に入って10年以上が経過し、今後自分の命を使うのであれば、この構造的な負を解決して、仕組みそのものを新しく創造することに挑戦したい。これが創業に至った経緯です。
──なぜ、そのような問題が起きていると思いますか。
佐古 労働人口の流動性の低さに原因があると考えていますが、さらに深掘りすると雇用を取り巻く日本のカルチャーに根本があると思います。
 これだけHR産業が活発で、政府も転職や副業、働き方の改革を推奨しているにもかかわらず、転職や副業が「いけないこと」という価値観や、会社に雇われているのなら全精力を会社に注ぐべきという考えは、いまだに根強く残っていますよね。
 働く個人としても、会社に対する裏切り行為をしているような気分になって、なんだか後ろめたい。
 働く個人が自分のオポチュニティを探す活動、自分の可能性と出会う機会を作ることは、日本では「非日常でやるべきだ」という前提なんですよね。これはつまり、自分の可能性を知る手段が「転職活動しかない」ということです。
 なので、採用側も3カ月間のコンバージョンを目指すし、採用プロセスは面接しか設計できない。これが本質的課題だと思っています。
──労働市場全体を見れば、既に転職活動をしている“転職顕在層”は氷山の一角です。Spreadyは“潜在層”も取り込んでいくつもりでしょうか。
佐古 そうですね、結果としてはそうなると思います。就労人口が2025年までに500万人強も減るという社会環境の変化のなかで、企業の採用のあり方や、個人とのつながり方は変わっていく必要がありますよね。
 今日本にとって必要なのは、単に転職者を増やすということではなく、雇用や知見の流動性を高めることに直接アプローチすること。僕たちがやろうとしているのは、そのための仕組みづくりです。
日本の就労人口全体に対して、転職者数(顕在層)はわずが5%前後という統計がある。
 人と組織が転職や雇用をきっかけとしなくてもつながり合っている世界では、お互いが自由なタイミングで合意プロセスを作ることができます。
 結果、企業はこれまで採用活動に使っていたコストをかなり下げることができますから、その余剰分で「社員が自由意思として所属することを選ぶ」良い会社・組織づくりに投資してもらえたらうれしいです。
日比谷 採用の手前の段階でマッチングをするだけでも、十分に可能性は広がりますよね。
 僕も、「こういう人材が欲しい」という相談を受けることはありますが、年収などの諸条件を把握しているわけではないので難しい。でも採用の手前の段階なら、ライトな感覚でつなぐことができそうです。
──GMO VPはSpreadyに投資されていますが、宮坂さんはどのような可能性を感じたのでしょうか。
宮坂 実は佐古さんとは3年前くらいから面識があって、前職を辞めた直後にお話をしていました。そのときすでに、「この人だったら投資をしてもいいかも」という感覚があったんです。
 当時はまだSpreadyのプロダクトも事業計画もまったく固まっていませんでしたが、佐古さんが考えている課題意識は理解できました。
 各社とも採用や外部リソースの活用は本気で取り組んではいますが、そもそも市場に出ている顕在層だけ取り合っていても限界があるよねと。それに、その限られた中でさえ企業や人に関する情報量も質も十分とは言えず、スタート後のミスマッチも多い。
 個人側も長期雇用を前提とせず、関わる会社や人を選ぶときに、事業の存在意義や中身への共感、どういう楽しみや成長機会があるかに変わってきています。もしかしたらいろいろな転換点にあるのかなと思います。
 ここを変えるのは、日本の労働市場のカルチャーと、人材業界を深く理解したうえで、危機感をもって本気で向き合える人にしかできない。そういった意味で、佐古さんが適任と考えています。
 いろいろなご縁もあり、佐古さんと事業を創るところから一緒に取り組みました。その取り組みがプロダクトとしてかたちになり始めたタイミングでUB Venturesさん、SMBCベンチャーキャピタルさんに投資家として参加していだだき、今後、さらに事業を伸ばしていけるのが楽しみです。
 起業当初の事業を創るところからご一緒させていただく機会は、今後も増やしていきたいです。

拡散者のインセンティブは「体験」

──日比谷さんは、どういった目的があってコネクタやスプレッダーとして動かれているのでしょうか。
日比谷 僕の場合、人と人をつないで新しいものが生まれると、「自分も一翼担った」という自負が生じるんですよね。
 すると、そこから発生したものに対して当事者意識を持てますし、その後そのサービスなり企業が成長していくのを見守ると、世の中に貢献できた感も満たされます。これが醍醐味ですね。
 佐古さんのように、既存の仕組みを変革しようという気持ちで動いているというよりは、「どんな価値が世の中に生まれるんだろう? せっかくなら身近に感じたい!」という想いが近いかもしれません。
佐古 現状は、スプレッダーへのリワードは金銭にしていますが、日比谷さんのように、「お金はいらない」という人も多くて。今後はスプレッダーに金銭以外のリワードをお返しできるような仕組みを実装する予定です。
日比谷 何か新しいサービスを先に使えるとか、公開されていないサービスの仕組みを知ることができるとか、普段会えない人に会えるとか。そういうお金では得られないリワードがあればいいですよね。
佐古 そうですね。一番のリワードは、その人のソーシャル・キャピタルをさらに高める機会を提供することだと思います。“体験報酬”という表現がしっくりきますね。

共感の輪を広げ、生態系をつくっていく

──最後に、今後のSpreadyの展開についてお聞かせください。
佐古 今年の12月末をめどにプロダクトのβ版を出す予定で、本格的なローンチは来年の5月か6月になると思います。既にアナログでの仮説検証はずっとやってきたので、あとはプロダクトに置き換える作業ですね。
 さらに提供する必要があると思っているのが、依頼者である組織とスプレッダーが接点を持てるような仕組みづくりです。
 スプレッダーはそれぞれに幅広いつながりを持っていますが、依頼者とのつながりが必ずあるわけではないので。
日比谷 やっぱり、相手のことを知っていたほうが応援したくなるのは確かですよね。もし直接知らない人でも、共通の知り合いとつながっていれば、親近感が湧いて応援するエネルギーになるということもある。
 最近は企業が人を採れないことが問題になっていますが、自分たちを応援してくれる「ファン」を増やすことで、解決しやすくなると思っています。
 企業を応援し、課題に対して適切な仲介をしてくれるスプレッダーは、いわば会社の無形資産のようなもの。そのストックが多い企業ほど、コスト的にも質的にも、いい人材と出会う機会を広げられるはずです。
佐古 今のところ、Spreadyのコンセプトを100人に話したら、そのうち10人くらいが共感してくれるという感覚です。でも、最初はそれでいいと思っていて、まずは共感してくれる方々と一緒に、一つの生態系をつくっていくようなイメージで広げていきたいですね。
(取材・編集:呉琢磨 構成:小林義崇 撮影:岡村大輔 デザイン:國弘朋佳)
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