世界中でイノベーションへの取り組みが活発だ。大企業もベンチャーも、新しい価値の創造に勤しんでいる。今やビジネスに国境はなく、世界のあちこちで国をまたいだ協業も生まれている。一方、日本の企業は依然として「内向き」の傾向が強く、世界の動きに遅れを取っている。このままの状況が続けば、日本はどうなるのか。国内の企業は何をすべきか。世界でイノベーション支援に携わるデロイト トーマツ ベンチャーサポートの斎藤祐馬氏が提言する。
斎藤 祐馬 デロイト トーマツ ベンチャーサポート 事業統括本部長 公認会計士
1983年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2006年に監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)入社。会計監査やIPO支援業務に携わる傍ら、ベンチャー支援を開始。2010年より社内ベンチャーとしてトーマツ ベンチャーサポートの再立ち上げを行った中心的人物。著書に『一生を賭ける仕事の見つけ方』(ダイヤモンド社)など。

日本を再び世界のトップクラスに。

現在、日本の国力が低下しています。世界でのプレゼンスははっきりと落ちており、5年後はもうどうなっているかわからない。大きな要因は、高度経済成長期以降に世界的な企業がうまれなかったかったからでしょう。
こうした状況を打破するには、大企業にせよベンチャーにせよ、世界に打って出て、新しいビジネスを生み出し、イノベーションを起こすしかありません。
かつてイノベーションやベンチャーと言えばシリコンバレーが圧倒的に強く、一極集中と言える状況でした。アジアやヨーロッパなど世界中のイノベーターたちは、こぞってシリコンバレーを目指したのです。
しかし、近年の資金調達の状況やユニコーンの数を見ると、イノベーションの拠点はインドやシンガポール、イスラエルなど全世界に散らばっています。その背景には、国力の向上をイノベーションやベンチャーに求めていることが挙げられ、各国でベンチャー支援が過熱しています。いわば国家間で「イノベーション政策競争」という様相を呈しているのです。
ただ、一つの地域でイノベーションに必要な要素がすべてそろうかというと、そうではありません。先ほど挙げたインドの場合、人口が多いためマーケットに強みがありIT人材も豊富ですが、ものづくりはそれほど強くなく、リスクマネーも十分とは言えません。
そのため、企業はまずはシリコンバレーで資金を調達し、次にインドで人材を採用して、最終的には中国・深圳でものづくりをする、などの動きが活発です。
世界で戦っていくには、地域ごとのエコシステムを最大限に利用する必要があり、そうした動きが今のイノベーションの最前線と言えるのです。

世界の動きから圧倒的に遅れた日本。

一方、日本はどうか。20年ほど前、日本の企業はフォーチュン500の中に150社ほど入っていました。しかし今は約50社にまで減っています。このままだと今後もさらに減り続ける可能性が高い。
世界に遅れを取っている要因の一つが、日本企業の内向き傾向です。グローバル展開をしている企業は少なくありませんが、根本的な会社の様式や意思決定の仕方が「日本的」なのです。新事業の議論をする時も多くの場合がまずは日本で、となり、グローバルスケールのビジネスプランがなかなか出てきません。
ベンチャーのビジネス環境については、この10年で劇的に良くなりました。資金は集めやすくなり、政府も支援に乗り出し、メディアも取り上げることが多くなっています。大企業も協業に興味を抱いています。
ただ、世界で大勝ちするようなベンチャーはほとんど生まれていません。世界から見ても日本はIPOをしやすい国ですが、上場後に伸び悩むケースが多いのです。
上場だけを目指すなら日本のマーケットだけを見ていれば十分かもしれません。しかし、それでは資金調達をしようとしても、集められるのはせいぜい100億円程度でしょう。世界には1000億円を調達するベンチャーも多く、日本のベンチャーは到底、太刀打ちできないのです。
それでも世界を回って感じるのは、いわゆる「日本ブランド」が残っていること。ヨーロッパには、日本の大手自動車メーカーと組みたいと夢のように語る企業があるのです。ものづくりの力は健在ですし、GDPも中国に抜かれましたが、依然として3位を保っています。
まだ力が残っている今の段階で、もう一度、成長の軌道に乗せる必要があります。世界に出ていかねばなりません。
注目したいのは、“技術”のイスラエルと“マーケット”のインドです。この二国はフラットな関係を築きやすい特徴があり、日本との相性はとてもいいと考えられるので、積極的に手を取り合うのがいいのではないでしょうか。
また、2018年は「協業元年」と言える状況にありました。「大御所企業」が本腰を入れ、この動きにつられるようにオープンイノベーションに乗り出す企業が続出しました。これまで大企業の動きは遅いと言われてきましたが、今ではベンチャーがついていけなくなるほどのスピードを見せることも少なくありません。そのため、ジョイントベンチャーを作って一気に事業を動かす流れが起きているのです。

世界中のベンチャーとアジアの大企業を結ぶ

こうした協業やイノベーションのエコシステムを、デロイト トーマツ ベンチャーサポート(以下:DTVS)は支えてきました。
モーニングピッチなどを通じ、日本中のベンチャーと大企業、政府を支援した結果、オープンイノベーションでも多くの実績を残し、国内の成功例の多くにDTVSが絡んでいると言っても過言ではありません。
今度はこれをアジアで広めたいと考えています。私たちは「世界一のイノベーションファーム」という目標を掲げ、まずは世界中のベンチャーとアジア中の大企業を結ぶプラットフォームを作ろうとしています。
アジアでエコシステムを作ろうとすると、各国政府の協業などが重要になりますが、デロイトは各国の政府と良好な関係を築いているので、イノベーション政策を私たちで企画して実行し、ビジネスをプロデュースしながら結果を出せると考えています。
DTVSのビジネスプロデュースは「完全並走」です。ビジネスモデルを考え組む相手を探し、事業スキームを作りや資金集め、法律関連のことまであらゆる支援を行い、場合によっては、ジョイントベンチャーの立ち上げをサポートします。
たとえば、節水ベンチャーがあったとします。普通に考えれば、レストランなどに提案してプロダクトを全店に導入してもらう、といった支援になるでしょう。しかし、私たちの場合は、まずこの大企業と組んで、次にここに出資してもらって、最終的に何百億円のビジネスに育てるという考えで支援していきます。
私たちは、社会課題と向き合い、本気で解決していこうとする人たちを起業家や挑戦する人と呼んでいます。そんな人たちをいかに応援して勝たせられるか。これが発想の起点です。
ただ、今はまだ、ベンチャーもそれほど社会課題と向き合っているわけではありません。しかし、少しずつ本気で取り組む企業が生まれています。たとえば、ゴミを資源に車を動かしたり洋服を使ったりして、循環型世界の実現に挑戦するベンチャーがいます。
こうした企業がアジアでより多く生まれ、そのイノベーションが世界を牽引していく。それがアジアワイドのイノベーションエコシステムのイメージです。

エポックメイキングな事例を共に創りたい。

これから日本をもう一度、成長軌道に乗せ、また、DTVSがアジアNo.1、世界一へと発展していくに当たり、正直、まだまだ人材が足りません。
DTVSでは、ビジョンとパッションを持った人たちをいかに勝たせ世界を変えていくか、という点に重きを置いていますので、この思いに共感できる方なら、きっと活躍できますし、大きな仕事の手応えを味わえるはずです。
一緒にグローバルを舞台にビジネスプロデュースを手がけ、エポックメイキングな事例をたくさん作っていきませんか。
基礎スキルとしてコンサルティング、またはビジネスプロデュース、グローバル、いずれかの経験を持っていれば、最前線で活躍していけます。DTVSでビジネスプロデュースを学んで、かつグローバルで手がけられるようになれば、ものすごく市場価値を高めていけるのではないでしょうか。「グローバル×ビジネスプロデュース」をできる日本人はまだまだ限られています。
今は日本をもう一度良くする最後の機会と言える時期と考えています。このタイミングでイノベーションのプロジェクト関わることは、日本を良くしていくためのエンジンになるということだと思います。
(取材・文:中谷藤士、写真:稲田礼子)