3人の次世代起業家は「世界を変える」ゲームチェンジに挑む

2019/1/17
既存の市場競争のルールを覆す「ゲームチェンジャー」となるべく、日々挑戦を続ける次世代の起業家たち。彼らはどんな大きなゲームチェンジを成し遂げようとしているのか。そして、その先に描く未来図は。頭角を現すNextゲームチェンジャー3名に野望を聞いた。
1988年生まれ。東京大学教養学部卒。株式会社DeNAに新卒入社。オンラインゲームのプロデューサーを経て、駐車場シェアリングサービスや自動運転移動サービスの立ち上げに従事。2016年4月ベースフード株式会社創業。「主食をイノベーションして健康を当たり前にする」をビジョンとし、世界初の完全栄養の主食"BASE PASTA"を開発。現在、社員12名で国内での普及や海外展開の準備を進めている
 主食にイノベーションを起こす──。ベースフード代表取締役・橋本舜は、IT企業を経て、「健康寿命を延ばす事業がしたい」と2016年4月に起業。100回以上の試作を繰り返し完成させた「BASE PASTA」は、味気ない栄養食のイメージを覆し、発売直後にはAmazon食品人気度ランキングで1位を獲るほど話題を集めた。
 食という人間の生活に不可欠な営みを通じて、橋本が目指すゲームチェンジとは。
栄養面で狩猟採集の時代に戻る
──「BASE PASTA」を一言で説明するとしたら?
橋本 健康の3大要素は運動と栄養と休養です。このなかで、現代人にとってもっとも難しくなっているのが「栄養」。BASE PASTAは、この栄養を“簡単にすること”を目的とした栄養バランスのいい主食です。
 具体的には、日本人が必要とする全基礎栄養素の1日の3分の1の量を摂取できる雑穀パスタで、厚生労働省が策定する食事摂取基準に基づき、摂りすぎが懸念される炭水化物やナトリウムを除いた29栄養素を含んでいます。
 健康食品の中には根拠となる論文が不十分なものや動物実験のみで人体への影響を検証していないもの、統計を都合よく解釈して販売しているものさえあります。検証のなされていないものを試すより、まずは国の基準にのっとり、基礎栄養素をバランスよく摂るほうが、合理的で確実。それがコンセプトです。
──なるほど。なぜ「パスタ」の形状にしたのでしょうか。手軽に栄養を摂取するのであれば、液体やゼリーの形状に優位性がある気もします。
 パスタは米やパンと同じ「主食」です。主食は毎日摂取するため、普段の食生活に取り入れやすい。「おいしい」「飽きない」「何にでも合う」メリットもあり、主食は多くの人に続けて食べていただける“最大公約数”の食品なのです。
 僕たちのミッションは「栄養摂取を簡単にし、健康を当たり前にする」こと。そのためには、毎日違和感なく口にできなければなりません。
──たしかに食事には、栄養摂取だけではない楽しみがあります。
 食事の形状、形態は伝統ある食生活にのっとった上で、主食自体の栄養バランスを変革することが重要です。
 人類が狩猟採集民だった頃は、肉や魚、木の実などから栄養を摂取していました。現代に生きる私たちより、実は栄養バランスがよかったと考えられています。僕たちは、現代に適合したかたちで、食の栄養を人類が狩猟採集民だった時代に戻そうとしているのです。
主食から「人類の健康を底上げする」
──ベースフードによって目指すゲームチェンジとは。
 主食に技術革新を起こし、健康が当たり前の社会をつくります。そして、手軽においしいものを食べたい欲求も満足させる。そのためには栄養素といったサイエンスだけでは不十分です。食の楽しさがなければならないし、カルチャーとして広がっていかないと考えています。
 ベースフードの「ベース」には、「主食を健康の基盤に」「健康は人生を楽しみつくすための基盤」の意味を込めています。
 人類の健康を底上げするための食のハッピーなあり方を発信し、そこに対するソリューションを僕たちが提供していきます。
 今、食に関する話題は個人の方法論に走りすぎていて、「あれだけ食べていればいい」「これは食べちゃダメ」と極端。本来は、意識することなく健康でいられる社会の方がいいはず。
 BASE PASTAが食のイノベーションのシンボルとして浸透すれば、新たな食品や調理法、レシピが生まれていくでしょう。主食の技術革新として、パンや米食のイノベーションにも取り組みます。
──そのために今、乗り越えるべき壁は?
 いろいろありますが、ひとつはバリューチェーンの再構築が必要です。健康的な食事は定期的に食べるからこそ意味があるため、BASE PASTAはD2C(Direct to Consumer)のかたちで、自社で開発した製品を自社で販売し、定期的にユーザーの自宅に届けるサブスクリプションモデルを取っています。
 主食にイノベーションを起こすためには月間100万食以上を製造できるインフラづくりも不可欠。そのために最適なバリューチェーンを再構築することが、我々の最大のチャレンジです。
──食事は全人類にとって不可欠な行為。グローバル展開も考えられそうですね。
 今、サンフランシスコに社員を2名置いて、2019年早めの販売開始を見据え準備を進めています。食は日本が強みを発揮できる領域です。しかし、日本のベンチャーで食をテーマにグローバル展開するところはありません。
 海外展開には言語の壁が立ちはだかりますが、実体のあるモノは強い。言葉がわからなくても、食べればおいしいかどうか、体に良さそうかどうかが伝わるので、グローバルでも受け入れられると確信しています。
 日本人は食品の味や安全性に敏感です。それだけに、まず日本の消費者を満足させられれば海外展開もうまくいくはず。将来、ベースフードのR&D拠点は日本、売上の大半は海外という時代がくると思います。
1988年千葉県生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、株式会社博報堂に新卒入社。大手通信会社の営業職を経て、100を超えるクライアントのデジタルマーケティング戦略策定に従事。2017年5月に退職し、株式会社Spartyを創業 。夢はVirgin Groupのような強いブランドをもった複合企業体をつくること
 7つの質問に答えるだけで、自分の髪にぴったりのシャンプー&トリートメントが届く──。日本初のパーソナライズヘアケア商品「MEDULLA(メデュラ)」を開発した2017年7月創業のスタートアップ、Sparty。
 広告代理店を経て起業した代表・深山陽介が、パーソナライズを基盤に描く新しい世界とは。
「自分ブランド」が当たり前の世界に
──公式サイトで自分の髪質、なりたい髪、香りの好みなど7つの質問に答えるだけで、自分に合わせてカスタマイズされたシャンプーが届くサービス「MEDULLA」。“あなただけの”というコンセプトが興味深いですね。
深山 僕たちが目指しているのは、あらゆる人が自分の個性を価値化できる世界、自分の個性を価値として流通させられる世界をつくることです。
 より具体的に言うと、誰もが「自分ブランド」をつくって、自ら販売までできるプラットフォーム、“自分のためのモノ”が当たり前になっていく社会を生み出したいんです。
 Spartyのビジョンは「色気のある時代をつくろう」です。「色気」は、人と人、人とモノが引き付け合う力と定義しています。
 今はシャンプーだけでも膨大な数があって、どれもそこそこ品質はいい。でも、「これを手に入れたい!」と思う魅力には乏しいと思っています。
 そこに色気を足し、購買意欲をかき立てる。将来、パーソナライズを基軸にシャンプーだけでなく、あらゆる消費財で自分ブランドをつくって販売できるプラットフォームを展開したいと思っています。
体験を通じてブランドを育てる
──最初にシャンプーを選んだ理由は。
 理由は2つあります。まずはシャンプー選びに悩む多くの人を救いたいから。身近なところでは僕の妻も“シャンプー難民”で、自分に合う商品がないと買い替えを繰り返し、バスルームは使いかけのボトルだらけでした。
 前職の博報堂時代に美容メーカーを担当していたこともあり、市場やトレンドに関する知識が活かせると考えたんです。
 もう1つの理由は、カタチある商品を扱う商売をしたかったから。モノを製造して販売することは商売の基本で、最もおもしろい商売の形態だと思っています。
 ただ、Spartyが提供するのは商品だけではありません。パーソナライズされた商品とお客様、商品と美容師をITでつなぎ、お客様の美を日々アップデートするサポートをしていきます。
 商品の製造販売に終始するのではなく、デジタルを通すことで一気通貫に体験までつくり、体験を軸にMEDULLAというブランドを醸成していく。そのため、購入するときに、いかに楽しい体験をしてもらうかを重視しています。
──今、乗り越えなければならない課題はありますか。
 製造工程のイノベーションですね。多品種・小ロットで製造しても安価で高品質に提供できるシステムを構築します。
 従来のサプライチェーンマネジメントの発想では、均一の商品をいかに効率良くつくれるかが大事でした。僕たちは多品種・小ロットで効率良くつくる必要があるので、根本から見直します。
 現在はOEMで製造を行っていますが、委託先と共同で製造フローから開発を進めています。
──ユーザーから見える部分は洗練されていますが、裏側は地道な取り組みの積み重ねですね。
 ええ。でも、それがおもしろいんです。モノが絡む領域はベンチャー企業で手をつける人たちが少ないから、戦う余地が残っている。今後、競合や類似品が出てくると思いますが、僕たちの思想は絶対にコピーされないし、真似できるものではないという自信があります。
 ヴァージン・グループ創設者のリチャード・ブランソンの言葉にこんなものがあります。「勇敢な人は長生きできないかもしれないが、小心者は最初から生きていない」。人間誰しもいつかは死ぬ。それまでに僕もやりたいことに、めいっぱい挑戦したいんですよ。
大阪大学工学部卒。1991年、(株)電通入社。1999年、テレビ放送のデジタル化を契機に電子番組表に着目し、電通と米国ジェムスター社の合弁で(株)インタラクティブ・プログラム・ガイド(IPG)を共同設立。代表取締役社長として「Gガイド」の普及・市場化を実現。2017年、(株)DRONE IP LABを共同創業し、取締役副社長に就任。資本業務提携を機に(株)エアロネクストに代表取締役CEOとして参画
 独自の重心制御技術「4D Gravity®」を搭載した次世代ドローンが注目を集める株式会社エアロネクスト。2017年4月の設立以来、国内外のピッチで次々と優勝、入賞を勝ち取る注目の企業だ。 
 ドローンの発明から約30年、まったく変化のなかった機体フレームを進化させ、地上から150mまでの空域に革命を起こそうとしている。
「落ちてこない」信頼性がドローン普及には不可欠
──田路さんがエアロネクストに合流し、社長となられたのが2017年11月。1年でエアロネクストの存在感は格段に上がりました。
田路 ドローンが飛ぶのが当たり前の世の中になるというビッグピクチャー実現のために、何が必要か? それは「時代に選ばれること」だと僕は考えてきました。
 この4カ月で7つのピッチに出場し、うち5つで優勝(2018年9月のICC「リアルテック・カタパルト」優勝、10月のB Dash Camp「Pitch Arena」優勝に続き、12月のIVS「LaunchPad」でも優勝し、国内主要ベンチャーピッチで3連覇を達成)。
 10月にはCEATEC AWARD 2018で経済産業大臣賞も受賞しています。これはベンチャー企業として初です。11月には日本企業として初出場した深圳国際ピッチ大会で3位入賞と知的財産賞をダブルで受賞しました。
──エアロネクストのドローンの一番の特徴は。
 独自の重心制御技術「4D Gravity®」を搭載していることです。これによりプロペラのついている飛行部と、カメラや荷物を載せる搭載部を分離し、搭載部を常に垂直に、カメラや荷物を常に水平に保つことに成功しました。
 4D Gravity®搭載の360°VR撮影用ドローン「Next VR™」の飛行動画を見てもらうとわかりますが、従来のドローンと比べると安定性はケタ違いです。
──重心制御はドローンにとってそれほど大切な技術だと。
 ドローンは飛行中に傾くのが特徴で、その際、重心が移動して不安定になりますが、重心制御技術によって飛行姿勢を安定させることができます。人々の頭上を飛ばすためには、「落ちてこない」という信頼が不可欠です。
 現在に至るドローンの原型が1989年に発明されて以来、機体フレームには、まったく変化がありませんでした。そのうち、ドローンの事故をニュースで見聞きすることも出てきました。機体の構造を根本的に変えなければ、ドローン産業が劇的に発展することはありえない、というのが僕の主張です。
 4D Gravity®は、ドローン産業がこれから発展し、市場を拡大する上でのキーテクノロジーに必ずなる。飛行機は航空力学と機体が進歩し、車より事故を起こす確率が少なくなったから普及した。ドローンもそうならなければなりません。
ドローンで移動の概念を変える
──エアロネクストの目指すゲームチェンジとは。
 「ドローン前提社会」を生み出し、移動の概念を変えることですね。それは地上から150mまでの空域が経済化することと言い換えてもいい。
 今、ドローンの用途は大きく分けて3つあります。1つがフライングスマートフォン。いわゆる撮影用途です。BtoC向けの撮影用ドローンを得意としている業界最大手のDJIは、この分野のチャンピオンです。
 残り2つがフライングロボットとエアモビリティ。前者は、人間のかわりにロボットが働く産業系の用途。後者は、人や物を運ぶための空飛ぶ移動手段です。僕たちはこのマーケットでチャンピオンになります。
──そのために欠かせないのが、重心制御技術だったと。
 そのとおりです。フライングスマートフォンであれば天気のいい日に飛ばせばいいし、強風が吹いたら降ろせばいい。しかし、産業用や移動手段として使うなら、どんな環境でも離着陸させなければならない。これまでの機体では、それは無理だったのです。
──ゲームチェンジのための今後の戦略は?
 3つあります。1つは4D Gravity®のブランド確立です。「4D Gravity®搭載の機体がほしい。そうでないと怖い。信頼できない」。そう人々に思わせるブランドになり、マーケットを拡大していきます。
 ただ、僕たちはあくまでも技術会社。4D Gravity®を機体を安定させるオプションとして、できるだけ多くのメーカーに採用していただけるよう、さらに技術を磨いていきます。
 2つめはバッテリーの問題です。ドローンのエネルギーは電気なので、バッテリー充電のためのポートが欠かせません。これは社会インフラの整備になりますから、大手とのアライアンスが必要になります。
 3つめは、いかに競合に「戦意喪失」させるか。そのためコア特許に対して、競合に迂回されそうなポイントを複数の周辺特許で埋めていきます。数百件の特許明細書を読んで一つずつ潰していくのは大変な労力です。これならライセンスを受けたほうが早くて楽だし、安価ですむと思わせる。市場を広げるためには技術だけでなく、知財戦略やライセンスビジネスの視点も欠かせません。
──「ドローン前提社会」をつくり出す勝算はありますか。
 必ず来るという確信がありますか? と言われたら、まったくないです(笑)。でも、だからチャンスなんですよね。みんなが張ってない領域に気づけるかどうかがビジネスセンスですから。
 今も「ドローンに需要なんかあるの?」と言われることがありますが、僕はそう聞けば聞くほどチャンスだと思います。みんなが固執した思考を持っているほど、ゲームチェンジはしやすい。訪れる社会では、きっと所有や消費、時間や空間の概念までも変わっていく。
 実現までは10年、20年かかるかもしれませんが、鳥のようにドローンが飛んでいる社会が訪れ、そのすべてに僕たちの4D Gravity®技術が採用されている。そんなゲームチェンジを目指していきますよ。
(取材・編集:呉琢磨、樫本倫子 構成:横山瑠美 写真:岡村大輔 デザイン:砂田優花)