【RPA業界レポ】ロボットと協働するための業務フローを再設計せよ

2019/1/17
2018年11月22日に開催された「RPA DIGITAL WORLD 2018〜Digital Robot CAMP in お台場〜」(主催:RPA総合プラットフォーム「RPA BANK」)。人口減少による人手不足の解消や働き方改革を実現するためのツールとして期待されているRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を取り上げる、国内最大規模のイベントだ。
会場では、その場で体験できるハンズオン形式のRPAツール体験ブースや、さまざまなパネリストによる講演などが行われた。そのなかの二つの基調講演から、RPA導入企業、開発企業双方の視点でRPAの現状と未来をひもとく。

事業の急成長に伴う「属人化」という課題

 一つめのセッションでは、RPAホールディングス、マネーフォワード、ニューズピックスの3社が登壇し、RPA導入のケーススタディを紹介した。
 この3社が抱える課題は、業務拡大や従業員増加に伴うスタッフ・管理部門の仕事量の増加と人手不足。特に、RPAホールディングス・浦田隆治氏の話は、成長段階にある企業に共通の悩みといえるだろう。
浦田隆治氏(RPAホールディングス 経営管理部 部長)
「企業が成長すると、当然、請求書の作成や発送、仕訳処理などは増えます。また、従業員数が増加すると、人事労務関連の業務や個別の問い合わせも多くなります。これらを処理するのがスタッフ部門、バックオフィス、管理部門と呼ばれる部署になります。
 この部署の特徴として、業務がある時期に集中することが挙げられます。請求書や仕訳処理といった業務は月末、月次処理は月初め、月中には給与算定。しかも、請求書作成や給与算定は前倒せないので、平準化することができない。最も忙しい時期に対応できるだけの人員を揃えると、それ以外の時期には余剰人員が発生します」(RPAホールディングス・浦田氏)
 加えて、マネーフォワードの杉浦大貴氏が指摘した「業務の属人化」も急成長企業の課題だ。急激に業務が増えると、どうしても素早い処理ができる人間に頼ってしまい、ほかのメンバーにノウハウが伝達されなくなるおそれがある。
「小さな組織のうちは個人の力に頼るところが大きいのですが、企業の成長に伴って、そのやり方は通用しなくなります。そのため、これまでは人員を増やすか、業務をシステム化し、外注して対処するのが一般的でした。
 ただ、人を増やせばコストがかかり、システム化や外注化では業務内容を自社で把握できなくなるリスクもあります。本質的な解決のために当社が選んだのが、業務フローをロボットに合わせて標準化し、RPAを導入することです」(マネーフォワード・杉浦氏)
杉浦大貴氏(マネーフォワード 経営企画・財務本部 財務経理部)
 マネーフォワードは創業6年目。スタートアップが急成長し、安定期に向かう時期には、フェーズごとに人の入れ替わりも激しい。杉浦氏は「会社が大きくなる過程で、業務を整備し直して属人化をなくす必要があった」と語る。
 ニューズピックス・蒲原慎志の課題感も同様だ。現在彼が取り組んでいるのは、業務が拡大し、メンバーが増えたとしてもコーポレート部門の負担が増えない仕組みづくり。
 さまざまなクラウドサービスを使うことで効率化を進めても、現状ではエクセルなどへの入出力が大量に発生してしまう。この作業を減らすためにロボットを導入するには、業務フローやデータ入力のUIを、人ではなくロボットに合わせる必要がある。

RPAが、人の役割を明確にする

 現在、マネーフォワードは売掛金などの債権と実際の入金額を照合する入金消込に、ニューズピックスでは取引企業の情報精査と登録にRPAを導入している。自社でサービスを開発するRPAホールディングスに至っては、見積もりや請求書の作成から稟議書のチェック、承認遅延のアラートなど、実に30の業務をRPAが行っているという。
 RPAホールディングスの管理部門は、マネジメントを行う浦田氏を含めた5人。事業規模が急拡大したにもかかわらず、ルーチンワークをRPAに任せることで増員は行っていないという。また、5人全員が多能工として財務や経理、総務など複数分野に携わりながら、時短勤務やリモートワークを取り入れたフレキシブルな働き方も実現している。
 そして、登壇した3社が口を揃えるのは、RPAを導入するための工程が、単なる業務のロボット化にとどまらないということだ。
 マネーフォワード・杉浦氏は、ロボットに任せることを前提に業務フローを再設計する過程で、「人がやらなければならない仕事が明確になった」と語る。ニューズピックス・蒲原も「ロボ化はあくまで業務改善の手段の一つ」だと主張する。
「ロボットには、人が人に仕事を教えるときのような、阿吽の呼吸が通用しません。RPAを導入するには、まず人が当たり前のように行っている業務を分解し、一つひとつの手順を言語化する必要があります。
 この過程で、“この承認プロセスはそもそも必要なのか”“今の仕組みはちゃんと機能しているのか”と業務フロー全体を見直したことにより、チームの意識が変わりました。極端な話、無駄なプロセスをなくすことで業務を改善できるなら、ロボットを使わなくてもいいんです」(ニューズピックス・蒲原)
蒲原慎志(ニューズピックス 経営企画事業部 事業部長/NewsPicks Studios 取締役)
 現在のロボットは万能ではなく、一つひとつの作業や手順を、人がマニュアル化して教えなければならない。この作業は、属人化を防ぐために業務を標準化するプロセスと似ている。
 人を使うのであれ、ロボットを使うのであれ、まず業務フローを整理することが必要だ。ただ、そのフローを人間だけに合わせて設計するか、ロボットとの協業を前提に設計するかで、将来的なオートメーション化のしやすさは変わってくる。
 事業がスケールアップしたときに、どう対応するか。メンバーが入れ替わるときに、どう業務を引き継ぐか。そういった将来的な変化も含めて業務フローを見直したときに、選択肢の一つとしてロボットがある。

リーディングカンパニーから見た日本の課題

 続いて、RPAのリーディングカンパニー5社が登壇し、ソリューションを提供する側の観点からRPAの課題と展望が語られた。
左から、ファシリテーターを務めたアビームコンサルティング・安部慶喜氏、RPAテクノロジーズ・大角暢之氏、エヌ・ティ・ティ・データ・大塚貴徳氏、オートメーション・エニウェア・ジャパン・杉原博茂氏、Blue Prism・千原寛幸氏、UiPath・田邊智康氏。
 RPAテクノロジーズの大角暢之氏は、RPAを使って解決するべき日本の課題として、「生産労働人口の激減」「少子高齢化」「若者の都会への流出」の3つを挙げた。特に人材不足に悩む地方を回ってヒアリングした経験から、RPAが人の単純作業を肩代わりする“デジタルレイバー(仮想知的労働者)”として期待されていると感じたという。
 これからAIやIoTによってさまざまな業種でデジタルトランスフォーメーションが進むなか、RPAは現場の運用に欠かせないものとなる。エヌ・ティ・ティ・データの大塚貴徳氏は、RPAの特徴について次のように語る。
「AIなどと比べると、人の作業を代替するRPAは短期間で効果が出やすい。また、AIやOCRなど、他のテクノロジーと組み合わせやすいのも特徴です。
 特に、複数のサービスでデータをやりとりする場合や、手運用でシステムとシステムをつなぐ場合など、システムインテグレーションが苦手とする部分をRPAで補うことが重要になるでしょう」(エヌ・ティ・ティ・データ・大塚氏)
左・RPAテクノロジーズ 代表取締役社長・大角暢之氏、右・エヌ・ティ・ティ・データ 社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 デジタルソリューション統括部 RPAソリューション担当 部長・大塚貴徳氏。
 デスクワークのロボット化は世界的な潮流だが、現在、日本のRPAは経理や総務といったバックオフィスが中心。それも、働き方改革で残業を減らす手段としての導入が多い。Blue Prismの千原寛幸氏は、欧米と日本との温度差を感じている。
「日本企業のRPA導入は、数台規模でのスモールスタートが大半。しかし、欧州では数十台、数百台は普通で、なかには千台規模で導入する企業もあります。
 用途としても、欧米ではすでにフロントオフィスへの導入が進んでいます。顧客との接点にもRPAが使われ、エクスペリエンスが向上している。企業成長にRPAをどう役立てるか、より戦略的に考えています」(Blue Prism・千原氏)
 オートメーション・エニウェア・ジャパンの杉原博茂氏も、スケーラビリティの重要性を指摘する。
中央:オートメーション・エニウェア・ジャパン 代表取締役社長・杉原博茂氏、右:Blue Prism マネージングディレクター・千原寛幸氏。
「オーストラリアでは、1000人規模の企業でも5000ボット以上を導入するケースもあります。単純作業とはいえロボット1台で2人分の働きをすると考えれば、1万人の人員が追加されるのと等しいわけです。
 それに、人件費がかかる人間と違い、デジタルワーカーはスケールすればするほど、時間給が安くなります。現在は23万人のIT人材が不足していると言われていますから、日本でも事業立ち上げの段階から、全従業員に対するデジタルワーカーの割合を戦略的に考えるべきです」(オートメーション・エニウェア・ジャパン・杉原氏)
 では、これから日本が欧米に追いつくためには、どんな課題があるのだろうか。現時点でのノウハウに偏りがあると指摘するのは、UiPathの田邊智康氏だ。
「日本では金融機関から始まり、現在では各業界の大手企業を中心にRPAの導入が進んでいます。
 そういった多くの導入プロジェクトを経ることで、フレームワークやテンプレートはある程度蓄積されていますが、今必要なのは先駆者たちがはまった落とし穴や失敗事例。どんなことが導入の足かせになったのかというノウハウが共有されれば、より広く普及していくと思います」(UiPath・田邊氏)
UiPath クライアントソリューション本部ディレクター・田邊智康氏。
「個人的には、RPAは予想以上にスケール化しているし、高度にもなっていると感じます。RPAやデジタルレイバーという言葉に皆が慣れ、理解が進めば、スケールフェーズに入るでしょう。
ただし、その普及はトップダウンではなく、現場からのボトムアップで進める必要があります。なぜなら、デジタルレイバーを開発し、マネジメントするのは、今その業務を行っている現場の人たちだからです」(RPAテクノロジーズ・大角氏)
 リーディングカンパニー5社が語ったRPAの本質的な役割は、業務の効率化や人員の削減ではない。ロボットのサポートによって従業員を単純作業から解放し、より生産的な仕事にリソースを集中させることだ。
 働き方改革や生産性の向上といった日本が抱える喫緊の課題に対応するためにも、「RPA=人とロボットの協働」を見据えて事業戦略を立てることが、今求められている。
(編集:宇野浩志 構成:笹林 司 撮影:後藤 渉 デザイン:國弘朋佳)