さらば、“小手先デジタル変革”。マッキンゼーが考える「本物」とは

2018/12/25
トップマネジメントコンサルティング業界で圧倒的なブランドを保ち続けるマッキンゼー・アンド・カンパニー。このトップマネジメントコンサルティングの巨人は今、デジタルによる「全社変革」に本腰を入れている。今、デジタルトランスフォーメーションに取り組む企業は増えているが、マッキンゼーが考えるデジタルによる全社変革は、世間で推進されているデジタルトランスフォーメーションとは違うという。

普段メディアに社員が登場することが極めて稀な中、デジタル変革を後押しする「デジタル・マッキンゼー」のパートナーでありコンサルタントが、マッキンゼーが考えるデジタルによる全社変革とこれから創るチーム、そして求めるメンバー像を語った。
“デジタルトランスフォーメーション”に感じる「違和感」
──デジタルトランスフォーメーションの必要性を感じて取り組む企業は増えてきていますが、マッキンゼーはこの流れをどうみていますか。
平山 デジタルトランスフォーメーションは、業種・業界、規模を問わず、すべての企業が取り組むべきテーマで、多くの経営者はすでにその必要性を認識していると思います。
 業務プロセスの見直しや新ビジネスの創出など、何らかのかたちでデジタルテクノロジーを活用しているでしょう。ただ、多くの場合、それは経営に大きなインパクトを与えるものではない、つまり全社的なデジタル変革とは呼べないと私は感じています。
──世間のデジタルトランスフォーメーションに違和感を感じている、と?
平山 デジタルによる全社変革は、デジタルテクノロジーの活用が必要不可欠です。
 ただ、あくまでデジタルテクノロジーは手段であって目的ではない。目的は変革です。それなのに、デジタルテクノロジーの導入を出発点に考える傾向が強いように思います。「手段の目的化」が蔓延しているように感じてならないのです。
黒川 私がそれに加えて感じているのは、デジタルトランスフォーメーションの範囲です。一部の部門や業務プロセスなどに絞って限定的にデジタル化を図る企業が多いように感じます。
 PoC(Proof of Concept=試作プロジェクトの検証)は数多く実施したが、全社改革に至っていないケースが多く見受けられます。ただ、それでは効果は限定的。それは、私たちが目指すデジタルによる全社変革ではありません。
──では、マッキンゼーが定義する「デジタルによる全社変革」とは何かを教えてください。
黒川 私たちは「デジタルテクノロジーがベースとなった全社変革」と定義しています。ここで重要なのは、企業、会社の「全体」を変革する取り組みであるということです。
 デジタル化の波は大きく、そして早い。これまでのITを活用した業務の効率化やコスト削減のような話ではなく、ダイナミックな変革が求められています。
 部分的に、そして試験的に取り組むものではなく、企業全体を変革するぐらいの意思が必要な時代なのです。場合によっては、何十年も磨き上げたビジネスモデル、業務プロセス・オペレーションを捨てて、テクノロジーを活用した全く新しいモデルに塗り替えるといったディスラプティブなことも考えられます。
 より大きなビジョンとしては、マッキンゼーの支援によって生まれたベストプラクティスが、関連業界のみならず政府を含めた日本全体に波及し、さらには世界に影響を与えていくような大きな波を起こすことがマッキンゼーの考える「デジタルによる全社変革」といえます。
「テクノロジーありき」は、提供側の責任
──日本企業のデジタルトランスフォーメーションを取材すると、「AIを入れよう、IoT化を図ろう」といった「テクノロジーありき」な雰囲気は確かに感じます。
平山 クライアントが原因ではなく、提供する側に問題がある側面があります。
 コンサルティングファームでもITベンダーでも、デジタルトランスフォーメーションに関連した自らのソリューションを商品化しているケースが多いですよね。そうなると、どうしてもそのソリューションを売るためのシナリオになりがちです。
 デジタルトランスフォーメーションにおいて最も大事なファーストステップは、クライアントのあるべき姿に向けて課題、問題を浮き彫りにすること。解決策としてデジタルが出てくるのはその後です。
黒川 私たちには自前のテクノロジーソリューションはありません。ですから、クライアントの課題を特定することに全神経を集中できます。
 極端に言えば、私たちの仕事は、与えられたお題もなければ、特定のソリューションや製品もない。クライアントとの対話の中からゼロから課題設定を始めます。クライアントが掲げる課題に対しても、その課題自体が正しく設定されているのかというところまで遡って考え、場合によっては課題を再設定することだって少なくないのです。
 そうして課題が特定できた後に初めて、テクノロジーの選定や導入の仕方を検討する。これが、マッキンゼーのデジタルによる全社変革におけるポリシーです。
「One Firm」という強み
──では、マッキンゼーのデジタルによる全社変革の手法を教えてください。
平山 まずクライアントの経営層とディスカッションすること。デジタルによる全社変革は企業全体を変革する取り組みですから、トップ層の考えを知らなければなりません。
 マッキンゼーのコンサルタントは、これまでの実績を評価していただいていることから、多くのクライアントの経営層と直接、話ができます。それと同時に、現場のヒアリングも怠りません。クライアントの全部署、部門長だけでなく現場メンバーにまでコンタクトし、どのようなオペレーションを行っているのか、日々の業務にどんな問題が潜んでいるのかをくまなく聞き取ります。
 このトップのビジョンと方向性、現場の課題を聞くことに時間を費やすことができなければ、求める結果への成功確率が大きく下がります。ですから、マッキンゼーはこの問題発見に多くの時間を使うのです。
 実際、私たちがお手伝いするデジタルによる全社変革のプロジェクトの多くは、1年以上かかります。クライアントは、私たちの考え方やアプローチ方法を信頼してくれて、長期的なパートナーとしてみていただいているので、こうした進め方ができるのです。
黒川 それに加えて、クライアントの業界に深く精通している必要があります。マッキンゼーは、世界120以上の支社を持ち約3万人の社員が在籍し、「One Firm」としてつながっています。
 マッキンゼーの各コンサルタントは、自身の経験や知見を惜しみなく開放します。それは、自身がもつ情報・知識・経験をシェアすると評価される仕組み、カルチャーが全世界で浸透しているからです。自分、自部門の情報は自分たちのもの、といったつまらない壁は存在しない。全世界でのナレッジを共有して、世界の最新事情、ベストプラクティスを学んでいます。
 こうした経営層と現場、それぞれへの徹底したヒアリングによる課題の発見力、そして世界中のマッキンゼーで蓄積された膨大なナレッジを活用した解決力。この2つが兼ね備わっていることがマッキンゼーの強みです。
顧客と子会社を設立、一気にデジタル化
──マッキンゼーが手がけたデジタルによる全社変革の事例を紹介していただけますか。
黒川 デジタルによる全社変革の事例は多数ありますが、今回は製造業界における事例を紹介します。
 製造業界では、市場価格に応じて生産量や売る量の調整が重要であり、この調整具合で業績が大きく変動します。そのため、クライアントも、原材料を運ぶトラックにセンサーをつけたり、生産現場においても似たような取り組みを行ったりして、それなりにデータの抽出や分析は行っていました。
 しかし、例えば海上で輸送されている量はどの程度なのか、作業員個人のケイパビリティ、稼働率はどの程度なのか。そこまでの情報は、把握できていませんでした。つまり先に話したように、部分最適にとどまっていたわけです。
 私たちはそうした課題を一から洗い出し、最も高い価格で販売することを目的に、デジタル・アナリティックスを活用しながら原材料から最終製品までのバリューチェーン全体を最適化し、最適な生産量を調整する方法を考え出しました。
 結果として、このクライアントは全社で一気にデジタル化を進めることになりました。デジタル推進を担う子会社を立ち上げ、我々のメンバーも同社に参画し、クライアント企業と一緒になって、エンドツーエンドなデジタル化を推し進めています。
出典:iStock/metamorworks
平山 このようなデジタル化を推進する子会社を設立する取り組みは、海外ではよく見られる事例ですが、日本ではまだ少ない。今回のケースも、グローバルなナレッジを日頃から共有している我々だから提案できたわけです。
採用を強化し、クライアントのデジタル変革を加速
──マッキンゼーの現役コンサルタントがメディアに登場することは極めて稀です。デジタル・マッキンゼーはどんなチームを組み、どんな方々がメンバーに多いのですか。
黒川 まずコアとなるのは、デジタルによる全社変革を推進するデジタル・マッキンゼー所属の「コンサルタント」陣で、全体の約半分を占めます。その他、システムの設計・開発を行う「Digital Lab」や、データの分析を行う「Analytics」、サービスデザインなどを手がける「Design」、「IoT」などのチームが協力し、全社変革をサポートします。私と平山がこれらのチームを分担してリードしています。
平山 メンバーは数十人で年齢も性別も国籍も関係ありませんから、とても多様なメンバーがそろっています。
──マッキンゼーでは今、デジタル・マッキンゼーのメンバーを積極採用したいと聞いています。
平山 その通りです。デジタルによる全社変革は多くのクライアントが悩まれている分野ですから、外部のパートナーの力を求めており、そのご要望に応えるための仲間が足りていません。
──どんなメンバーを求めていますか。
平山 私が求める最も重要な力は「考える能力」に秀でている人です。考えることが好き、といった方が正しいかもしれません。常識を疑い、問いを立て、自分なりに正しい答えを見つけられる人。そんな人はデータエンジニアやデータサイエンティスト、コンサルタントであっても、絶対にマッキンゼーにアジャストすると感じています。
 ですから、上記の能力があり、デジタルによる全社変革に情熱を感じている方であればコンサルタント経験がなくても構いません。事実、デジタル・マッキンゼーチームのメンバーはコンサルファーム未経験者のほうが多いです。
黒川 冒頭に紹介した、マッキンゼーが示すデジタル変革の定義に共感する方です。そして、企業、いや、業界全体を変革したいという高い志や情熱を持っている。大きく言えば、社会を本気で変えたいと思っている人です。
 それと、もうひとつ付け加えるとすれば、粘り強いメンタルの持ち主であることです。私たちの仕事は課題を発見し、それを解決すること。とことん突き詰めて考え、悩んで考えぬいた末に答えを導き出し、そして完遂するまで全力で駆け抜ける。そのための強い精神力は必要です。
平山 少し見方を変えてお話しすると、全社変革を行うには特定領域のみでなく周辺の複数領域の知見が必要です。もちろん特定領域での深い知識も求められますが、同時に幅広い領域の知見を持つT字型のジェネラリストである必要もあるからです。逆を言うと、ハイブリッドキャリアを求める人にはとても面白いフィールドなはず。
 多様なメンバーとともにさまざまなクライアントからお寄せいただく異なるリクエストがたくさんある。その一つひとつを解決することで、私自身クライアントとともに成長を楽しめています。
黒川 マッキンゼーのサービスは、根本的に携わっているフェーズやフィールドがITコンサルティングとは全然違う。
 コンサルタントをしておられる方でも、所属会社からの指示で個別最適ばかり行っていて、今、悶々としていて、でも本当は大きな全社変革をしたい。そのような思考を持つコンサルタントであれば、マッキンゼーで十分力を発揮できますし、充実した日々を提供できることを約束します。
 先ほどお話ししたように、お題が決まっていない。何がお題なのか、それを考えることが我々のミッションです。
 お題は複数におよびます。その中からグローバルなナレッジを活用したり、経営トップ・ミドル・現場のすべての階層の方とのコミュニケーションを取ったりしながら解を見つけていく。このようなミッションを、高いアスピレーションを持って一緒に取り組んでいきたいと思っている方をぜひ迎え入れたいです。
(取材・編集:木村剛士、構成:杉山忠義、撮影:長谷川博一、デザイン:國弘友佳)