大人の「学び直し」時代、進化するMBA

2018/12/3

アメリカMBAが4年連続減の衝撃

「ビジネスエリートの代名詞」とも言えるMBA(経営学修士)の存在感が今、揺らいでいる。
日進月歩でテクノロジーが進化し、ビジネスモデルの賞味期限が早まる中、過去のフレームワークを学ぶMBAは、ビジネスの実践に使えるのかという「MBA不要論」が論壇やアカデミックの場で渦巻いているのだ。
「MBA大国」であるアメリカで、MBAを受験する人の数が4年連続で減少を続けていることは、その証左だ。
ビジネススクールを受けるのに必要なGMATの受験者数(アメリカ国内)は、2018年度は14万0864人で、昨年度の15万0749人に比べ、6.6%減った(GMATを実施するGMAC調べ)。
さらに、アメリカに約400あるMBAプログラムのうち、59%が出願者数を減らしている。
米『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、トップMBAの名門であるハーバード・ビジネス・スクール(HBS)やスタンフォード大学経営大学院でも出願数が減っている。
アイオワ大学(アイオワ州)やウェイク・フォレスト大学(ノースカロライナ州)にいたっては、2年間のフルタイムのMBAプログラムを廃止した。
なぜ、MBAの地位は劣勢に転じたのか? その理由の1つに、MBAのコモディティー化がある。
MBAホルダーはアメリカだけで年間10万人に上り、日本のビジネススクールにおいても、年間5000人のMBAホルダーを輩出しているとされる。
MBAを持っているだけでは、人材市場で差別化できない──。そう考える人が増えるのは、ある意味、もっともだと言える。
スタンフォード大学(写真:iStock/SpVVK)

今、問われる「MBA3.0」とは?

その一方で、来るべき人生100年時代の到来を受け、社会人の学び直しを意味する「リカレント教育」の必要性が問われている。
今持っているスキルや能力が、技術革新により、いつ不必要になるとも限らない時代。実務能力を磨くことに加え、最新の知識を絶え間なくアップデートすることは、欠かせないとの考え方だ。
こうした時代背景を受け、MBAも進化してきた。
1つは、今の時代に求められる能力や職能の学びに対応していることだ。具体的には、プログラムの中に、デザイン思考、データ・アナリティクス、アントレプレナーシップを実践的に学ぶコースが増えている。
また、コストパフォーマンスに敏感なミレニアル世代を意識して、1年で簡潔に学べるMBAプログラムも増えた。さらに、講座をオンライン上で学ぶ「MOOC(ムーク)」という形態も広がっている。
つまり、MBAはかつての、ビジネスエリートとしての箔付け、マネジメント(経営層)としての品質保証といったラベリング効果という枠を超え、「名より実を取る」方向に舵を切っているといえる。
NewsPicksでは、こうした、受講者の多様性に対応した新しいMBAのカタチを、「MBA3.0」と命名。MBA進化系の最前線を切り取り、リポートしてゆく。
「MBA1.0」とは、日本経済が急成長し、「Japan as No.1」と言われた時代、有名ビジネススクールは、世界のビジネスの寵児だった日本人を歓迎した。

「MBA2.0」とは、1990〜2000年代、日本経済が低成長期に入った時代にMBAを取得した人たちを指す。

「就職氷河期」(1993〜2005年)の厳しい労働環境の中で、満足のいく就職が出来なかった人が、借金を背負い、私費を投じて海外ビジネススクールに行き、キャリアの一発逆転を狙おうとした。

MBAの成功法・独学法を指南

そもそも、実務経験を積んだ社会人が、ビジネススクールに行く意義は何か。
一般的に、MBAは修了後、今の仕事の①ロケーション(働く国・場所) 、②ファンクション(職種・専門分野)、③インダストリー(働く業界)のどれかを変えることができることがメリットだと言われる。
果たして、それは今でも有効なのか──。今改めて問われている、MBAの意義についても考えてゆく。
特集1回目は、1991年にハーバード・ビジネススクールでMBAを取得。そこで得た知識を生かし、30代半ばで社内ベンチャーの社長になり、40代にローソンで社長を務めた、新浪剛史・サントリーホールディングス社長に、ビジネススクールで学び直す意義について話を聞いた。
新浪社長にとって「MBAで学んだこと」は経営者人生にどう活きたのか。あるいは、逆に「MBAで学べなかったこと」は何なのか。学びに関心のあるすべてのビジネスパーソン必見のインタビューだ。
特集2回目は、今、MBA業界に起きている「7つの大変化」について、フォーカス。現役トップスクールMBA生やOB・OGの生の声から得た情報を、完全図解で解説してゆく。
今のあなたにぴったりな「大人の学び」をガイドするYES、NOチャートも同時掲載する予定だ。
特集3回目は、INSEADでMBAを取得したコンサルタント、ムーギー・キム氏が登場する。
ベストセラー『最強の働き方』(東洋経済新報社)、『一流の育て方』(ダイヤモンド社)の筆者でもあるキム氏が、MBAを活かせる人、活かせない人の違いについて分析する。
4回目は、元ミュージシャンであり、PwCで執行役員も務めた松永エリック・匡史氏が登場する。
青山学院大学大学院でMBAを取得した松永氏は、そこに通っていた人たちの「学ぶ姿勢」に、ある違和感を感じたという。その理由について明かす。
5回目は、ハーバード・ビジネススクールでMBAを取った石角友愛氏が登場する。
シリコンバレーで起業し、ベンチャー企業のCEOを務める石角氏は、今もハーバードの通信講座「MOOC」を受けているという。
グーグル本社でも働いたことがある彼女に、シリコンバレーで働く人たちが学ぶ、インターネット講座を紹介してもらう。
ビジネススクールで学び直すことを考えている人にも、はたまた、仕事の中から学びを見出そうとしている人にも、自己成長を志すすべての人に役立つ内容になること請け合いの特集だ。
(執筆:谷口 健、編集:佐藤留美、デザイン:九喜洋介)