脱「リーダー待ち」。地方に起業のエコシステムを創る条件は

2018/12/11
 日本で、世界で、起業を取り巻く環境が変化している。技術革新、経済環境、価値観の変化に伴い、おのずと新しい起業スタイルや、今までは考えられなかった成功事例が出てきている。そんな新しい風が吹く中、この国で、この世界で、起業家は何を成し遂げられるのか。

 最前線の投資家や起業家を訪ね、激動のビジネスを掘り下げる連載企画「スタートアップ新時代」。創業期のスタートアップをPowerful Backingするアメリカン・エキスプレスとNewsPicks Brand Designの特別プログラムから記事をお届けします。
 全国でスタートアップ支援のムーブメントが広がっている。SNSのおかげでいつでもどこでもスタートアップの情報を取得でき、投資家と出会える機会も格段に増えた。
 だが、スタートアップを成功させるためには、地域に合わせた戦略も必要となる。東京以外のエリアで創業するスタートアップには、いったいどんな起業戦略があるのか──。
 そんな問いに答えるべく、11月12日、福岡市でトークイベント『“どこでも起業できる時代”の起業戦略』が行われた。NewsPicksとしては初めての福岡イベントだ。 
 パネリストには、2004年創業で、福岡を拠点としながらグローバル展開にも積極的な株式会社ヌーラボ代表の橋本正徳氏。
 同じく、2006年から福岡をはじめとする九州のベンチャー投資にかかわってきた株式会社ドーガン・ベータの代表、林龍平氏を迎えた。
 モデレーターは、独立系ベンチャーキャピタル、F Venturesを福岡で立ち上げた両角将太氏がつとめた。
会場は福岡市が官民協働で運営する「Fukuoka Growth Next」。福岡市内外のベンチャーや起業家の卵たちが多く参加した
福岡が成功している理由は「山笠」?
両角 まず、全国にさまざまな地方があるなかで、福岡のスタートアップムーブメントがここまで盛り上がったのはなぜか。林さん、いかがでしょうか。
 結論から言うと「山笠」があったから、というのが僕の仮説です。
 福岡市で毎年7月に行われる「博多祇園山笠」には「台上がり」という役割があります。台上がりは博多の街中を疾走する舁(か)き山の上に登って舁き手を鼓舞し、全体の指揮を執るリーダーです。
 その役割は、祭りが終わったら終わり、ではありません。自分より下の若者を育てて台に上がらせていかなきゃいけない。
 福岡にはそういう、目上の者が目下の者を育てる、自分の受けた恩を次の世代に返すメンタリティが元々あり、染みついていると僕は思います。
橋本 たしかに、福岡には若い人やチャレンジする人を応援してくれる空気があります。民間も行政もそうですね。
両角 福岡市は行政が率先して動いて、スタートアップ支援の空気感をつくってくれているんですよね。
 「市政だより」に起業家紹介が載っています。こんな街はなかなかないですよ。福岡はもともと起業家を多く輩出してきたエリアです。ロイヤルホストも福岡発祥ですし、仏壇で有名な株式会社はせがわさんも、本社は博多です。
福岡県出身・九州大学法学部卒。住友銀行、シティバンク、エヌ・エイを経て、ドーガンに2005年から参画。主にベンチャー支援業務に取り組み、3本総額31億円のベンチャーファンド立ち上げを行うほか、起業家支援のためのシリコンバレー型コワーキングスペース「OnRAMP」を福岡市に開設。2014年には福岡市「スタートアップカフェ」の設立プロジェクトにも参画。一般社団法人OnRAMP代表理事、一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会地方創生委員も務める。
 僕らが投資を始めた2006年ころ、福岡にもITベンチャーが次々と立ち上がりましたが、こうした起業家たちのメンターになったのが、IT以外の分野で成功した経営者たちでした。
ノウハウを教えたり、出資してあげたり。シリコンバレーではふつうに見られる「ペイ・フォワード」の文化が博多にはあって、福岡のスタートアップ都市化を後押ししたと思っています。
両角 なるほど。福岡市が「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されたのは2014年。僕が福岡でVCを立ち上げたのが2016年です。それ以前の福岡のスタートアップシーンはどうだったのでしょうか。
1988年、福岡県生まれ。早稲田大学在学中にIT起業家特化メディアを立ち上げた後、サムライインキュベートに入社。日本最大級のコワーキングスペース「SSI」のマネージャーに就任。2016年、福岡を拠点としたVCであるF Venturesを設立。20社超に出資しているほか、スタートアップイベントTORYUMONを半年ごとに全国5都市で主催している。
橋本 僕がIT業界に入ったのは2001年です。当時すでに福岡ではD2K(デジタル大名2000)というデジタルコンテンツのイベントが行われており、僕も参加させてもらっていました。登壇して話をしたこともあります。
 それから10年経って、自分で明星和楽を企画するわけです。
 その第1回から高島宗一郎福岡市長が参加し、第2回で「スタートアップ都市ふくおか宣言」をされたんです。その後、創業特区の計画書案に対して意見を求められたりすることを経て、特区指定にいたります。
1976年生まれ、福岡市出身。高校卒業後に上京し、飲食業や劇団主催、クラブミュージックなどに携わる。1998年、福岡に戻り、父親の家業である建築業界で働き、2001年にプログラマーに転身。派遣プログラマーとして働いていたが、「もっと自分たちのソフトウェアを使ってくれる人と対話をしながらものづくりをしたい」と考え、2004年に福岡で株式会社ヌーラボを設立。代表取締役に就任。2011年にはテクノロジーとクリエイティブの祭典「明星和楽」を立ち上げる。
 僕たちがVC投資を始めた2006年時点では在京VCの福岡拠点は2〜3社で、5〜6社進出してきてたのは2000年の第1次ITブームの頃ですね。
 今と比較すると、起業家のリテラシーは低かった。SNSで気軽に情報を取れる時代ではなかったし、起業家と投資家のマッチングもうまくいってなかったと思います。
 僕は元銀行員なのですが、こんな人にお金は出したくないと思うようないいかげんな人もいました。今は起業家の質が上がって数が増え、投資家も集まってきたと実感しています。
両角 SNSによるパラダイムシフトは大きかったでしょうね。TwitterやFacebook経由での起業家からの相談も増えましたね。
 ファイナンスの環境が良くなり、スタートアップ支援の拠点がいくつもできて起業家が集まってきた。投資家の来るイベントも増えています。
 福岡市のスタートアップの直近1年間(2017年7月〜2018年7月)の資金調達額は30億円を突破しています。
地方の起業家はもっと攻めるべき
両角 とはいえ、福岡のスタートアップシーンがさらにレベルアップするために必要なことは?
 東京のVCから「福岡の起業家は遠慮している」と言われます。東京の起業家はもっと厚かましいですよ。地方の経営者も、もっと攻めたほうがいい
 投資家はなるべく多くの起業家と会いたいんです。投資家もいろんなタイプがいますから、起業家のほうも自分のビジネスモデルや会社のフェーズに合う人を探してほしいと思います。
 遠慮する必要は全然ない。ヒットの数より打席数が大事です。プロダクトができてからと言う人もいますが、それでは遅い場合もあります。
両角 今は行政の支援が充実していますが、いつ政策が変わるかもわからないですからね。起業家も率先して情報発信したり、イベントに行ったり、もっと動かないと。
 スタートアップ支援のインフラが整いすぎたせいか、変に起業の「型」を気にする人が増えてきたと思います。「まず何からすればいいでしょうか?」って聞いてくる人が多い。
 自分のやりたいことを整理したり、企画書にまとめてVCに相談に行ったりと、もっとピュアに動いていいですよ。
橋本 ですね。起業は衝動的でいいと思います。以前は起業するのに理由のない人はたたかれる風潮がありましたが、今はまったくないですし。
 ヌーラボは去年初めて資金調達をしたんですが、VCの方とまめに会話をして、事業計画を書いてはアドバイスをもらうということを繰り返しました。起業してから、いろんな方の力を借りればいいと思いますよ。
両角 橋本さんは今の福岡のスタートアップに対して何かありますか。
橋本 マーケティングや広報・PRがあまり上手じゃないですね。せっかくいいものをつくっても、なかなか世の中に発信しようとしない。
両角 地方にメディアが少ないせいもあるかもしれませんね。スタートアップ系のメディアというと、東京のメディアばかりになっちゃう。
橋本 今、福岡市とPR TIMESが組んで、メディアセンターの構想が動いています。ここに情報を投げれば、首都圏のメディアの人たちにも見てもらえて、福岡に取材に来てくれるような流れができるといいなと。
地方だからこそ「アンサンブル」を組むべき
両角  一方で、九州圏内の大学でもスタートアップ支援の動きが活発になってきました。
 九州大学の起業部に刺激を受けて、立命館アジア太平洋大学(APU)にも起業部ができましたし、最近だと長崎や鹿児島でも動きがあります。
橋本 僕は地方のスタートアップシーンに大事なのは、行政と民間、できれば大学まで含めて、誰もリーダーシップをとることなく、アンサンブルをちゃんと組めるかどうかだと思っています。
 行政だけ、民間だけ、あるいは大学だけ頑張ったってうまくいきません。おのおのがお互いを気にかけてはいるけど、基本的には自分の持ち場できちんと役割を果たす。そんな意識のほうがうまくいきやすいと思います。
 アンサンブルが大事、というのはまさにそう。日本ベンチャーキャピタル協会(VCA)の地方創生委員をやっている関係で全国を回っているのですが、行った先でよく耳にするのが「うちは盛り上がらないんですよね」という自治体や金融機関の方の声です。
 彼らは誰かがリーダーシップをとらなきゃいけない、という発想なんです。
橋本 「リーダー待ち」をしているエリアってありますよね。
 ええ。福岡では行政も民間も大学も、山笠文化でみんなが「地域のことはちゃんとやろうぜ」という意識を持っているからうまくいっている。誰かが音頭をとってくれる、と待ちの姿勢では地域は盛り上がりません
両角 行政と民間が干渉しすぎず、それぞれがちゃんと仕事をするのが大事なんですね。
 ここで会場から質問です。「福岡は都市化が進んでいるから人を集めやすいが、それ以外の地方ではどうやって仲間を集めたらいいか?」と。
 スタートアップが盛り上がるのに、都市化が進んでいる必要はないですよ。島根県の奥出雲という人口1.3万人ぐらいの町のイベントに参加したんですが、めちゃくちゃ盛り上がっていました。
 中学生からお年寄りまで自分たちの町がどうしたら良くなるかと真剣に考えて、コワーキングスペースをつくったり、カフェをやったり、いろんな企画を実行している。
 田舎だから、人口が少ないからというのは理由になりません。地域に合ったファイナンスモデルが機能すればお金も集まるし、何より大切なのはパッション。
 やりたいという熱意のある人がいれば、そこに引きつけられる人は必ず出てきます。
地方起業ならアジア市場を見るべし
両角 次はグローバル展開についてです。地方のスタートアップは海外とどう関われるでしょうか。ヌーラボはニューヨーク、シンガポール、アムステルダムに子会社をお持ちです。なぜ海外展開を?
橋本 ユーザーがいるからですね。ヌーラボはSaaSモデルだから薄利多売で商売をやらないといけないんです。これからどんどん人口が減っていく国内市場だけでは厳しい。海外も市場と考えないと。
 日本はアジアの一部なんだから、アジア全体をマーケットとして考えたほうがいいですよね。
 ちょっとでも受け入れてもらえるようなら、現地でカスタマー向けのイベントをやったり、広告を打ったりしてコミュニティを少しずつ広げていっています。この受け入れられるかどうか、という感触が大事ですね。
 スタートアップの空気を身近で感じてみたいなら、台湾に行くといいですよ。台湾って市場が小さいから、スタートアップは最初からグローバルに行くことを考えている。
 アジアのピッチで1位をとるのはだいたい台湾のスタートアップです。福岡のスタートアップも、福岡や九州だけじゃマーケットが小さいととらえて、海外に出たらどうかと思います。
  IT大国のエストニアも小さな国だから、はなからグローバルを見ていますよね。人口は福岡市に近い約130万人ぐらいなのに、ユニコーン企業は5、6社もある。
両角 最後に、将来のユニコーンになりそうな、地元で今注目のスタートアップを教えてください。
橋本 今だとAIを使った病理画像診断ソフトを手がける、九大発ベンチャーのMedmainさん。今後話題になりそうなところとしては、高校生起業家が始めたeスポーツのスタートアップ、RATELさんにも注目しています。
 うちの投資先なんですが、やはり九大発宇宙開発ベンチャーのQPS研究所。20億超の調達をして小型の人工衛星を飛ばし、リアルタイムの地球観測をしようとしています。大学の技術とビジネスがきちんとかみ合う可能性の高い会社ですね。
両角 大学発の企業も増え、福岡のスタートアップの層はさらに厚くなりました。ロールモデルがいると、後に続く起業家が増える。それをめがけて来る投資家もさらに増えます。福岡のスタートアップエコシステムはますます強化されていきそうですね。
 一方で、「スタートアップが盛り上がるのに都市化が進んでいる必要はない」という言葉もありましたが、福岡以外の地方でも、その地域ならではのエコシステムが作れるはずです。
 そういったスタートアップ文化がより多くの地域に広がっていくことに、期待しかないですね。
(取材・文:横山瑠美 撮影:松山隆行 編集:呉琢磨)