パナソニックに100年続く「企業市民」の精神とは

2018/11/28
事業を通じた社会貢献を基本としながら、「企業市民」としてもさまざまな社会貢献活動を続けるパナソニック。100周年を迎え、新たに立ち上げたのが電気のない地域にソーラーソリューションを届け、地域の自走をサポートする「無電化地域ソリューションプロジェクト」だ。企業として、どのように社会貢献活動、CSRにパナソニックは向き合っていくのか。CSR・社会文化部部長の福田里香氏に聞いた。
1986年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)に入社。以降、人事・労政部門にて、パナソニックグループの賃金体系など人事処遇制度の企画・運営に携わる。東京の渉外部門で人事・総務担当、ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化グループ グループマネージャーを経て、2015年より現職。
創業者・松下幸之助から継承する経営理念
福田 パナソニックは今年、おかげさまで100周年を迎えました。いまや従業員の半数が外国籍で、売り上げ8兆円のグローバル企業に成長したパナソニックの経営理念は、事業を通じて社会の発展に貢献するというものです。
 創業者・松下幸之助が1929年に制定した「綱領」には、「産業人たるの本分に徹し 社会生活の改善と向上を図り 世界文化の進展に寄与せんことを期す」とあります。そして、2013年からパナソニックがブランドスローガンとしているのが、「A Better Life, A Better World」です。
 このブランドスローガンは、ゼロベースから議論して決まったものですが、結果的にその意味するところは創業者のつくった綱領と同じになりました。人々の幸せが持続する“いいくらし”の実現とサスティナブルな社会の実現。パナソニックが目指すべきこの理念は、100年間ブレていないということです。
 では、どうやって企業として社会に貢献していくのか。パナソニックでは、事業活動による社会貢献を基本としながら、一方では企業市民活動でも社会課題解決に取り組んでいます。
 事業活動では、ある程度購買力のある地域で優れた製品やサービスにより “よりよいくらし”を実現することを目指します。一方で、まだ事業活動の及ばない途上国やインフラが整備されていない地域では、企業市民活動を通して社会課題の解決に取り組むことを考えています。
 上の図にあるように、企業市民活動では、途上国や新興国により重点を置いて、事業活動では解決が難しい課題に取り組んで市場の成長をサポートし、新しい事業を生み出すことで、事業で貢献できる地域を増やしていきたいと考えています。
「貧困」という社会課題に正面から取り組む
 今回、創業100周年にあたり、パナソニックの企業市民活動をもう一度見直して、私たちが重点テーマとして設定したのが、「共生社会の実現にむけた“貧困の解消”」です。
 企業市民活動の原点にあるのは、やはり創業者の考え方です。創業者は「貧困は罪悪だ」「生産者の使命は、この社会から貧困をなくしていくこと」という言葉を残しています。
 一方で、グローバル企業という立場から世界の社会課題を考えるうえで踏まえるべきものに、国連の持続可能な開発目標「SDGs(=Sustainable Development Goals)」があります。貧困の解消は、SDGsの17目標のうちの1番目。貧困は世界において大きな社会課題であるといえるでしょう。
 社会課題への創業者の想い、グローバル企業としての視点。その両者に共通する「貧困の解消」こそ、100年の節目に取り組むべきテーマであると考えました。
 では、どうすれば貧困を解決できるのか? 以前は寄付という形が主流でしたが、寄付だけでは貧困を根本的に解決することはできません。そこで我々がサスティナブルな解決手段として切り口にしたのが、人材育成、機会創出、相互理解です。
無電化地域にともるソーラーランタン
 貧困解消のための機会創出の取り組みとして、今年からスタートしたのが「無電化地域ソリューションプロジェクト」です。
 その伏線には、2013年から5年間かけて行った「ソーラーランタン10万台プロジェクト」があります。NPO/NGOや国際機関を通じてアジアやアフリカ30カ国の無電化地域に10万2716台のソーラーランタンを寄贈しました。
ソーラーランタンの明かりで夜間もより安全に診察することが可能に
 明かりのない地域で生活している人々がそれまで使っていた灯油ランプの代わりにソーラーランタンを使うことには、多くのメリットがあります。
 健康にダメージを与える煙がなくなること、安全性の確保、燃料代の節約などのほかにも、夜間の出産や診察をより安全に行うことや、子どもたちの勉強が可能になりました。特に子どもたちの学習環境が整うことは、将来的に大きな成果をその地域にもたらすと期待しています。
 家庭内で手工業をしている家も多く、電気の明かりのもとで、夜間に仕事ができるようにもなりました。これは収入増につながり、貧困の解消に直結します。
 もちろん、約11億人に対して10万台ですから、その効果はほんの小さなものです。しかし、ものごとを変えるには、とにかく何かアクションを起こすという最初のステップが重要です。
寄付で終わらない、継続的な支援を
 5年間のプロジェクトは今年1月で10万台を達成して一区切りとなりましたが、それで終わりではありません。次のステップとして、2つのプロジェクトを新たに立ち上げました。
 ひとつは、広く一般の方を巻き込みながらソーラーランタンを届け続けるためのプラットフォーム「みんなで“AKARI”アクション」です。古本やCDなどの売却金や、クラウドファンドによる寄付で、誰でも明かりを届ける活動に参加できるようになりました。
長期的なサポートで地域の自走を目指す
 もうひとつが、「無電化地域ソリューションプロジェクト」です。
 これは、無電化地域に対して、もっと長期的なサポートをしていくというもの。パワーサプライステーションやソーラーストレージ、ソーラーランタンなどの当社の太陽光発電・蓄電システム製品を寄贈し、電気に関する知識啓発や技術リーダー育成などを行います。
 さらには、電気を活用した地場産業づくりや、5年後のバッテリー交換の費用のため方を一緒に考えていくなど、長期的な視点でサポート。電気がある暮らしがもたらす経済的な発展と、コミュニティの自走を支援していきます。
無電化地域に設置されたパワーサプライステーション
 長期的なプロジェクトだけに、パナソニック1社だけではなく、地域にしっかり根付いたNGOなどの団体とパートナーシップを築くことで、継続的にコミュニティに寄り添っていきます。
 SDGsの目標達成年である2030年までは、あと11年あります。無電化地域の人口は約11億人。ちょうど1年に1億人減らすことができたら、2030年には無電化地域に住む人々がいなくなる計算です。
 もちろん、一企業で達成できることではありませんが、実際に昨年1年間で無電化地域の人口は約1億人減っていることを考えると、「2030年までに無電化地域に住む人をゼロにする」と言い続けることで、仲間も増え、単なる夢物語ではなく、本当に実現できるかもしれないと、半分本気で私自身は考えています。
企業市民活動の事業への還元
 また、企業市民活動を行ううえで忘れてならないのが、我々はあくまでも事業会社であるということです。企業市民活動は、事業に還元する何らかの価値を生み出しているからこそ、継続し続けられるものです。
 無電化地域へのプロジェクトについても同様で、ブランド認知の向上、流通網の拡大、商品へのフィードバックなどが、我々の事業にとっての価値となります。さらに、無電化地域が将来電化することは、エレクトロニクス企業であるパナソニックのマーケットが広がるということです。
 もう一度パナソニックの経営理念について話を戻すと、100年続いてきたこの理念は、今後もずっと変わらないものでしょう。一方で、具体的にどうやって社会に貢献するのか、誰に対して行うのかということは、時代に応じて違ってきます。SDGsは、まさに今の時代に具体的な社会課題と取り組むべき目標を明確にしたものです。
 言い方を変えると、SDGsは2030年という明確なターゲットを持つ具体的な目標です。しかし、私たちの理念は、もっと先の100年、200年後の未来に続いていくもの。そこには、「よりよいくらしや社会を実現する」という揺るぎない強い想いがあります。
途上国の最前線で、持続可能な共生社会を考える
 10月30日〜11月3日まで、5日間開催されたパナソニック創業100周年記念「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」。11月2日のセッションでは、「途上国の最前線で動くキーマンが描く 持続可能な共生社会実現へのチャレンジ」と題して、途上国支援で活躍する3人が登壇。企業が途上国で社会貢献活動を行う意義、途上国支援で重要なことについて意見を交わした。
牧浦土雅
Needs One Co.,Ltd 共同創業者。2014年から東アフリカで国際協力機構と農民とをつなげるプロジェクトを牽引。TED「世界の12人の若者」に選出。IT教育サービス“Quipper”の世界展開にも従事。本年夏から拠点をアフリカに移し宇宙事業に尽力。
「現在、西アフリカのガーナを拠点に、人工衛星で農地の収穫量を解析し、食料不足の地域に効率的に輸送するという事業をスタートしています。途上国支援では衛生や明かりという、本来、あるべき姿のものが途上国でも普及する、ということがキーワードになってくると思います。単に物を届けるだけではダメで、その地域の生活やカルチャーに根ざすことが何より重要です」(牧浦氏)
代島裕世
サラヤ 取締役 コミュニケーション本部本部長兼コンシューマー事業本部副部長。2001 年、ユニセフと連動し、アフリカのウガンダで衛生状態を改善する「SARAYA100万人の手洗いプロジェクト」を開始。エシカルな化粧品などの開発販売も手がける。
「サラヤでは“命をつなぐ”をキーワードにSDGsの課題に取り組むビジネスを展開しています。パームオイルの原産地であるボルネオの環境保全をきっかけに、途上国支援の活動をスタート。手洗いという文化をアフリカで啓発し、現在はアルコール消毒剤というと『サラヤ』が代名詞になっています。行動を変えるという視点からアプローチすることが、非常に重要です」(代島氏)
浅野明子
パナソニック ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化部 無電化地域ソリューションプロジェクトリーダー。2017年よりCSR・社会文化部に所属。「ソーラーランタン10万台プロジェクト」「無電化地域ソリューションプロジェクト」を推進。
「パナソニックでは“無電化地域ソリューション”を通じて、共生社会の実現にむけた貧困の解消に取り組んでいます。無電化地域の方に明かりを届け、啓発教育による人材育成を行い、コミュニティが自走できる社会を目指しています。我々にとっては、『事業を通じた社会貢献』が基本です。事業としては成立が難しい途上国などのエリアでは、先遣隊として入っていき、企業市民活動を継続的に行っていくことが大事だと考えています」(浅野氏)
 教育や啓発、信頼できるパートナーとの協働、人ありきのコミュニケーションなどのキーワードが飛び交い、途上国支援への多くのヒントが得られたクロストーク。途上国支援を自分の立場や事業といかに結び付けて継続的に行っていくか。それこそが共生社会実現へのポイントであると締めくくられた。
(編集:久川桃子 構成:工藤千秋 撮影:稲垣純也 デザイン:國弘朋佳、タイトルイラスト:小笠原徹)