【VC激白】億単位の資金を5分のピッチで調達するためのセオリー

2018/11/30
「パッと聞くと、すごいサービスなのに──」
 よく練られた起業家のプレゼンに、次々と鋭い指摘が飛ぶ。
 百戦錬磨のVCである高宮慎一氏(グロービス・キャピタル・パートナーズ)が講師を務める「VC高宮慎一の白熱! 起業家道場」の一場面だ。
 多数の応募者から選ばれた14人の参加者のうち、応募時にNewsPicks Brand Designの審査にかなった事業内容の起業家3人が選ばれ、資金調達を想定したプレゼンを実施。高宮氏や参加者から、直接のフィードバックを受ける機会が設けられた。
 資金調達ピッチのための特訓プログラム、第1期の講義の様子をダイジェストでリポートする。また、12月11日に開催される第2期の二次募集も開始。併せて確認されたい。
最前線の投資家や起業家を訪ね、激動のビジネスを掘り下げる連載企画「スタートアップ新時代」。創業期のスタートアップをPowerful Backingするアメリカン・エキスプレスとNewsPicks Brand Designの特別プログラムです。

VCが投資したくなる3つのポイント

 プログラムを始める前に、高宮氏から参加者に向け、資金調達において押さえておくべき基本的なポイントをレクチャーする時間が設けられた。投資する立場として、高宮氏が必ずチェックするポイントがあるという。
高宮 今回は事前応募から選出された3人の起業家の方に、資金調達のためのピッチをしていただきますが、スタートアップは必ずしもVCから資金調達する必要はありません。
 事業で世の中を変えたいという目的があった時、その事業に最適な資金調達手段を選ぶべきです。大きな資金が必要だから、借り入れができない赤字のタイミングから資金が必要などの理由で、確信犯的にVCからの資金調達を選ぶというのも大切だと思います。その上で、VCから資金を調達するのであれば、相性の良いVCを見つけることが一番大事です。
 次に、投資家側がどのような視点で見ているかというと、ざっくり3つポイントがあります。
 中でも一番見るのは、「事業の成長性」です。VC自身も投資家からお金を預かり、それを増やす商売をしているので、起業家にも事業成長を求めることになります。投資した金額のリターンは、一概に言うのは難しいのですが、目安としては例えばアーリーステージに投資するなら10倍以上、シードステージなら30倍以上の可能性を求めます。
 一方で同じくらい大事なのは、経営チームにどれくらい良い人たちが集まっているかということ。まずは前提としては信頼できるか、逃げないかなどの「人として」みたいなところは、みなさんが思っている以上に大事にしています。
 そして、ここは個人的な見方で投資家によってもいろいろ見方は違うと思いますが、起業家がブレない大局観と柔軟な戦略性を併せ持っているかは大事にしています。正解を知っているかそのものというよりは、変化する外部環境の中で再現性をもってロジカルに戦略を再構築しつづけられるかだと思います。
 あとは、世の中をどう変えたいのか、何を成し遂げたいのかというビジョンは大切だと思います。そうでないと、厳しい状況に置かれたとき、ビジョンに立ち返って、歯を食いしばって踏みとどまれない。経営陣がビジョンをちゃんと言語化し、それを365日毎日考えていられる、そして社員にまでちゃんと腹落ちしているかが重要です。
 3つ目に重要なのは「事業の実現可能性」。競争優位性とも言えるのですが「自社だからこの事業を実現できる」という強みを、しっかりと説明できることが大事です。
 ちなみによくある“自社の強み”のパターンは、「自社の強みは優秀なエンジニアがいっぱいいることです!」なのですが、残念ながらエンジニアが多くいることは競争優位にはなりません。競争優位性は、本来「構造的に他社がまねできないこと」です。
 この3つの合わせ技で、シナリオ通りにいけば伸びると判断できる企業に投資を行います。では、これらのポイントを踏まえた上で、今日ご登壇される3人の起業家のみなさんに、事業内容のピッチをしていただきましょう。

ケース①:家族介護サービス

1人目は家族介護プラットフォーム「介護の達人」を起業準備中の萩原鼓十郎氏
 今後人口が4000万人台に縮小していく日本社会では「高齢者が人口の50%」という未来が予想される。そこで、介護する家族の側にフォーカスを当てたサービスを提案。介護に関する困りごとを総合的に解決するアプリを今後開発していく予定だ。
高宮 すごいプレゼンがうまいですね。冒頭で、市場が伸びていることを強めに、でも簡潔に説明したのが良かったと思いました。投資家はそこらへんを非常によく見ています。
 ただ、シード期に資金を調達する上で一番大事なことは、本当にその具体的なサービスに市場のニーズがあるかということです。介護と仕事に対する解決策として、具体的にどういったサービスに需要があるかを検証しようとしているところだと思うのですが、はじめに課題を徹底的に洗い出すことが大事です。
「何でも網羅しています」ではなく、ユーザーのペインポイント(悩み)を解決できること、そこにニーズがあると説明することが重要。プレゼンもいろいろ要素を足して広く説明するのではなく、一番ウリとなる部分を軸に、引き算でスライドを作っていった方がいいかもしれません。
 萩原さんはこのサービスについて、どこにビジネスの強みがあると思いますか?
萩原 介護の当事者である一般ユーザーはもちろんですが、法人へのサービス提供も検討している点です。今後、企業人口の約8パーセントが介護離職すると言われています。介護により企業の生産性が落ちることを防ぐため、大企業に法人サービスを導入してもらえる可能性を見込んでいます。
高宮 参加している他の起業家の方にも質問をしてもらいましょうか。
参加者 個人向けのサービスを法人と契約すると、契約先の企業と利用者個人の間に温度差が発生しないでしょうか? サービスを契約する本当の意義が企業に伝わらず、最終的に解約されてしまう気がします。
高宮 おっしゃる通り、温度差を解消するためには、ユーザーがサービスに満足するだけではなく、企業もサービスを契約したことによる効果を実感できないといけないです。レポーティングなどを通してサービスの効果や価値を考えさせる仕組みが必要でしょうね。
 あとは、ヘルスケア系の事業の場合、介護保険外を狙いユーザーのお財布を狙うのか、介護保険対象の政府のお金を狙うのか、お金の出してくれやすさ×お財布の大きさからしてどちらが有利なのか、その辺りを見極めるのが大事です。

ケース②:金融サービス

 2人目は、中小企業やフリーランスを対象にした、請求書を即時に現金化するサービスを起業準備中のyupの阪井優氏
 きっかけは、自身が所属する会社の取引先が「カードの売り上げや請求書の入金が遅いためキャッシュがない」と資金繰りに苦労している姿をよく見ていたことだった。今一番ホットな市場の一つだからこそ、高宮氏の見る目も厳しかった。
高宮 ファクタリング(企業が保有する売上債権を、支払いサイトの期日前に買い取り、債権を回収するサービス)自体はフィンテックにおいてホットな領域ですよね。その中でも請求書買い取りという、自分だけしか見つけられていないアングルを見つけて、それを事業化するというのは大切です。こういったサービスを構想したきっかけはなんですか?
阪井 儲かってはいるのに、手元にキャッシュがなくて苦労している中小企業があることに気がついたことです。今国内で従業員が20人未満の会社は約325万社あります。こういった中小企業の方の資金繰りをよくしたいと思い、請求書の買い取りというサービスを考え始めました。
高宮 規制産業を変革しようという事業機会の場合、法規制の問題がクリアになっていることが前提です。なので、金商法などの法規制の問題がクリアになっていることは言及する必要があります。
 金融サービスは、流通量を増やせば、その分手数料を下げることができる、規模が出るまでは資本力で手数料を下げることができるという、大資本によるパワープレーになりがちな業界です。そういったパワープレーに陥らないような業界またはビジネスモデル上の構造、またはパワープレーになっても勝ち抜ける競争優位性を明示することが重要となってきます。
 また、ファクタリングなどの貸金的なサービスは与信精度が高いことがKey Success Factor(=事業成功の鍵)となります。利益が十分にあげられる与信の仕組みはどうなっているのか、競合よりもどうして精度が上げられるのか、その辺りも示す必要があります。
 あとは請求書という特定のフォーマットにフォーカスする必然性は示した方がよいと思います。一般論的に考えると、もう一つ抽象的なレイヤーで中小企業の運転資金最適化、資金ニーズを解決するサービスと考えた方が対象市場自体は広がります。それでも、あえて請求書に絞る理由、また絞ったとしても十分な規模が出せる理由は説明できた方がよいと思います。
 他の参加者の方はいかがですか?
参加者 法律上の観点でいうと、経営メンバーに若い方が多そうなので、金融畑出身のメンバーをジョインさせることが必要なのかなと思いました。
高宮 たしかにメンバーの選定は非常に大切なポイントです。特にtoB営業をする場合や金融庁の接触があるはずなので、金融がわかるチームメンバーがいる、ということも資金調達時のアピールに必須ですね。

ケース③:家具レンタルサービス

 家具にまつわるユーザーペインを解決するサービス「CLAS(クラス)」について、ピッチを行ったのは、株式会社クラスの中島悠太氏
 一定額のレンタル料金を支払えば自在に家具がレンタルできる。不要な家具は買い取りや交換もでき、手間もコストもかからない。現在、サービスはローンチ済み。
高宮 おしゃれな家具を低価格でレンタルできるという、ユーザーにとって魅力的なサービスですが、家具をどんどん模様替えしていきたいと思っている人はどれぐらいいるのでしょうか。市場の規模感を数字で示すことが大事です。
 あとは、事業者としてレンタルに出す家具を購入すると運転資金として資金が縛られますし、その結果事業が拡大すればするほど運転資金が必要となります。投資家として資本効率は気になるところです。
 製品の生産から顧客への提供までを自社で完結させ垂直統合しているので付加価値は取り込めているのですが、配送、回収、補修などのオペレーションとして効率化できるのかというのがポイントかと思います。
 また資金調達のスライドで、調達規模を10億円〜と設定されていたのも気になりました。いきなり10億円を調達して一気に面を取りにいくのもハイリスク・ハイリターンの調達のパターンとしてあるとは思いますが、ユーザーの受容性やエコノミクスを検証しながら資金調達を抑えて刻んでいく調達パターンのシナリオも用意しておいた方がいいと思います。
 どっちも選択肢としてはあると思う一方、投資家からすると大勝負をいきなり仕掛けるのはリスキーに映ってしまう部分もあります。ハイリスク・ハイリターンパターンに乗ってくれる投資家がいるかどうかをにらみながら、難しそうだったら刻むパターンに切り替える、みたいな資金調達戦略がいいかもしれません。
 参加者の方はいかがですか?
参加者 例えばIKEAのような大手家具メーカーが近い事業を始めたとき、このサービスのどのポイントが競争優位性になるのでしょうか?
中島 大手家具メーカーが参入しようとしたとき、イノベーションのジレンマがあり、片手間の新規事業としては参入が難しいので、大手メーカーもすぐには参入しないと考えています。他社が準備する前に市場を刈り取り 、圧倒的なプライシングを打ち出すことで、競争優位性を発揮できると考えます。
高宮 実はインターネット系のサービスのセオリーとして、リアルで既に顕在化している習慣をネットに置き換えるのが一番簡単というのがあります。一方で、いきなりネットで新しい習慣を作り出すというのもあるのですが、ユーザーを習慣付けるための教育コスト、習慣が定着するまでの時間なども考慮に入れ、新しい習慣を作れるかというのは判断のポイントになると思います。
 あとは、サブスクリプションのサービスの場合、プライシングは肝です。年契約などで、月契約に比べて大幅に割引をしながらも、長期間で縛れると、ユーザーのライフタイムを長くでき、トータルのLTVを大きくできるなどがあります。
 ただ、プライシングで表面的に離脱を防止しても、本質的にはユーザーが年契約で縛られている間もアクティブに使ってくれている満足度の高いサービスにすることが大切ですが。
 あとは、ターゲットをtoBの法人向けにした方が、スケールしないものの安定的に効率良く立ち上がる。一方でtoCの方は、初速が遅く立ち上げ効率は悪いですが、最終的にはスケールする、という中、どっちにどういうバランスでフォーカスするのか、またはどういう順番で展開していくのか、その辺りの戦略は重要になってくるでしょう。

12月11日、第2期開催

 3人のプレゼンテーションとフィードバックの後、会場では参加者全員が円になり、懇親会が実施された。投資に対するリアルな意見や相談が飛び交い、白熱した時間となった。
12月11日には、「白熱!起業家道場」第2期を実施。本日から二次募集を開始します。スタートアップ企業が抱える「投資」への悩みが解消される貴重な機会。以下のリンクより、熱意ある起業家のみなさん、奮ってご応募ください。
 (編集:中島洋一 執筆:高木 望[バブー] 撮影:工藤裕之 デザイン:九喜洋介)