スポーツ産業拡大へ。「ライブ」の価値に人が集まる

2018/11/29
プロ野球は選手の移籍に関する“ストーブリーグ”が話題の中心となり、Jリーグは昇格・残留争いの真っただ中だ。シーズン真っ最中のBリーグやフィギュアスケート、ラグビー、駅伝では白熱した戦いが繰り広げられている。
「ダゾーンが日本に注目したのは、日本人がこれだけ多様なスポーツを楽しんでいるからです」
同社と10年2100億円という巨大契約を結んだJリーグの村井満チェアマンがそう語っていたように、人気競技が多岐にわたることが日本の特徴だ。例えば英国ではサッカーの話題が一年中メディアの中心を占めるのに対し、日本のスポーツニュースでは様々な競技が“主役”になる。

Spotify×食べログ

スポーツの産業規模を2012年時点の5.5兆円から2025年には15兆円へ――。
政府が掲げる目標は広く知られるが、実現のカギはどこにあるだろうか。
「スポーツ界全体を伸ばしていくためには、核となるスポーツライブの価値をできる限り上げることが必要です」
そう語るのは、千葉ロッテマリーンズの観客動員増や侍ジャパンのデジタル改革に尽力し、現在はスポーツマーケティングラボラトリーの代表取締役を務める荒木重雄氏だ。同社がスポーツライブの価値を高めるため、大学生集団とタッグを組んで始めたアプリ「スポカレ」がコアなスポーツファンを中心に支持を集めている。
「観戦体験としてはSpotify、情報としては食べログにしたいと思っています。Spotifyは個人に最適化するのがすごくうまくて、さらに自分のプレイリストをシェアできます。それと同じようなことをスポーツでしたい。食べログのように4.5などと星をつけて、『この大会はオススメです』とできればと思っています」
東京大学工学部4年生で、スポカレの取締役を務める俣野泰佑氏はそう語る。
スポカレはその名前から連想できるように、各競技のイベントや大会をカレンダー上で整理できるアプリだ。サッカーの日本代表戦からオーストラリアンフットボールまで、「日本でリアルタイムで見られるもの」の大部分がカバーされている。
土日や祝日を中心にスポーツのイベントは数多く開催されており、現地はもちろん、テレビやネットでライブ観戦できるものは数多くある。だからこそ、「今日、どこで、何が」行われているのか、日程を把握するのはスポーツファンでも少々面倒くさい。
そこでライトファンをメインターゲットにスポカレをリリースしたところ、「試合観戦管理ツールとして、予想以上にコアファンに支持をいただいています」(俣野氏)。

日本人の半分がスポーツファン

「2017年スポーツマーケティング基礎調査」によると、スタジアムで年に1度以上スポーツ観戦した人は22.9%(出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティングとマクロミルによる共同調査)。
同調査による推計では、プロ野球ファンは2845万人(侍ジャパンのファンは2083万人)、サッカー日本代表ファンは2923万人(Jリーグファンは1089万人)、Bリーグファンは559万人、Vリーグファンは517万人とされる。
上記のファンにはコアからライト層まで含まれるなか、テレビやネット観戦が中心のファンも含めると、スポーツのライブ中継市場は5000万人以上になると荒木氏は見ている。
「アンケートなどを見る限り、野球やサッカーを初めて見に行くきっかけは友だちに誘われたからというのが多いです。つまりコアファンがもっと多くの人に見てほしいと思って、新規ファンを連れてくる。1回連れてこられた人が完全にハマって、ファンになっていくという話をよく聞きます」
「例えばある競技の注目試合がその日にあることを知らないと、夜のニュースで結果を知ることになりますよね。それがスポカレでは事前に通知されるので、『今日、この試合があるんだ』と見るチャンスが出てくる。そういう観戦体験のスパイラルを作っていきたいと思っています」

ハードルを下げ、感動を共有

スポーツファンの特徴として「野球もサッカーもバスケも好きという」人が一定数いる一方、よほどコアなファンでない限り、スポーツをライブ観戦するハードルは決して低くない。
例えば2018年シリーズのメジャーリーグのワールドシリーズ、ドジャース対レッドソックスの第3戦は延長18回、7時間20分の激闘が繰り広げられた。野球を書くことを生業とする筆者は、決着の着く場面を見逃せないとテレビの前を離れられなかったが、会社勤めの人にとってそうはいかないだろう。
そこでスポカレがライブ観戦のハードルを下げつつ、同時にクライマックスシーンを見逃さないために行っているのがプッシュ通知だ。
10月14日に行われたヤクルト戦の8回、巨人の菅野智之投手がクライマックスシリーズ初のノーヒット・ノーランにあと1イニングまで迫ると、スポカレ編集部はユーザーに対してプッシュ通知を行った。
翌日の「2018世界バレー女子」ではイタリアに第1、3セットをとられた後、日本が第4セットをとって追いついた直後にプッシュ通知を送っている。試合序盤に諦めモードでテレビの前から離れたものの、編集部の知らせを受けて、山場の第5セットを見逃さずに済んだという視聴者も少なくなかったという。
「プッシュ通知の数字はすごく良かったです。やはり、スポーツをライブで見たいという人は多いですね。後から結果を知るよりリアルタイムで見て、翌日に友だちと『すごかったね』と言い合う流れに乗れるかどうかは、自分のようなファンにとってすごく大きい。忙しくてフルでは見られない人にも、スポーツの感動体験を届けたいと思っています」(俣野氏)
テレビやYouTubeの番組なら自分の好きな時間に見たいと考えるのはある意味で当たり前だが、スポーツはリアルタイムで見てこそ没入できる。その価値をコアからライトまでいかに広げ、市場を広げていくか。
今後スポーツ産業を成長させていくうえで、「ライブ」はキーワードの一つになりそうだ。
(写真:AFP/アフロ)