テクノロジー、グローバル、社会貢献がマーケティングを変える

2019/7/12
いよいよエントリーがスタートした「Kotler Award Japan 2019」。昨年は、日本初開催としてNewsPicks本社(東京・六本木)でマーケティング戦略のすぐれた企業を表彰。表彰式では、コトラー教授と多数の共著を持つケビン・レーン・ケラー教授が、最新のマーケティング論を披露してくれた。その講演録をお届けする。ぜひ今年の「Kotler Award Japan 2019」にもチャレンジしてほしい。

マーケティングで重要な3つのテーマ

ケラー 今日はマーケティングを考える上で重要な、3つのテーマについてお話いたします。そのテーマとは、テクノロジーグローバリゼーション、そして社会貢献です。これらはマーケティングだけでなく、ビジネス全体に大きな影響を与えているものです。

モバイルテクノロジーこそ未来だ

まず最初は、テクノロジーついて取り上げたいと思います。テクノロジーにおいては、「ミックス&マッチ」という観点が大切です。デジタルやモバイルテクノロジーと、既存のコミュニケーションである広告やイベントなどをどう織り交ぜていくかを考えないとなりません。
特にモバイルテクノロジーは、「未来」そのものです。私たちは買い物をはじめ、さまざまなことをモバイルで行っています。これは単に、5年前、10年前の携帯がデジタルに変わったという単純なことではありません。
消費者心理、消費者行動が、モバイルの登場で大きく変化したことは、学術的な研究からも明らかです。これから私たちはモバイルテクノロジーをどう扱うのか。重要な課題となっています。

データに翻弄されないマーケティング

では、テクノロジーとマーケティングの関係から何が学べるのか。ノンテクノロジーとの関わりはどうなるのでしょうか。
テクノロジーマーケティングでは、消費者がそのプロダクトやその価値を十分に理解していることが大切です。それが価値観や価値の創造へと繋がっていくのです。
また、デジタルと人間的な部分のバランスをうまくとることも必要です。Adobeではリアルなイベントを多数開催し、その結果、利用者がどんどん増えているという事例もあります。人と直接会って話したり、知り合うというリアルなコミュニケーションの価値を忘れないことです。
最後に、長期的なブランド構築と短期的な利益を考えるとき、データだけを追いかけているのではダメだということです。データに翻弄され、核となるマーケティンやグ戦略をおざなりにすることは大きなリスクを生むでしょう。

エンゲージメントの低いボトム層こそ重要

「ブランドエンゲージメントピラミッド」というモデルがあります。
一番上が、ブランドを本当にエンゲージメントしている消費者ですが、その人数は全体からするとごく一部です。消費者全員からブランドへのエンゲージメントを得ることは不可能です。ピラミッドのボトムはブランドへのエンゲーメントは高くありませんが、数としては多数派となります。
このピラミッドをもとに情報をどう届けるのか、各層に向けてブランドを構築するにはどうすればいいのかを考えなくてはなりません。特にボトム層にもきちんとアプローチをし、飽きられることがないようにする必要があります。
アメリカの消費財メーカーのジェネラルミルのCMOは、このモデルについて「私たちはトップ層の消費者ばかりを気にしていたが、ボトムの基盤となるお客さまを忘れていた。利益率を上げるには、このボトム層こそが重要だ」と語っています。

グローバル化はショートカットできない

二つ目のテーマはグローバルです。グローバルというのは、昔からあるテーマであり、難しい課題です。異なる市場で、いかにブランド・マネジメントをしていけばいいのでしょうか。
第一には、ダイバーシティを受け入れることです。マーケットは国の違いだけではありません。ひとつの国の中でも、いろいろな文化の違いがあります。特にアメリカはそれが顕著で、アジア系、アフリカ系、ヒスパニック系など多様な文化が存在します。
ダイバーシティとは、さまざまな文化や言動を受け入れるということです。そもそも自分の国であっても、消費者は地域や文化によって行動が違うものです。まずはそこに気づくことが、グローバル化の第一歩となるでしょう。
第二に、グローバル化を近道して実現しようとするのは、危険であるということです。ホームマーケットで成功すると、早急にグローバル化をして目先の成功を得ようとしがちです。そのブランドがほかのマーケットではまだ十分浸透していないにも関わらず、です。
ブランド構築に近道はありません。一歩一歩積み上げる長期的な取り組みが、グローバル化には必要となります。
第三に、昔からある言葉ですが、「シンクグローバル アクトローカル(グローバルで考えて、足元から行動する)」という姿勢です。
グローバルでブランドを展開するのであれば、マーケットごとに戦略は変えていかなくてはなりません。例えばコカ・コーラの「オープン・ハピネス」という世界的なキャンペーンでは、それぞれの国ごとにマーケティングキャンペーンが違います。
各国のバランスをどうやってとっていくのか。非常に難易度が高い問題です。

社会的責任を果たすには「何を、どうするか」

最後のテーマは社会貢献についてです。社会貢献は世界的トレンドとして、その意義が拡大しており、今後も重要性なテーマとなっていくでしょう。企業が社会的責任を果たすには、何をすればいいのか、どうやればいいのかが大きなポイントです。
まず、ひとつめの課題は、どうしたら行動をブランド化できるかということです。自らの利益のためだけでなく、「他者や社会のためにやっていることである」ということをきちんと認知してもらうということです。
もうひとつはブランド構築モデルが必要であるということです。例えば、商品・サービスを購入すると、環境保護や社会貢献の寄付につながること訴求するコーズ・マーケティングがあります。これは、社会的責任と、ブランドや企業イメージアップというベネフィットと結びついています。
そういった何らかのブランド構築モデルを持つことが、企業の社会的貢献にとって大事でしょう。これは、必然的にサスティナビリティや環境という結論に行き着きます。
ただし、それをどんな方法でやるのかは、依然として問題です。どうやったら自分たちの社会貢献活動がブランド価値となるのか。まずはそこに気づくことが大切です。

マーケターはオーケストラの指揮者

最後にみなさんにお伝えしたいのは、マーケティングの最大のテーマは「ミックス&マッチ」であるということです。
優れたマーケターは、オーケストラの指揮者のようなものです。指揮者の指揮によって、各パートの楽器が正しい音を出すことができ、美しい交響曲となります。指揮者が音のバランスをコントロールしなければ、それはただのノイズでしかありません。
マーケターも、さまざまな部門や要素をバランスよくコントロールしながら、マーケティング戦略を練っていく必要があるでしょう。
(編集:久川桃子 撮影:北山宏一 デザイン:星野美穂)