ロイヤル・カスタマーを生むカスタマー・ジャーニー

2019/7/11
フィリップ・コトラー氏が提唱する「マーケティング4.0」。前編に引き続き、後編では、デジタル・マーケティング時代の新しい「カスタマー・ジャーニー」を解説する。
顧客を強力なブランド推奨者にする
接続性と移動性が進むデジタル社会において、顧客といかに有意義なつながりを築くかは、企業にとって重要なテーマだ。
タッチポイント(ブランドと顧客との接点)やメッセージ量の増大が必ずしも影響力の増大にはつながらないことを、企業は理解する必要がある。

必要なのは、他社より目立つこと。そして、ごく少数の重要なタッチポイントで顧客と有意義なつながりを築くことである。

──『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』(朝日新聞出版)より(以下、同)。
企業は、まず顧客が購入に至るまでの「カスタマー・ジャーニー」のマップを作成し、全体のタッチポイントを理解することが重要となる。その上で、最適なポイントで最もよい介入の仕方をしていかなくてはいけない。
そのためには、チャネルの存在感を強化し、顧客とのコミュニケーションを深めること。また、顧客インターフェースの改善も必要だ。それらを通して、最終的には顧客にブランドの「最良の推奨者」となってもらうことを目指さなくてはならない。
「5A」時代のカスタマー・ジャーニー
カスタマー・ジャーニーのフレームワークは、これまで認知(awareness)・態度(attitude)・行動(act)・再行動(act again)という【4A】で考えられてきた。顧客はブランドを知り(認知)、好き、もしくは嫌いになり(態度)、購入するかどうかを決め(行動)、リピート購入を検討する(再行動)。
4Aフレームワークの特徴としては、まず顧客の数はファネル(漏斗)で次の段階に進むほど減るということあがる。また、企業のタッチポイントが、顧客の意思決定に大きく影響与えることもそうだ。
しかし、デジタルが進化した接続性の時代の新たなカスタマー・ジャーニーでは、認知(aware)・訴求(appeal)・調査(ask)・行動(act)・推奨(advocate)の【5A】のフレームワークをコトラー氏は提案している。
この5Aのフレームワークについてコトラー氏は、次のように述べる。
新しいカスタマー・ジャーニーは、必ずしも固定的な漏斗ではなく、顧客は5つのAを必ずしもすべて通り抜けるわけではない。

したがって、認知から推奨までの道筋は、それぞれの段階を通り抜ける顧客の数という点で、広くなったり狭くなったりする可能性がある。
顧客を推奨に進ませる「自身・他者・外的影響」
マーケティング4.0の究極の目標は、5Aのカスタマー・ジャーニーで「認知」から「推奨」へと、顧客を進めていくことにある。そのために必要となるのが、3つのOゾーンだ。
5A全体で顧客が最も影響を受けやすいのは、調査と行動の段階である。

調査段階では、顧客は少数のブランドに関してアドバイスを求め、他者や外部の影響からできるだけたくさん情報を吸収する。調査段階はマーケターにとって、ブランドの好感度を上げるチャンスになる。

行動段階では、顧客はブランドに対する自分自身の知覚を時間とともに形づくる。この段階では、購入を勧める外的圧力はもはや存在していないので、顧客は自由な心理状態にある。

消費・使用中に、より強力な顧客経験を提供するブランドが、好まれるブランドになるだろう。
3つのOゾーンから外的、他者、自身のそれぞれの影響度がどれくらい重要かを判断することで、マーケターはより効率的で効果的なマーケティング活動が実践できる。
競合との差別化を決定づける「ワオ!」
マーケティング4.0の究極の目標は、顧客を推奨者へ導くことだとしている。顧客を推奨者へ導くものとして、コトラー氏は「ワオ!」が必要だと語る。
「ワオ!」とはいったいどういうことか? それは、言葉にできないほどの喜びを経験させてくれる、そんな製品やサービスに出合ったときの感情だ。そして、それは競合との差別化を決定づけるものとなる。
すばらしい製品やすばらしいサービスがコモディティ化しているマーケティング4.0の世界では、ワオ要因こそが、ブランドを競争相手と差別化する要素である。

企業やブランドは、ワオの瞬間を決して偶然に任せてはいけない。戦略をデザインし、インフラやプロセスを組み立てて、スタッフを教育して、5Aの最初から最後までワオを提供することが可能なのだ。
「ワオ!」の具体的な構成要素は3つにまとめられる。
私たちは、意外性を持つ「ワオ!」は偶然の産物と考えがちだが、決してそうではない。企業が綿密なマーケティングを練ることで、計画的に「ワオ!」を引き出すことは十分に可能だ。
企業やブランドは、顧客に「喜び」「経験」「エンゲージメント」という3つの段階のワオを与えることができる。最初にあるのは製品やサービスを使うことの喜び、その次に魅力的な顧客体験の提供。さらに最も高いレベルのワオになると、顧客は企業に強い愛着というエンゲージメントを築くようになる。
コトラー氏は、著書『コトラーのマーケティング4.0』で次のように結んでいる。
成功する企業やブランドは、ワオの瞬間を偶然に任せたりはしない。ワオを意図的に作り出し、顧客を認知から推奨へ建設的に導いていく。

顧客とのインタラクションを、喜びから経験へ、さらにエンゲージメントへと、創造的に高めていく。あなたのブランドは、そのひとつだといえるだろうか?
伝統からデジタルに進化する「マーケティング4.0」とは
(編集:久川桃子 デザイン:堤香菜)